58話 思わぬ収穫
「すみませんが砂糖の代用になる物はありますか?」
ダメ元で聞いたがやっぱりないだろうな……。
「ありますよ! こちらです!」
あるのかよ!?
笑顔でアイテムボックスから瓶に入った琥珀色の液体が出てきた――これってもしかして!?
「あの……これは……」
「私の故郷で甘い木から採れるツリーシロップでございます! ただ……ハチミツみたいに売れるかと思いましたけど、木で採れたことを説明するとみんな抵抗がありまして……全然売れないのです……甘くておいしいのに……」
やっぱりメープルシロップみたいな物か!
これは大きい収穫だ!
アイシスを見ると――震えている!?
よほど嬉しいみたいですな。
「試食してもいいですか?」
「はい! 是非お願いします!」
俺とアイシスがそれを食べて見ると――甘くて美味しい! 色が濃いから少しクセがあるかと思ったが、まったくそれがない繊細なメープルシロップだ。
「ご主人様……これは……すごい美味しいです……」
アイシスは表情を変えずに頑張っているが、魔力がいつもより輝いていますな……。
なんでこんな美味しいのが売れないのだ?
高いのか?
「これはいくらですか?」
「1瓶、1㎏で大銅貨3枚です!」
…………安いじゃないか!?
これ絶対に品切れしてもいいはずなのに逆に砂糖より安すぎて怪しいのかな?
誰も買わないなら遠慮なく買い占める。
「それじゃあ、これを在庫分ほしいのですがいいですか?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
300㎏分、金貨4枚、大銀貨1枚で購入をした。これで砂糖問題は解決した。
「やった~初めて村の品が大量に売れた! 本当にありがとうございます!」
子供のように無邪気に喜んでますね……。
初めてなのか……こちらとしては滅茶苦茶ありがたいのだが、やっぱり故郷の物が売れるのは一番嬉しいか。
……って!?
ウィロウさんとグラシアさんが泣いている!?
「良かったですね……ミツキさん……」
「良かったですわ……ミツキ様……」
何この……親が子を見守る感じは……。
『うん、いい話だね~』
まだそこまで大層なことはしてないって……。
ミツキさん側の問題は解決していない。
周りに購入させないと意味がないからな。
だったらツリーシロップを砂糖にして値段を高くすれば周りにも食いつく。
「これを売れる方法がありますが試してみますか?」
「そんなことができるのですか!? 是非お願いします!」
意外に食いついてきた……こんなに素直だと騙されやすい気がする……大丈夫だろうか……。
「それではやり方を教えますね――」
ミツキさんにツリーシロップを煮詰めて砂糖状にすることを教えた。
「なるほど! その手がありましたか! 今度、故郷に戻って試してみたいと思います!」
これならメープルシュガーみたいにして砂糖と同じように売れるはずだ。
「さすがだな、レイ」
「さすがですわ、レイ」
「いえ、ふと思ったことを言っただけですから」
「何言ってるんだ、料理系のスキルを持っていないとその発想はないぞ!」
「そうですわよ。いつも食堂で調理をしてるうどんは革命的な料理ですわよ」
「うどんを作れるのですか!? 私は故郷でよくうどん食べていますよ!」
…………はい!?
うどんを知っているとかまさか……。
「あの……もしかして米とか蕎麦はありますか?」
アイシスが質問したが、こちらとしては助かる。後ろの2人に怪しまれないで済むからだ。
「もちろんあります! 私の村の食べ物を知っている人は初めてです!」
噓だろう……まさかそこに米があるなんて……ミツキさんの故郷は天国なのか!?
「ところで、なんでレイはうどんの作り方を知っていて、アイシスはその「こめ」と「そば」を知っているんだ?」
まあ、気になりますよね。
「俺は古い本を見てその作り方を知りました」
「私は辺境で主食として食べていましたから」
「なるほど。それなら理解できる」
大噓ですけどね……。
「アイシスさんも主食で食べてたのですか!?」
「はい、醤油や味噌などもありましたよ」
「醤油と味噌も知っているのですか!? まさかそこにも旅人が来たのですか!?」
醤油と味噌もあるのかよ!? それに旅人?
