658話 奇跡を信じる……
探しても生存者はいなかった。周りは魔力反応がなく察していたが……それでも奇跡を信じた。
「辺境伯様――ブラントン様はどこにいるのです!?」
サーシャは必死に辺境伯を探していた。
風魔法で瓦礫の山をどかしても辺境伯の姿なんてなかった。
それに……グランドマスターもだ。
長時間探しても見当たらないのは――俺たちがわからないように隠滅したか……、2人の首を証拠として帝王に持っていった可能性がある……。
あくまで可能性だ……敵を撹乱させて逃げていればいいが、手がかりなんてない……。
「もう探してもいないぞ……。気持ちはわかるが、今日はもう引き返すぞ……。亡くなった者は俺が運ぶ――」
そう言ってアンバーは手をかざし、遺体が消えていった。
【アイテムボックス】に入れたか。
「はい……」
サーシャはわかったのか、諦めてしまう。
やることはやった。あとは脱出した者に詳しく聞かないとわからない。
俺たちは城に戻り、報告をした――。
「そんな……お父様……」
シェルビーが真っ先に駆け寄るが、サーシャが首を振ると、泣き崩れてしまう。
王子も悔し涙を流して――。
「――――ちくしょぉぉぉ!」
大声で叫んだ。慰めの言葉なんてかけられない……。
余計に落ち込んでしまう。
「みんな、ありがとう……。遺体は僕たちで埋葬するよ……」
アンバーが遺体を置くと、騎士たちが運んでいった。
俺たちができるのはここまでだ。
「それで、ディカルド……今後はどうするつもりだ? 策がないならオレたちは動くぞ」
「魔王さん……少し待ってください……。脱出した者に事情を聞きたいです……。それが終わってから決断します……」
「はぁー、仕方がない。わかったよ。もし、決断しなければ準備をして1ヵ月後には動くかならな! いいな?」
意外に猶予を与えているな。
アンバーだったらすぐに出発できるが、気を遣っているのか?
これもアンバーの優しさでもある。
「はい……お願いします……」
「お前は十分頑張った。部下に頼んで少しは休め!」
「そうさせてもらいます……」
王様はここ最近バタバタして疲れが溜まっている。
もしかして判断が鈍っている状態だから待つのかもしれない。
「主様……、ワタシク……城に残ってもよろしいでしょうか……?」
メアはシェルビーのケアをしたいようだ。
友人として放っておけないよな。
「わかった。落ち着くまでそばにいろよ。もし、ダメだったら俺の領地に呼んで休ませてくれ」
「ありがとうございます……」
ここはメアに任せるしかない……。
後味が悪すぎる結末で俺は領地に戻った。
俺が戻ると、エフィナが駆け寄ってきた。
俺の顔を伺って察して――。
「そうか……。大変なことになったね……」
「まだハッキリとわからない……。奇跡を願うしかない……」
「じゃあ、わからないなら落ち込んちゃダメ! ちゃんとした情報が入るまで落ち込んでいてはいけないよ! つらい人に失礼だよ!」
エフィナの言う通りだ。まだわからないのに落ち込んでいるのは失礼だ。
「そうだな。確認が終わるまで落ち込まない」
「うん、焦らず結果を待とう!」
まだ未確認のままだ。俺は生きていると信じよう――。
その後、気になっていたヴェンゲルさんに伝えると――。
「あの大バカ野郎……無茶しやがって……。だが、遺体がなければ生きていると思っている」
「デムズさん生きていると思っているのですね」
「当たり前だ! アイツとは長い付き合いだ。勝手に戦士する奴ではない。情報が足りん、悪いがアスタリカに行かせてくれないか? 生き残りにいろいろと聞きたい。あと、ヤーワレにも用がある」
信じてるのはすごいな。やはりまだ確信がないから言えるのかもしれない。
俺もヴェンゲルさんを見習わないと。
俺もみんなから聞きたいことがある。そう、勇者のことも……。
少人数で倒されるほどとはいったい……。
俺とヴェンゲルさんはアスタリカに向かう――。




