586話 話が通じる
十数分が経ち、ようやく指揮官が落ち着いた。というか見続けると危ないからソアレにコートを着せたら落ち着いた。
「我輩ながら取り乱してしまった。まさか天使様が降りたとは……。この大陸はもう安泰だ……。申し遅れましたが天使様――我輩、ノワッチェ・ゴセフと申します。この要塞――ワグナテールの全体の指示をしています」
「勘違いしないでほしい、ゾルダー、説明してくれ」
ゾルダーはノワッチェに俺たちの説明をすると、頭を抱えてしまう。
「別の世界から来た者だと……。ではこの大陸はどうなるのだ……」
「そのことについてだが、勇者と相談したいことがある。もちろん、お前たちに利益がある話だ」
「勇者との相談? なるほど、そういうことか。では其方らが帰還するまでワグナテールの在住の許可をする。本来なら許可証を申請したいところだが、この世界の者ではないのなら話は別だ。宿泊施設も提供しよう。防衛を手伝ってくれるのなら金の心配はしなくていい」
察してくれたようで、話がスムーズに進んでよかった。
「何から何まで助かるよ。本当に金はいいのか?」
「防衛を手伝ってくれるのなら宿泊費なんて安いものだ。何としてでも要塞を死守しなければならない。他に欲しいものがあるならお金を渡す」
「いや、グランドウルフをゾルダーの知り合いの商人に換金しようと思っている。宿泊費だけで十分だ」
「なら、今必要だな、ゾルダー隊長、商人を呼んでくれ」
「は! ただいま――」
ゾルダーは敬礼をして部屋から出ていった。
「そんなすぐに呼ばなくてもいいぞ」
「其方らは恩人である。これくらい当然だ。しかし……上の者に伝えるべきか……。世界が違えど天使様を連れているとなると、混乱を招いてしまう……」
「悪いが、事情を伝えることはできない。察しているなら勇者の件についても言わないでくれ」
「勇者殿と関わるのであれば我輩らの問題である。だが、正直に報告ができないのが現状だ……」
「仮に俺たちを報告したらどうなる?」
「聖王様のもとへ強制的に連れていかれる。危ない場合は天使様だけ残していけと言われる可能性がある……」
面倒事は絶対起きるよな。ここの大陸がまだマシといえど崇拝している天使がいると狂ったように捕まえに来る。
「そうなれば、俺たちは身を潜めるようになるぞ」
「重々承知している……。こうなってしまえば見て見ぬふりをする。聖王様に反してしまうが、これもエンムールのためと思えばいい。部下たちにも広めないようにする」
なんだかんだ、この指揮官はわかってくれるな。ちょっとソアレを見て取り乱してしまうが。
「気遣い感謝する」
「気にすることはない。我輩は本物の天使様を見ただけで十分だ。では、商人が来るまでゆっくり――」
「指揮官、た、大変でございます! ヒークバン方面から魔物の大群がこちらに向かっています!」
慌てて騎士が報告をしてきた。
「数は?」
「おそらく1000以上はいます!」
「なんだと!? ただちに、全員を城壁に向かわせろ!」
「準備は進めております! ただ……別の問題が起きまして……」
「いいから、早く言え」
「魔物の後ろに……法王軍の巨大な魔導兵器も向かってきております……」
「そんなバカな!? 法王め……ヒークバンだけではなく、エンムールまで狙っているとは……いい加減にしろ……」
かなり大ごとになってきたな。
1000くらいなら俺たちで全然問題はなさそうだ。じゃあ、早速――。
「ハハハハハハ! 我だけで行こうではないか!」
腕を組みながらセイクリッドが言う。
…………撤回しよう、セイクリッド――戦闘狂1名だけで十分です……。




