63話 Sランクの魔物
――仮眠を取り、真夜中になった。
暗くて見えないな……光魔法を使う――。
「――ライト」
――周囲を明るくした。
「ありがとう、レイちゃん。ここからは油断禁物よ、慎重に行くわよ」
「わかりました」
「承知いたしました」
現地まで少し距離があるが何があるかわからないから、ここは歩いて進む。
――1時間後。
【魔力感知】で大きな反応が出た――2人も気づいたようだ。
「反応が出ましたけど、ライト解除しますか?」
「ええ、お願いするわ。戦闘の準備してね」
ライトを解除して、氷魔法を使う――。
「――――アイスソード」
氷の剣を左手に持ち、反応がある場所に進む――。
波の音が聞こえる――海辺に着いた。
久々の海だが暗くて見えない――この討伐が終わったらゆっくり見たいものだ。
しかし……カイザーオクトパスはいない――大きい反応からすると海の中だが、そう遠くではない。
これは様子見かな?
「どうしますか?」
「少し明るくするわ――ライト」
セーレさんは光魔法を使い、周りを明るくして――辺りを警戒をする。
「やっぱり海の中にいるわね……一旦待ちましょう」
『雷魔法使えばすぐに出てくるのになんで?』
『状況的に不利だからだ。真夜中に雷魔法を使ってほかの魔物も驚いてこっちに来てしまったら大変だ。まあ、このメンバーなら大丈夫だと思うが、セーレさんは危険な真似はしないから』
『ふ~ん。あの商都のギルドマスターの親戚だから豪快な性格と思っていたら真逆だね』
『Sランクの魔物だからしょうがないだろう』
『そうだね! 慎重にいかないとね! でもこのままでいいの? 別の場所に行ってしまう可能性はあるよ?』
エフィナの言う通り待っていてはどこかに行ってしまう。
けど、夜だからむやみやたらに行動はできない。
――様子を見て、夜明けを迎える時間になった。
視界も明るくなってきた。
「ごめんね……夜行性だから陸に上がって来るのかと思ったけど……そうではないみたい……」
「大丈夫ですよ。相手は魔物ですからどこに出てくるかわからないですし」
「私もそう思います」
「そうね……そう簡単にはいかないわね……もう少し様子を見ましょう」
――朝になった。
どうもおかしい……大きな反応は夜から微動だにしない。
これって…………寝ていているのか?
「セーレさん……もしかして……」
「……寝てるわね」
「ですよね……」
「私が目覚ましに一発お見舞いしてもいいですか?」
アイシスは珍しく積極的だな。どうした?
「それは嬉しいけど距離があるわ……」
「お任せください。戦闘の準備をお願いします」
アイシスは氷魔法を使った――。
「――――アイスウォール」
海に氷の壁を創り壁上に飛んだ――。
そして繰り返し――「アイスウォール」で壁を創っては飛び移る。
反応の近くへ着いた。
器用なことしますね……。
「アイシスちゃんって……頭がいいわね……さすが、賢者の弟子だわ」
セーレさん、それは違いますよ……。
再びアイシスは魔法を使う――。
「――――アイシクルランス」
鋭い氷の槍を海に目掛けて投下し――その衝撃で大きく波が立つ――。
そして――長い触手に氷の槍が刺されたまま赤茶色をしたタコみたいなデカブツが姿を現した。
「間違いないわね! カイザーオクトパスよ!」
デスキングクラブより一回りデカいな……。
カイザーオクトパスは怒っているのか、アイシス目掛けて大きな触手で叩こうとする――。
アイシスは躱して、先程創った、氷の壁に次々と飛び移って戻ってきた。
「お待たせいたしました。これでよろしいでしょうか?」
「ありがとう、アイシスちゃん! さあ、思う存分暴れるわよ!」
カイザーオクトパスはこっちに向かってくる――。
「デカいのいくわよ! みんな、わたしから離れないでね!」
セーレさんは大きく魔力を込める――。
これは……上級の雷魔法だ。
「――――サンダーボルト!」
――カイザーオクトパスに大きな雷撃が直撃した。
だが……動きが少し動きが鈍くなっただけだ。
噓だろう……。
「そう簡単には倒れてくれないわね……」
『もしかして触手で雷を外に放出しているみたいだね』
『アイシスが傷をつけたがそれでもか?』
『いや、違うよ! アイシスのおかげで少しは効いている感じかな!』
『だったら触手を切れば雷魔法も効くってことか?』
『そうだね! けど、陸に上がったら火属性の方がいいかもしれないよ!』
ってことは火属性が弱点か。
だったら――。
「――フレイムアロー!」
触手目掛けて火の矢を放つ――すんなりと刺さり、カイザーオクトパスは痛いのか刺さった箇所を地面に叩きつけ消している。
これは効いている。
「セーレさん、火属性がいいみたいですね」
「ええ! これならいけるわ! レイちゃんとアイシスちゃんは戦い方は任せるわ! 私は火魔法を主に使って戦うわ!」
「わかりました」
「承知いたしました」
それなら俺も火魔法で援護するしかない。
思いっきり魔力を込め――。
「――フレイムバインド!」
カイザーオクトパスの全身火で拘束をした――暴れているが海に逃げないようにしっかり固定する。
「キツイのいくわよ! ――――フレイムナックル!」
