591話 勇者と対面
喜んで歓迎しようではないか。
『わかった。連れて行ってくれ』
元同郷人だから、いろいろと話をするだろう。
『言い忘れたけど、私がみんなと話しているのは内緒にしてね』
業務連絡――勇者と女神の関係だからややこしくなるか。
――数分後。
「ハハハハハ! ただいま戻ったぞ!」
高笑いしてセイクリッドが戻ってきた。
「お邪魔します」
その後ろには茶髪で聖国騎士と同じ鎧を装備して大剣を担いでいる好青年がいる。
「勇者カイセイでいいんだよな?」
「はい、旗波海星と申します。家名は旗波で名前が海星です」
「日本人で間違いないな?」
「に、日本を知っているのですか!?」
瞳孔が大きく開いて驚いている。シャルさん、詳しく説明していないようだ。
「俺は元日本人の転生者だからな。とは言っても違う世界から来たけどな」
「そうなのですね!? まさかバーミシャルさんが違う世界から助っ人を送ってくれるとは感謝しかない。それも元日本人の方を……」
シャルさん、俺たちの事情を言っていないな……。
「ちなみに、女神様から俺たちをどこまで聞いた?」
「助っ人を呼んだからワブナテールに来てほしいと。あと、あなた方の特徴ですね。強い方だから、失礼のないようにと」
最小限のことしか言っていませんね……。
『シャルさん……もう少し詳しく言ってほしいのですが……』
『あ~、そのときは、この子はちょっと興奮してあまり聞いてくれなかったの。許してね』
事情があるなら仕方がない。
「まあ、とにかく中に入ってくれ。お互い詳しく聞かないといけないしな」
「ありがとうございます」
カイセイをリビングのソファに座らせ、テーブルに緑茶と羊羹を置いた。
「ああ……和菓子だ……。食べてもいいですか?」
すでに手に取って食べようとしている。
待ちきれないみたいだな。
「いいぞ」
大きく頬張ると、カイセイから目から涙が止まらない。
無言で食べ続けて完食する。
「美味しい羊羹をありがとうございます。この世界で二度と食べられないかと思いました」
「この世界に来てどのくらいだ?」
「4年くらいになります。17歳のときに親友に裏切られて校舎から突き落とされ、バーミシャルさんに助けられてウェミナスに召喚されました」
今は21歳ってことか。かなり若いと思ったら高校生を召喚させていたのか。
親友に落とされるって、何をしたらそうなる……?
「かなりの若造と思ったらソウタより若いな。儂ら同郷の中で一番若いぞ」
「同郷? あなたも転生者なのですか?」
「そうだ。だが、儂は転生者ではない。いや、儂も転生したことになるのか?」
魔剣になったから転生したと思っているのか。
「ライカは転移者でいいだろう。すまん、ライカはもともと日本にいた狐の妖怪だ。ややこしいが、事情があり【人化】している」
「妖怪が転移者とは驚きました……。ではあなたのいる世界では、同郷の方はかなりいるのですか?」
「会ったことのあるのは、さっき言った転移者のソウタと俺と同じ転生者でまだ子どもの男だ。面識はないが、ライカと旅した女性だな。その娘が俺の領地で住んでいる」
「領地持ちですか!? す、すごい……。同郷の方もいてうらやましいです……。俺なんか1人で……弱音を吐いてすみません……」
「1人でいろいろと苦労しているんだな……。何か食べたいものはあるか? ある程度は作れるぞ」
「本当ですか!? 梅干し入りのおにぎりは作れますか? この世界ではお米が見つからず困っています……」
「普通に作れるぞ。おにぎりだけでいいのか? もっといろんなものを欲張っていいんだぞ」
「ありがとうございます! 今のところおにぎりしか考えられません。俺のばあちゃんがいつも作ってくれた一番好きな料理なんです」
米好きってことか。まあ、4年以上食べられなければ、お米しか考えられないだろうな。
「わかった。ちょっと待ってろ。アイシス、みそ汁を頼めるか?」
「承知いたしました」
俺とアイシスは調理に取りかかる。
さて、土鍋でお米を炊き、最高のおにぎりを作ろうではないか。
待っている間はライカに俺たちが来た経緯を説明してもらう。




