657話 辺境伯の危機
『どこまで聞いた? 辺境伯は無事なのか?』
『侯爵から聞いただけだからまだ詳しくはわからないみたい……。城に来てほしいってよ……』
『わかった、すぐ行く――』
『主様、ワタクシも行きます――』
メアも気になって仕方ないか。おそらくシェルビーが気になるか……。
俺とメアは空間魔法で王城の庭に着くと、役人であるジェストが待っていた。
「急な呼び出しで申し訳ありません。こちらへ――」
前回呼ばれた部屋に案内され、中に入ると――王様は頭を抱え、アンバーは腕を組み、シェルビーは泣き崩れ、サーシャが宥めている。王子は拳を地面に叩いていた。
みんな無理もないか……。
「あの……」
「ああ……来たね……。急に呼ぶ出してごめんね……」
「いえ……大丈夫ですよ……。それで……」
「エメロッテさんに伝えた通り……クレメス辺境伯が負けたみたい……」
「おい、負けたみたいじゃなく、負けたんだよ! 逃げたやつが証言しているなら認めろ!」
アンバーはキツめに言う。ずっと待たされて負ければご立腹だな。
「魔王……それ以上はおやめなさい……。娘――シェルビーの前では控えろ……」
「わかっている! だけどな小娘、オレが行けば負けはしなかった! これからどうするんだよ!」
アンバーが言っていることは結果論でしかない……。正論とは言い切れない……。
「僕のせいだ……。僕の判断だから……フレリット君……シェルビーさん……僕の責任だから責めてもいいんだよ……」
「陛下は悪くはない……。ここまで尽力してくれた方を責めるのは愚かだ……」
「お父様の判断です……。陛下……お気になさらず……」
王様は悪くないが、2人ともこの結末は望んではいない……。
「あの……どこまで知っていますか……?」
「ククレット侯爵から聞いた話だと……。急に戦況が不利になって……みんな戦うのが困難になり……辺境伯とデムズグランドマスターが囮になって……レイ君が用意してくれた船である程度脱出した……。無事にアスタリカまで移動できて保護した……。脱出した者によると……少人数の勇者に大半を残虐されていたとか……」
少人数の勇者って……、この前言っていた勇者とは違うよな……。
そうすると、強い勇者を送り込んだ可能性があるってことか。
脱出した者に詳しく聞きたいが――。
「俺が様子を見に――シンガードに行きましょうか?」
「お願いしますレイ様! お父様を安否確認をお願いします! どうか…どうか…」
シェルビーは必死に俺に頭を下げてお願いをする。
「落ち着いてくれ、話しを聞いたときからそのつもりだ。頭を上げてくれ」
「ありがとうございます……」
「もちろんワタクシも行きますこと……。相手は強敵ですので……」
「今回は偵察だ。だが、帝国軍が手薄ならやるかもしれない」
「なら、オレも連れていけ、もう我慢できん」
「私もお願いします。あなた様の足手まといにはならないと思います」
メアに続いてアンバーとサーシャもか。
言っても聞かないだろうし、連れていくか。実力もわかっているしな。
「わかった。仕掛けるときは俺が合図する。それまで変な行動はするなよ」
3人は迷いなく頷いた。
「みんな……お願いね……。僕は見送ることしかない……。本当にごめんね……」
「気にしないでください。では行ってきます――」
俺たちは「ゲート」を使い、シンガードから少し離れた場所――森の中に移動した。
さっそく【隠密】で――あれ? シンガードの方には魔力反応がなかった。
みんな、気づいては駆けつけると――見えてきたのは、厳重になっていた防壁がすべて粉々に粉砕され、周りは瓦礫の山と……戦った命を落とした者の死体が倒れていた……。これは酷い……。
「そ、そんな……」
サーシャは悲惨な光景を見て膝をついてしまった。
「メイドよ、そんな暇はないぞ……。確認するぞ……」
アンバーの言う通りだ。この中に生き残っている者もいるはずだ。可能性はまだある。
俺たちは瓦礫をどかしながら生存者を探す――。




