587話 戦闘狂にお任せ
唐突な発言でノワッチェが呆然とする。
「騎士殿、冗談を言っている場合ではない。いくら強くても数には無理がある……」
「冗談ではないぞ。1000くらいなら我だけでも十分だ」
「ほ、本気で言っているのか……?」
自信に満ち溢れて言っているが信じていないようだ。
「セイクリッドが言っているのは本当だ。任せてくれないか? 無理なら俺たちが援護する」
「し、信じがたい……。では、我輩も近くで拝見させてもらう。ついてきてくれ」
自分の目で確かめないとわからないか。
ノワッチェについて行き、ヒークバン方面の城壁へ――。
城壁には騎士たちが集まって戦闘の準備をしていた。壁の上には移動式の大型の弩を慌てて用意をしていた。
その中に商人を呼びに行ったゾルダーが指示をしている。
「し、指揮官! か、数が……」
「わかっている。我輩らでは難しい、なら強大な助っ人に任せるとする。皆聞け――我輩が指示するまで待機だ! いいな?」
「「「はっ!」」」
「其方の好きなようにしてくれ。門を開け――」
「ハハハハハ! 感謝する! では行ってくる――」
セイクリッドは門が開くのを待ちきれないのか、高く飛び城壁を飛び越えた。
あれ? アイツ、そんなに高く飛ぶことができたっけ? シャルさんの加護のおかげか?
俺たちは城壁の上で様子を見ることにする。
平地には大量の――ゴブリン、オーク、オーガらしき魔物がこちらに向かってきている。
その後ろには、高さ10m以上はある銅色で光沢のあるゴーレムが十数機いる。その心臓部にはコアらしき物が埋まって光を放っている。
これなら魔物が逃げるのも当然だ。
「なんだあの魔導兵器は……。今まで見たことがない大きさだ……」
ノワッチェは青ざめて足がガクガクだった。
しかもあの数だと、要塞は軽々と攻略されてしまいそうだ。
けれど、セイクリッドには関係ない。彼は高笑いして突き進んでいる。
「其方らはなんで余裕なんだ……?」
「これくらいより倍以上の規模を頼まれたことがあって、それほど驚くものでもない」
「ば、倍以上だと!? だ、だが、あの魔導兵器は強力だ! 戦わなくていいのか!?」
「ゴーレムならコアを破壊すれば問題はない。セイクリッドならコアを破壊しなくても余裕で倒せる」
「魔導兵器が余裕だと……」
頭が混乱しているのか、思考が停止してしまった。
驚くのはまだ早い。終わってから驚いてくれ。
おっ、始まったな――。
「――――覇閃斬・晶!」
セイクリッドは大剣を地面に叩きつけ、斬撃が魔物たちに襲いかかり、吹き飛ばしてしまう。
そして、後ろにいるゴーレムに届き、真っ二つになった。
派手にやってますね。遠くにいる敵を斬撃で普通に倒せるなら俺たちの出番はなさそうだ。
「えぇ……」
それを見たノワッチェ――騎士たちは口を開いたまま驚きを隠せない。
規格外の強さに目を見張ると、言葉にならないか。
終わる頃には我に返っていればいいか。
――数十分後、ゴーレムが次々と胴体を切られて崩れていく。魔力で確認すると、あれが最後のようだ。
「ハハハハハ!」
満足げにこちらに戻ってきました。
「ほ、本当に倒した……」
やっとノワッチェが元に戻ったか。
「言った通りになったろ? セイクリッドだけで十分だと」
「お、おう……ここは喜ぶべきだが……あり得ない光景だ……。ゆ、勇者殿でも無理だぞ……」
「そう言われてもな、俺たちはこれより危険なことに出くわしているしな。そんなことより街のみんなに終わったと安心させてくれ」
「そ、そうだな……」
まあ、大ごとに至らなかったのは良いことだ。
要塞内が落ち着くまでグランドウルフの買い取りは無理そうだ。
それまでに人工的に作られたゴーレムを確かめよう。




