606話 歪んだ正義
間に合うか――。
「――――龍脈!」
地面に手を当て、魔力の脈を法王軍に流した。
だが、ゾルダーたちは心臓を刺して間に合わなかった……。
「聖王様の名の下に!」
帰らぬ人になっても狂ったように刺し続けた。
「もうやめろ!? もう死んでいる奴にそこまで痛める必要はないだろ!?」
「勇者様、聖王様の同盟を破った愚か者ですよ。裁きを下すのは当たり前ではありませんか?」
カイセイが言っても、続けていた。
何を言っているんだコイツは……。
ほかの騎士が駆けつけ止めに入ったが、抵抗してまだ刺そうとする。
「いい加減しろ――」
「「「ひぃ!?」」」
俺は【威圧】を出すと、周りは静まり返り、刺したものは武器を落として怯えていた。
だが、ゾルダーは身体を震えながらも刺そうとするが、カイセイが剣を奪い止めた。
「な、何をするのです……? この愚か者に聖なる裁きを……。こ、この行為は聖王様……そ、そして女神バーミシャル様のためのせ、聖戦……」
『ひ、酷い……私はそんなの望んでない……』
シャルさんは口を震えさせながら言う。
ここは信仰していない大陸なのに声が聞こえるのか。
いや、加護持ちだから大陸関係なく聞こえるのかもしれない。
シャルさんだからこそできるのかもしれない。
「死者を刺し続けるのが聖なる裁きか? これが聖戦とかバカげている。 女神に対しての冒涜にすぎない」
「こ、このくらい……女神バーミシャル様なら望んでいるはず……。喜んで見ています」
「望むわけないだろ、悲しい顔をして見ているぞ」
「そ、そんなはずがない……。そ、そうだ、バーミシャル様はまだ理解していない……。聖王様ための聖戦であることを……そ、そのうち理解してはず……」
ころころ発言が変わっいる……。そんなに自分を肯定したいのか……。
だったら、さらに圧をかけ、その口嫌でも塞いで――。
「―――ふざけるなぁぁぁぁ!」
「――――ゴボォ!?」
急に怒りながらカイセイが拳を魔力――光を纏いゾルダーの顔面を殴って吹っ飛んでいく。
「バーミシャルさんの虐殺を望んでいるわけないだろ!? 失礼にもほどがある。身をわきまえろ!」
やはりシャルさんのことになると頭に血が上って手を出してしまったか。
しかし、ゾルダーは気絶したまま、聞いていない状態だ。
「聞いているのか――」
「それ以上はやめろ」
また殴りかけようとしたカイセイの腕を掴んだ。
「離してください! まだコイツはわかっていません!」
「それくらいでいいだろ。これ以上殴ったらシャルさんが悲しむぞ」
「でも……」
「でもじゃない。気持ちはわかるが、敵地だぞ。ここで無駄な体力と魔力を使うな。あとで影響する」
「わ、わかりました」
俺の言うことを聞き、諦めた。
まだ冷静でいられているのは良いことだ。けど、属性付与した攻撃はあまり良いことではない。
下手すると致命傷を負い今後の戦闘に支障をきたす可能性がある。
とはいうものの、カイセイがゾルダーを手を出したのは面倒になった。
最初の採掘所でおさらばさせようと思ったが、着くまでに仲間割れしてそれどこではない――溝が深くできてしまった。
採掘場まだ遠いし、人数は減るが仕方がない――。
「敵に切りつけた奴はゾルダーを連れて要塞に戻れ。お前たちがいると計画が台無しになる。いいな?」
「「「ははははは、はい!」」」
【威圧】を強くすると、ソルダー組の騎士は震えながら返事をしてゾルダーを抱えて結晶の壁の道を通り引き返していく。
去って行くのを確認して戻ってこないように結晶の壁を解除――崩しておく。
あとは……このまま死体を放置するのは後味が悪い。
埋葬はしないと――。
「なんで……俺の言うことを聞いてくれない……。やって良いことと悪いことがあるのだぞ……」
カイセイは下を向いてやるせない気持ちだった。
たとえ勇者――先導者だとしても聖王に洗脳されている奴に言っても無駄だ。
周りは気にするなと言うが、「取り乱してすまなかった。これは俺の責任だ」と採掘場の見張り役が少なくなったことに反省をしていた。
まあ、俺が【威圧】のスキルがなかったら殴ってでも止めたと思う。非はあっても責めることはしない。
『カイセイ……私のために怒ってくれてありがとう……』
「えっ……? バーミシャルさんに……褒められた……?」
ん? シャルさんの声、カイセイにつなげたのか?
キョトンとした反応だが、次第に顔が真っ赤になり、にやついていた。
『えぇ……、慰めで言っただけなのに……ちょっと気持ち悪い反応するの……』
ドン引きしているが、カイセイにとって褒められた感覚だからなんとも……。
『まさか、カイセイにつなげるのは意外でした』
『私の誤解を解くためのお礼って思ってね。でも反応には困ったけど……』
『シャルさん好きすぎて身に余るお言葉でしょうね』
『もう……、レイちゃん、からかわないでよ……。レイちゃんも私をために言ってくれてありがとうね』
『いえ、本当のことを言ったまでですよ』
『はぁ~、カイセイもレイちゃんくらい落ち着いてくれたらいいのに……』
それは無理な話ですね。けど、勇者が落ち込んでいれば、今後の指揮に影響がでるから助かる。
まあ、人数が減ってもなんとかなるだろう。
――埋葬が終わり、移動の疲れもあるから休憩することにした。
その間にノワッチェに「ゲート」を使って今回のことを手紙に書いて送る。
とりあえず、指揮官が目を通せば問題ないだろう。




