613話 不安な勇者
丘をジグザグの道を進みながら上っている。
もう少しでガンオスマルクに着くのだが、昼なのに周りは薄暗い。
バルバトにに聞くと、昼夜問わず一日中だそうだ。
なるほど、日が当たらない場所ってことか。
グランシアではそういう場所には行ったことがない。
というか、あるかわからない。薄暗くても環境に左右されるわけでもない。
「ここに来ると、気分が嫌になるな……」
カイセイにとっては魔王と戦った場所であり、法王に打ちのめされた場所である。
トラウマが蘇ったようだ。
「しけた顔をしているのさ! 勇者なんだからシャキッとしな!」
アリアナが背中を思い切り叩いて不安を和らげてる。
「いた!? もう少し加減してくれ!?」
「カイセイだけ憂鬱な気分になってどうするのさ。アンタはもう強くなったんだから自信を持ちな!」
「そうだ、勇者が不安なってどうする。あと若者はもっと活気がないとダメだぞ!」
「若者は関係ないだろ!?」
「ガハハハッ! 不安なら俺が持っている酒をやるぞ。それ飲んで吹き飛ばそうぜ!」
「この状況で酒なんて飲めるか!? しかも、ボルックが飲んでいるのは強すぎてダメだ!」
隊長たちは採掘場に残らないで自分勝手だと思ったが、カイセイが心配なのかもしれない。
長い付き合いだし、放っておけないか。
ここで緊張もほぐしてくれるのはいいかもしれない。
それに、法王はカイセイが倒すことになっている。
いわゆるリベンジってわけだ。そこは譲ってくれないのはちょっと困ったが、しょうがない。誰よりもコトハとナノミを救いたいし、誰よりも法王を許さない。
仕方ないが譲ることにした。
危なかったら俺たちで対処するし大丈夫だろう。
コトハとナノミを対処できればなんの問題もない。
それさえできればもぬけの殻だ。
頂上まで行くと、見えてきた――城壁に囲まれた立派な城が。
その周りには鋼色をしたゴーレムが無数徘徊している。
そして膨大な魔力――奴隷強化されているのがわかる。
「こ、ここまでダマスカスゴーレムが製造されてるとは……。じょ、情報に入ってないぞ……」
バルバトがわからないということは最近増えたってことか。
ダマスカス製のゴーレムか、硬度はわからないが、ほかの金属よりは錆びにくいというのはわかる。
そうなるとメンテナンスが楽になるのは間違いない。
ダマスカスか、ゴーレムなんか使用するとはもったいない。包丁に使ったらどれだけ良いのが作れると思っている。
「もったいないですね。1体だけでも錆びない包丁が生涯困らないほどの量が作れるというのに」
アイシスもそう思ったか。やはり、料理する人は考えるのは同じだな。
「そうだな、包丁としてほしいよな」
「はい。ミスリルもいいですが、切れ味が良すぎて切れた感覚がしません。ダマスカスくらいがちょうどいいかと」
「な、なぜ包丁の話をする……。我が軍が誇る最高硬度の兵器だ……。それと戦うのだぞ……」
「ダマスカスくらいなら余裕だ。アイシス、頼めるか?」
「かしこまりました。では、私だけで回収しますのでお任せください」
「ひ、1人だけで!?」
「いつまで驚いている? これが俺たちにとって普通だぞ。あと、みんなが魔力温存できて効率がいい」
「そんなむちゃくちゃな……」
1人とはいっても空にソアレがいるけどな。
バルバトの話では城壁に小型のマジックゴーレムが設置してあるという。ソアレには空から破壊をお願いしている。
周りはセイクリッドに任せようと思ったが、四つ子のこともあるし、遠くで待機させる。アイシスでも十分余裕だ。
場外はこの2人に任せて城に侵入する作戦である。
丘を降りて、森の中へ――。
「いよいよか……待っていろよコトハとナノミ……絶対に解放してやるかならな……」
武者震い? してカイセイは言うが、解放は俺がするけどな……。
空気を呼んでツッコミは入れないけど。
「ハハハ! 不服ではあるが、頼んだぞ! 安全が確認できたならすぐに合流するぞ!」
セイクリッドと四つ子としばしお別れをして、森を抜けて無数がいるゴーレムの中へ――。




