618話 一度限りの魔剣
俺の左手には魔力を纏った透明な剣を持っている。
剣としては未完成だが、【魔剣創造】としては完成である。
ほかの魔剣と同じように創造してしまうと、命にかかわる可能性があるからだ。
媒体や身体にエフィナがいないければ、俺に相当な負荷がかかる。
だから最小限魔力を抑えた一度限りの魔剣を創造した。
コトハとナノミを解放するためだけの魔剣だ。
「少々怖いが痛みがないから安心してくれ――」
俺は透明な剣を、コトハとナノミの紋章――腹に当てる。
当てた瞬間に身体をすり抜けた。そう、魔力だけの魔剣だから傷一つつけない。
そして、紋章が消えて強制的に流し込まれた魔力も消えて2人はおとなしくなる。
これで2人は法王の奴隷から解放された。
創造通りの性能だ。触れたものすべて無効にする魔剣だ。
どんな強力なスキルも魔法も任意があれば無効にする。
「えっ……隷属の紋章が消えた……」
「お腹の痛みも消えた……」
「2人ともあのバカの言うことなんて聞かなくていい。もう自由だ。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとう……。なんてお礼をしたら……」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
涙を流してお礼を言った。
とりあえず、ひと段落して無効の魔剣が消えていく。この子は限界だったか。
今回限りの魔剣で自我はないが2人を救ってくれてありがとう。
「ど、どういうことだ!? 隷属の紋章が消えた!? いったい何をした!?」
法王が急に立ち上がった。
【再生】スキルがあるとはいえ、カイセイの「覇閃斬」を食らってすぐに立ち上がるとは、ゴキブリ並みの生命力だ。
「お前、それしか言ってないな。どうせ教えてもわからないだろう」
「ふざけるなぁ! だが、残念だったな! 消されたらまた刻めばいい」
「「い、いや……」」
法王はコトハとナノミに手を向けて魔力を出してスキルを発動させているようだが、何も起きない。
顔を真っ赤にして力を入れても何も起きない。
「なぜだ!? なぜ【奴隷契約】が発動しない!?」
「2人にはお前のスキルを干渉させないようにしている。何度やっても無駄だ」
「ふざけるなぁ! そのようなことがあってたまるか!? 俺は絶対的な存在だ!?」
「もうお前に勝ち目はない。渾身の一撃を受けて見ろ――――断絶天衝!」
カイセイは高く飛び、膨大な魔力を剣に集中させ、法王の頭上を目掛けて襲う――。
魔力全部を剣に送り込んだか。さすがの法王もこれには耐えられない。
なんだかんだカイセイも最後まで切り札を取っておいているじゃないか。
勝負あった――。
しかし、法王は不気味な笑みを浮かべている。
すると、魔力らしき無数の球体が法王に集まる――吸収されている。
マズイ――。
カイセイの渾身の一撃は素手――片手で受け止められ防がれてしまう。
しかも、法王の姿が20代くらいに若返って筋肉や背が大きくなっている。
「な、何が起きている……」
「フフフ……ハハハハハ! これが俺の真の姿だ!」
「カイセイ、すぐ離れろ!?」
「えっ? ――――ガハァ!?」
法王はそのままカイセイの腹を軽く当てただけで、吹き飛んで壁に食い込まれる。
「大丈夫か!?」
「はい……なんとか……えっ……噓だろ……」
ふらつきながらも立ち上がったが、顔が真っ青になった。
「レ、レベル5429……オールSSSだと……」
レベルが上がっただと……。何をしたかわからないが、反則的なものを持っているとはな……。
そう簡単には終わらせてくれないか。




