580話 魔法の違い
「ゆ、ユニーク魔法を使えるのですか!?」
は? ユニーク? 確かにこの2つはコツが必要な魔法だが、ユニークって。
「そんなに珍しいのか?」
「珍しいも何も、ユニーク魔法はヤカハートの勇者しか使えないんですよ!? 氷魔法は水魔法の最上級魔法で、雷魔法は火魔法と風魔法を混ぜた最上級魔法なんですよ!?
それを使えるとはどういうことですか!?」
そこまで珍しいとは……。まさか北大陸の勇者しか使えないとは。勇者さまさまだな。
だが――。
「こちらの勇者は使えないのか?」
「はい、ですが我々の象徴である光魔法を使えます」
「光魔法か、聖国騎士には絶対条件か?」
「はい、我々を導いてくれる方が、光を照らしてくれる魔法を使わないとはおかしいです。仮に勇者が召喚されても光魔法が使えないのであれば、それは論外です。バーミシャル様への侮辱とみなされ罪になります」
なんだそれ、理不尽ではないか?
まあ、ソシアさんのお母さんはそれを理解して勇者に光魔法を使えるようにしたのか。
そうでないと正規召喚なんてしないよな。
「はい、ですが……北大陸の連中との戦争は予想外で……少々残念です……。あちらの勇者がユニーク魔法を使えるのは卑怯といえますね……」
まあ、最初から法王の狙いだったのだろうな。
ユニーク魔法はともかく、勇者が2人もいるなら厳しいのはわかる。
しかし、不正規で召喚した勇者は何者なんだ?
普通なら中央大陸を占拠する時点でおかしいと思わないのか?
わからないことだらけだ。ソシアさんのお母さんに事情を聞ければいいか。
ユニーク魔法と聞いてアイシスとライカが俺に振り向く。
2人とも理解しましたね。俺が氷と雷魔法を使えると言うと、面倒になることを。
アイコンタクト取りました。
「こんなに強い方がいるとなると――」
「争いごとは参加しないからな。お願いされても無理だ」
「そ、そうですよね……。はぁ……勇者様……早く戻ってきてください……」
落ち込んでもこちらの事情にはそれほど影響はない。勇者は修行と言っていたが、レベリングしていると見てよい。
強くなって戻ってくるまで。
城壁前に着くと、門番をしている騎士が敬礼して迎え入れる。
「隊長、お疲れさまでございます! 既に討伐なさったのですか!?」
「そうだ。ただし、討伐したのは私たちではなく、この方々のおかげだ」
「な、なんと、少ない人数であの群れを討伐したのですか!? す、すばらしい!」
「我々の恩人であるからこそ、特別に中にお通しする。ゴゼフ指揮官には私が説明をする」
「承知しました。さぁ、恩人の皆様、どうぞお入りください」
すんなりと中に入ることができた。
指揮官とは、要塞にいる最高責任者なのか? やはり重要な立場の人にあいさつをしなければならないのだろうか。
二重にできた城壁をくぐると、大勢の人々で賑わっていた。
要塞だから堅苦しいところだろうと思ったが、それほどでもなかった。
普通の街とそれほど変わらない風景だった。
周りの人は騎士たちに気づくと、「お疲れさまです」と足を止めて声をかけていた。彼らは一般人とかなり良好な関係を築いていた。
それに……中央らしきところに、ここからでもはっきり見える大きな女神像が祀られている。
「では女神バーミシャル様の像に行きましょう」
「その前にソアレを人混みから避けたい。さすがに目立つところは控えたい」
「そうですね。では――」
「救世主様……大丈夫です……私もバーミシャル様に会いたいです……」
本人はそう言っているが大丈夫なのだろうか……?
確かに、ソアレと一緒なら話がスムーズになるのは助かる。
「わかった。けど、無理はしないように」
そう言うと、彼女はゆっくり頷いた。
ゾルダーに案内されて女神像の近くまで来たのだが……大きいな……。いろんな意味ですべてが大きい……。
確かに、お母さんだけあってソシアさんと似ている。それはいいのだが、かなりのダイナマイトボディだ……。もしかして盛っていたりしないだろうか……?
いや、かなり崇拝しているなら盛っていることもありえそうだ。
「ああ……いつ見ても美しい……。バーミシャル様に会えるのは羨ましいです……」
羨ましがるのはいいが、早く終わらせないとな……。
騎士たちに囲まれながらお祈りするのはあまりにも不自然だ。
俺たちは女神像の前で膝をついてお祈りをする――。




