617話 呆気ないと思ったが――
「弱腰が……なぜ後ろに……前にいる奴は誰だ……」
「ああ、これか。闇魔法だ。まさか初級魔法を見抜くことができないのは意外だな」
俺は闇魔法で創ったカイセイの幻影を消した。
【魔力感知】で中身のない存在だとわかるはずだが、俺の思い違いか――法王は俺を見て強いと警戒していると思ったが、たまたまのようだ。
しかも、カイセイの【隠密】に気づかないのは、とんだ拍子抜けだ。
撤回しよう、法王は【奴隷契約】で頼っているザコだと。
「もう悪行はここまでだ」
「――――ゴハァァァァ!?」
カイセイは剣を抜き、法王は倒れた。
意外に呆気ない。
どうやら俺の出番はなかったようだ。
法王さえなんとかすれば、コトハとナノミは解放…………していないぞ……。
まだ紋章が浮き出ている……。
おかしいことに、カイセイ大剣を食らったのに血があまり出ていない……。
「フフフフ……ハハハハハ! いい気になるなよ! 俺がこれで倒せると思うな!」
普通に立ち上がり、傷口も元通りになっている。
「【再生】スキルか。余計なもの覚えて面倒だ」
「フハハハハ! 俺は不死身だ! 何度倒されても蘇る!」
魔力を減らさない限り、再生するってことか。
「なんだ、物足りないと思ったが、またお前を切れるのは嬉しいぞ!」
カイセイは強がって再び法王に切りつけようとするが、剣で受け止めた。
「不意を突かれたが、弱腰相手に俺に牙を向けるとはいい度胸だ。いいだろう、少し遊んでやる」
法王は剣を振るい、カイセイとやり合う。
しかもお互い引きを取らない――互角ってところか。
だが、相手の方が魔力が多い。カイセイが長引くと不利になる。
俺も――。
「お前たち、そこの魔導士を相手しろ!」
コトハとナノミの紋章が輝き始めると、腰に付けたナイフを取り出して俺に向かってくる。
魔法が発動できないなら肉弾戦と判断したか。
「手加減できないから気をつけて!」
「早く逃げて!」
「悪いが、おとなしくさせるぞ――――クリスタルチェーン!」
地面に無数の結晶の鎖を出して2人を拘束しようとするが、簡単に躱されてしまう。
なんだあのすり抜けるような動きは……判断力も強化できるのか?
「「避けて!」」
2人が近づきナイフで切りかかろうとする。
速い、だけど普通に躱せる。
近距離の戦闘ができることはカイセイの情報にはなかった。
おそらく、これも強化されて無理やり動かされている。
魔法を発動させようとするが、隙を与えてくれない。
少々厄介だが――。
「ちょっと怖い目に遭うが我慢しろよ――」
「「え?」」
俺はコトハの腕を掴み遠くへ投げ飛ばした。続いてナノミも同じようにし、再び結晶魔法を使い拘束――。
「避けて!? ――――サンダーブラスト!」
「ダメェェ!? ――――アイスブラスト!」
空中魔法を発動し――雷撃と氷の大粒が直撃する。
「「い、いやぁぁ……」」
「レイさん!?」
「ハハハハハ! いくら強い魔導士さえタダではすまない! 次は弱腰をやれ――」
「何を思い上がっている? 俺はなんともないが?」
「なっ……」
直撃してもこのくらいは無傷で済む。いくら強化されても魔剣の加護がある限り痛くも痒くもない。
「な、なぜ平気でいられる!? 人が消し飛ぶほどの魔法だぞ!?」
「そう言われても効かないものはしょうがない」
「そのようなことがあってはならん! 再び魔導士をやれ!」
「残念だったな、そろそろ終わりする――――轟光斬!」
「黙れ!? 受けてみよ、これが法剣の力――――法絶剣!」
「……クッ!」
カイセイと法王は互いに光が輝く素早い一振りし、剣が交差し、カイセイが後ろに仰け反った。
このまま続けばカイセイが不利になる。
「お願い止まって!」
「もう戦いたくない!」
再びコトハとナノミが向かってくる。
2人もこのまま続けば体力と精神が壊れる。
ここまでよく耐えてきた。終わりにしてやる――。
「――スロウ!」
2人に時魔法をかけ、身体を遅くさせた。ゆっくり、スローモーションで向かってきている。
まさか効くとは思わなかった。今まであまり実用性がなく使わなかったが、予想以上に効いている。
いや、エフィナが得意から俺も恩恵があるかもしれない。
「何をしている!? 早く動かんか!?」
「無理だ。お前が強化されても魔法には逆らえない」
「よそ見しているとか、王の余裕か? セイクリッドさん直伝――――覇閃斬!」
「――――ヌワァァァ!?」
カイセイは剣を地面に叩き、法王に斬撃が直撃し吹っ飛んでいく。
まさか短期間でセイクリッドの技を覚えたとはやるじゃないか。
さて今度は俺の出番だ。準備は万全だ。一度限りだが、左手に魔力を込めて創造する――。
「――――来い、無効の魔剣!」




