628話 最悪なタイミング
「阻止できなかったってことは……」
「ズイール大陸――帝王のところに召喚されたわ……」
ティーナさんは顔が真っ青で言う。
最悪なタイミングだ……。
「急ですね……。大丈夫なはずだったのに……」
「それが……レイたちがいなくなった瞬間に、次元が歪んで……魔法陣にヒビが割れて……ソシアが頑張って立て直したけど……。あっちも力を入れてきて無理やりこじ開けて……阻止できなかった……」
そのタイミングってことは――禁忌野郎が持っていた石は転移させるだけではなく、 次元を歪める強力な石だったか……。
俺を世界からいなくさせるだけでなく、勇者召喚もさせる目的だったか……。
グリュムの野郎……姑息なマネを……。
「ですが、勇者が来て日が浅いはずです。まだ動きは――」
「それが……もう動いているわ……。今は辺境のとこで戦っているはずよ……」
もうかよ……いや、邪石を使えば即戦力にはなるはずだ。
「ほかのみんな――魔剣たちはどうしましたか?」
「みんなレイたちを捜してバラバラよ……。連絡が取れない状況よ……ごめんなさい……もっと早く私が気づいていれば、こんなことに……」
「そうよ、ティーナちゃんがしっかりしていなければ、ソシアちゃんのことも、レイちゃんのことも伝えらたのよ。全部ティーナちゃんが悪いわ。そのおっちょこちょい直したほうがいいよ」
「なんで全部私のせいなのよ!? バーミシャルもしっかり言いなさいよ!? あなたも言わないから大混乱が起きたじゃない!? というかこんな大事なときにレイたちを巻き込むんじゃないわよ!?」
2人とも言い争っているが、タイミングが悪すぎただけだ。
女神だってこんなこと予想できないだろう……。
「2人とも争っている場合ではないぞ。それで、コトハとナノミを救ったぞ。儂らはちゃんと帰れるんだよな?」
「もちろん、約束だからグランシアに戻れるよー」
「そうか。あと、もう一つコトハとナノミが日本に帰りたいと言っていたぞ。そこも頼むぞ」
「えっ!? 日本に帰りたいの!? う〜ん、それは無理なお願いね……」
「は? 儂らは帰れるのになぜ無理なんだ?」
「それは深い訳が……」
シャルさんは険しい顔して黙ってしまう。
日本はまた別なのか?
「ライカ、正式な勇者召喚――女神以外にやる不正式な召喚は違反なの……。召喚された子も違反者として扱われて元に帰らせることができない……。それと、違反したから元のにいた世界とつながっていた糸が切れてしまって、簡単には無理よ……。いくらバーミシャルが優秀でも無理……。迷い人ならつながった状態だから戻せるけど、今回のは女神に頼れないと思って。あと、地球は私たちの世界と遥かに遠いからできても一から糸を結びつける必要がある。そこをわかってちょうだい……」
そんな制限があるのかよ……。
あまりにもコトハとナノミは一方すぎて理不尽である……。
「そんな……じゃあ2人は我慢して残れというのか?」
「そのことなんだけど……レイちゃん……2人を連れてグランシアで面倒を見てくれる?」
「えっ? 違反になったなら違う世界もいけないのでは?」
「それはまた別だよ。ただ地球には帰られないけど、グランシアと私の世界は近いから簡単に送ることができるよ。今度は正式なやり方でだから大丈夫」
制限が複雑ですな……。とはいえ、俺の領地なら安心ではある。
変な頼みではないし、引き受けよう。ただ――。
「シャルさん、もしかしてはじめからそうしようとしましたね」
「うーん、考えていたようなー、いないようなー感じかなー。コトハとナノミ次第ってわけでー」
当たり障りのない応えだ。まあ、正直に言っているから腹黒さがないのは確かだ。
「わかりました。面倒を見るので安心してください」
「ありがとうー。さすがソシアちゃんのお婿さんー」
「ちょ、あなた何を言ってんのよ!? 変なことレイに吹き込んだでしょ!?」
これはティーナさんに言ってはいけない発言ですな……。
「別にーただ言っているだけだよー」
「それならいいわよ。しかし……今思うと、バーミシャルが不正式の召喚を止められなかったのは意外だわ。ソシアより優れて防ぐはずなのに……」
やはりシャルさんは不正を防止は得意であったか。
「そうなのよー。完璧に防いだはずなのに、急に、時空が歪んで魔法陣がひび割れたの……」
「ふーん、そんなわけかー。って……今さっきなんて言わなかった……?」
「だからー時空が歪んで……あっ……」
おいおい……なんの冗談だよ……じゃあコトハとナノミを召喚できたのはグリュムの仕業なのか……?