――セーレさんが放った炎の剛球は胴体に直撃をした。
これならかなり効いたはずだ。
だが、カイザーオクトパスの魔力が膨大になり――火の拘束が解除され、元通りになった……。
アイシスが攻撃した箇所も治っている……マジかよ……。
『再生能力に長けているね……だけど魔力消費は激しいから徐々に回復するのが遅くなるよ』
再生能力か、それはまた厄介だな……長期戦は回避できないか。
「まだ始まったばかりよ! 気を引き締めていくわよ!」
「では、私は触手を狙いますね」
アイシスは氷を付与した銀の大鎌を創造した――。
大鎌を持ちながらカイザーオクトパスに近づき――。
「――――豪氷華」
――振り上げた大鎌は触手を切断した。
しかし切った箇所がすぐに再生する。
アイシスは繰り返し大鎌で切りつける――。
俺とセーレさんは魔法を使い援護をする――精霊も魔法を使う――。
「――――ウインドランス」
風の槍を目に向けて放ち――直撃するがまったく効いていない。
『このタコは風属性の耐性があるのかもしれない』
それを聞くと精霊は顔を膨らした。
風に耐性があるとか意外だな……。
カイザーオクトパスは暴れ始め――大きな触手で一心不乱に地面を叩き地響きがなる。
アイシスが退避する。
こちらに向かってくる――触手で俺とセーレさんを叩こうとするが、すかさず魔法を使って対処する。
「――――アイスシールド!」
大きな触手を氷の盾で防ぐ――攻撃自体は防げる範囲で安心した。
「レイちゃん、ありがとう! 魔法の発動が速くて助かったわ!」
「精霊と一緒に離れてください! 何が来るかわからないので!」
「わかったわ! 精霊ちゃんこっちよ!」
セーレさんと精霊はこの場を離れて――俺もタイミングを測って離れる。
アイシスが来て――大鎌で防いでいる触手を切断した。
「ご主人様もこの場から離れてください」
「助かった。アイシスも無理をしないように」
「問題ありません」
カイザーオクトパスからある程度距離を置く――。
「――――フレイムランス!」
セーレさんが火の槍を放ち――胴体に刺さったがすぐに治る。
あれだけ再生しているのにまだ魔力が尽きないのか……。
だったら弱点である火属性を当て続けるまでだ。
無限収納からマナポーションを出して飲み――体制を整える。
まだ火属性は初級しか使えないが数で勝負だ――。
「――フレイムアロー!」
火の矢を放った後、再び――。
「――フレイムアロー!」
繰り返し同じ魔法を当て続けた――。
「レイちゃん! 初級とはいえ、そんなに使って大丈夫!? 私が引き受けるから少し休んで!」
「大丈夫ですから! ――――フレイムアロー!」
すると火の矢が変化して――槍になり胴体に直撃した。
この感覚、まさか……試してみるか――。
「――――フレイムランス!」
火の槍を放ち――胴体に深く刺さる――威力も申し分ない。
これで火魔法は中級を覚えた。
『中級を覚えたね! これであのタコとも楽に戦えるはずだよ!』
「レイちゃんが火の中級魔法を使った……スゴイわ! 氷と風もスゴイけど、この年で3つの属性中級以上使えるなんてスゴイわ!」
やっぱり普通はあり得ないですよね……。
それじゃあ、ここから一気に攻めますか――。
「――――フレイムソード×2」
火の剣を両手に持ち、カイザーオクトパスに近づき――触手を狙う。
「――――絶炎!」
触手を切断し――焼き跡がついた。
再生はしていない。魔力が尽きたか。
『切断したところが焼けて再生できなくなったみたいだね!』
なるほど、だったらこのまま繰り返すまでだ。
――俺は「絶炎」で触手を切断をし、アイシスは援護に回りを氷魔法を使う。
セーレさんは火と雷を交互に使い攻撃をする。
カイザーオクトパスは傷だらけになり、再生する魔力が尽きたようだ――海に逃げようとする。
させるか――。
「――フレイムバインド!」
火の拘束で足止めすると、逃げようと暴れ始める。
無駄だ、さっきより威力が上がっているから抵抗は無意味だ。
「セーレさん! とどめをお願いします!」
「ありがとう! レイちゃん! 渾身の一撃をお見舞いするからみんな離れてね!」
セーレさんは今までより大きく魔力を練っている、上級の火魔法だ。
「――――エクスプロージョン!」
――上空から爆炎が落ち、周囲は爆撃音と共にカイザーオクトパスに直撃した。
――カイザーオクトパスは丸焦げになり、倒れた。
「……やったわ! カイザーオクトパスを倒したわ! みんなありがとう!」
セーレさんは喜んで飛んでいるが大丈夫だろうか……。
最後の魔法でほとんど魔力を持っていかれたけど疲れてはいないのか……。
「試験監督さん! これでいい?」
「少々お待ちください」
目の前にガレンさんが現れた。
カイザーオクトパスの近くにいき――確認する。
「セーレさん、おめでとうございます。試験は合格です。今日から貴方はSランク冒険者です」
「やったわ! これで叔母さんを見返すことができる!」
無事にSランクに昇格して良かった。
こちらもおかげさまで火魔法中級を使えるようになった。
まさか、このタイミングで中級が使えるようになるとは驚いた……。
まあ、喜んで有効活用しますけどね。