「旅人のことを詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
「実はですね――」
ミツキさんから旅人のことを説明してくれた。
大昔、村の近くに突然と迷い込んだ魔物を連れた旅人がいて、村の人はその人を歓迎をして次第に仲良くなった。
旅人はお礼にユニークスキルを使い、手から種を出してそれを畑に植えて色んな穀物、野菜、果物、香辛料を作ってくれた。
それ以外にも醤油、味噌、酒、味醂などほかの調味料や日本食などの作り方を教えてくれた。
その後、魔物を用心棒として置いて、去っていった。
…………明らかに日本人じゃないか!?
話で出てくる畑で育てている物がほとんど前世の食材だが……種を手で出すとか何そのスキル!?
『もしかすると【創種】のスキルかな? 創造した種を創ることができるけど魔力によっては制限される。レイの【武器創造】と同じユニークスキルみたいなものだね!』
同じなのか……まあ、創造どおりの種を出すのはある意味チートですな……いや、ちょっと待てよ。
『その旅人ってティーナさんが呼んだ転生者なのか?』
『ボクは知らないからもしかすると、ズイール大陸で勝手に召喚された日本人、もしくは何かが生じてこの世界に来てしまった迷い人かもしれない』
迷い人? それは初めて聞くな。
だとすると、迷い人があり得そうだな。前者の召喚者はそこで油を売っている暇もない。
それに魔物と一緒にいるとか珍しいな……そんなに懐くのは限られている。
気になるな。
「その魔物は何かわかりますか?」
「今でも生きていますよ! 私たちの守り神様です! 300年以上は生きているって言ってました!」
…………そんなに生きているのか!?
それにしゃべれるのかよ!?
いろいろと情報がありすぎて困る……。
『だからか……普通の小人族とは違うと思ったけど、そういうことか……』
『何が違うのか?』
『この子見てどう思う?』
『魔力が異常に多いことかな』
『そうだね。でもよく見た方がいいよ。何か周りにコーティングされているのはわかる?』
『コーティング? 確かに違う色でコーティングされてるのがあるけど、それがどうした?』
『加護持ちってことだよ。あの子が言う守り神がこの子に加護を付与してるって事だね』
…………加護持ち!?
なんだその守り神って……本当に魔物なのか?
『じゃあそこの小人たちはもしかして全員……』
『加護持ちだね。効果はわからないけど、ほかの人よりは丈夫ってことはわかるよ』
これ……敵に回したら大変なことになるのでは……下手したら街を軽々と占領される……。
まあ、そんなことはないと思うが……前世の食材も手に入りそうだし今後長い付き合いになりそうだ。
「ミツキさん……その食材を定期的に購入をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「いいのですか!? 私としてはすごい嬉しいです!」
「はい、今後ともよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いします! まずは何がいいですか!?」
「じゃあ、まずは――」
米や穀物、調味料、野菜、果物といろいろ選んだ――全部が前世と同じ物でビックリした……。
これなら前世の料理がほとんど再現できる。
旅人とミツキさんには感謝しかない。
計算が面倒だから今後の関係を築くため、大金貨2枚を渡した。
「本当にありがとうございます! これは村のみんなに言わないと!」
そこの村にも行ってみたいものだ。
だけど、よそ者扱いされるからもっと良い関係を築いてからにしよう。
再び後ろの2人は――泣いていますね……。
「本当に良かったですね……」
「わたくしもすごい嬉しいです……」
もう保護者みたいですね……。
問題はこの食材が売れないかだ。先ほど購入したトマトを食べたら――あまっ!?
ほどよい酸味でかなり美味しいぞ!?
ツリーシロップそうだがこれが売れないとか全くわからない……。
何がいけないのだ?
「どうしてこんなに美味しいのに売れないのですか?」
「多分ですが……私の説明不足ですね……」
「説明不足? では米の炊き方を説明できますか?」
「はい! それは――こうやって、こうです!」
ミツキさんの説明を聞いたがこれは…………わからない……これだと購入はしないで一般の物しか買わないな……。
『小人族は説明するのは苦手だと思うよ! 見て覚える方が得意だからね!』
種族的な問題か……だからミランドさんは俺とアイシスに頼んだってわけか……。
ミランドさんの言うとおり、料理を作って試食をさせ食材を広める方が早いな……。
だとすると……あれを作ってみるか。
昼食の時間にはちょうどいい。
「すみません、調理場を借りていいですか? その食材を使って料理したいのですが」
「本当ですか!? 必要な食材は用意しますのでお願いします!」
「レイの料理か楽しみだ」
「レイが久しぶりに作ってくださるなんて楽しみですわ」
期待されていますが……それに応えますか。




