600話 真面目な隊長
日が暮れて今日の移動は終わり、野宿することになった。
みんなはテントを張って野営の準備をする。
今日は敵――ゴーレムが要塞に数体移動しているのを見かけて討伐したのと――。
「ハハハハハ! 食えそうな魔物を狩って来たぞ!」
セイクリッドはアイテムボックスから大量の魔物を出した。
俺たちが移動している間に周りの魔物を討伐していたらしい。
黄色い毛で覆われている羊、真っ黒い牛、角の生えたカエル、そして安定のロックバードだ。
どうも遠くの魔力反応が次々と消えると思ったら、セイクリッドのおかげだった。
ケスナーに確認したところ、角の生えたカエル――ホーントードは毒を持っていて食べられないという。
それ以外は全部食べられる。特に真っ黒い牛――ブラックカウは肉が柔らかく、脂がくどくない高級食材らしい。
カイセイは食べたらしく、霜降りの和牛を食べているようだと言っている。
黒毛和牛のようなものか。
「ハハハハハ! そんなにウマいのなら我の夜食として1頭は取っておくぞ!」
セイクリッドはブラックカウ1頭をアイテムボックスに入れた。
夜食とは珍しいな。もしかして夕食が足りないのか?
夜遅くまで見張りとかしているし、食べたくなるか。
セイクリッドが狩ったから好きなようにすればいい。
とはいえ、ここにいる全員を賄うほどとは……。
食料不足にはならないのは助かる。
手分けして解体し、肉の塊を大きな焚火で豪快に焼いて塩胡椒をしてシンプルに食べた。
うん、ブラックカウは柔らかく、あまり嚙まなくてもすぐになくなった。脂はあっさりしてずっと食べられる。
みんなも美味しく食べて、賑わっていた。
しかし、ゾルダー率いる騎士たちは輪に入らずに黙々と食べ続けていた。
「もう戦は始まっている……。なぜ楽観して食事を摂るのか理解できない……。私たちは常に警戒するように、気を抜いてはならないぞ」
「「「ハッ!」」」
真面目なのは良いことだが、食事くらいは楽にしてもよいだろう。
休めるところは休まないと体力が持たない。
悪いが、最初に占拠する採掘場に置いていく。
これ以上、ピリついた空気は見たくない。お互いストレスがなくなるからだ。
「ガハハハッ! 食事でも堅苦しくてどうする? もっと賑わおうぜ!」
「貴様、戦で酒を飲んでいる!? ふざけるのも大概にしろ! 酒を持ち込むとはご法度だ!」
酒ビン――ワインを飲んでいるボルックがテンションを上げてゾルダーの元に向かった。
ちょっと空気を読んでほしかったな……。
「オレはドワーフだ。酒を飲まなければ本領発揮なんぞできん。オレの身体は酒がなければ生きていけないしな。ガハハハッ!」
「ドワーフだからと言って関係ない! 貴様、誇り高き聖騎士をなんだと思っている!? 聖王様に恥をかかせる気か!? いいから飲むのをやめろ!」
「ちっ、つまらない奴だ。せっかく盛り上げようと思ったのによう。これじゃあ、酒がマズくなる。勝手にやってろ」
お互い嫌悪感むき出しのまま、ボルックは去った。
これが採掘場の占拠が終わるまで続くのは困るな……。
「ハハハハハ……なんか悪いね……。あまりボルックを責めないでくれ……彼なりの気遣いだからさ……」
宥めようとカイセイはゾルダーに寄った。
「今日の出来事は上に報告しますので、覚悟してください。もちろん勇者様のことも言います」
上に報告することなのか?
ちょっとやり過ぎではないか?
「わかった。ゾルダーが気が済むのならそれでいいよ」
けれど、カイセイは普通に返答した。
その反応を見て、ゾルダーは動揺していた。
脅し程度に言ったのか。
まあ、上に言ってもカイセイにはノーダメージだろう。聖王との関係を断ち切りたいとか言っていったし。
ゾルダー組の騎士たち以外はそれを見て大笑いした。
「と、とにかく、言いますから! 覚悟してください!」
ゾルダーは恥ずかしくなったのかその場を去ってしまい、遠くに行ったら「クソッ!」と大声で叫んでいるのが聞こえた。
逆に刺激してしまったな……。
ここまで酷いとは思わなかったぞ……。
その後、何事もなく。深夜――寝る時間となった。
見張りは騎士たちがやってくれるそうで、そのご厚意に甘えさせてもらう。
それは良いのだが、セイクリッドの魔力――その反応が遠くへ行ってしまっている。
今のところ、危険な魔物の反応はないが、どうした?
すると、小さな反応の場所に止まった。
この感じ……魔力は小さいが、ほかの魔物と比べて異様だ。
何か隠しているな。俺はセイクリッドの場所へ向かう――。




