579話 世界の違い
森を抜けると、緑の丘が広がり、遠くには長く連なる城壁が立ちはだかっている。 その中には数多くの建物が建てられている。
そこが聖国騎士――ゾルダーが派遣されている要塞ワブナテールだ。
ここは中央大陸とかなり近く、魔物から南の大陸に侵入されないように守る要塞の役割を果たしている。
今回、ゾルダーたちは強力な狼――グランドウルフの群れが近くに現れたとの情報を得てすぐさま駆けつけたのこと。
このグランドウルフは推定レベル50と強敵で、厳しい戦いを強いられるということから、ゾルダーも一緒に討伐に赴いた。
しかし、推定レベル120のゴールデングランドウルフがいるのは予想外ということだ。金色の狼に遭遇したら終わり――それほどまでに恐ろしい存在で、ゾルダーでも対処が難しいとされている。
「金色の狼の情報が得られていなかったため、非常に危険な状況でした。もしあなた方が討伐していなかったら、生き残れたかわからないです」
となれば、隊長クラスはレベル100前後、そしてほかの騎士たちはレベル50以下といったところか。
「冒険者に頼める強さか?」
「冒険者ですか? この大陸では、冒険者という職業はすでに廃止されています」
「廃止って、商人の護衛とかどうしている?」
「我々――聖国騎士が護衛を担当しています」
「冒険者の廃止した理由はわかるか?」
「はい、昔は成人すれば誰でも冒険者になれました。しかし、戦闘経験が浅く命を落とす者が多かったです。前の聖王様は民を思い、冒険者稼業を廃止し、聖国騎士がその役割を継承することになりました。旧冒険者たちは聖国騎士に入団し、徹底的に育成され、命を落とす者が少なくなりました。これが我々の歴史となります」
ゾルダーは誇らしげに話す。だから隊長の数が多いのか。
しかし……この世界の冒険者は無謀なのか? 冒険者だって基礎的なことを学んで育成システムもある。
レベルがあるならなおさらだ。魔物の強さを把握していれば即座に撤退できる。
それができていないのなら論外だとしか言いようがない。
まあ、この大陸の事情なら仕方がない。俺がどうのこうの言える立場ではない。
「うぅ……」
セイクリッドに抱えられているソアレは落ち着かなかった……。
俺の言い方が悪いのもあるが、聖国騎士に囲まれて移動しているのも原因かもしれない。
とりあえず落ち着くまでセイクリッドに抱えてもらっている。
「ソアレ様、もう少しの辛抱です」
ゾルダーは気にかけるが、うずくまってしまう。
ソアレにもソシアさんのお母さんと一緒に会おうと思ったが、無理だな。
宿屋を借りて待機させよう。
「クエェェェェ――――!」
まさか俺たち向かっているとはな……。 見覚えある形で聞いたことがある鳴き声、覚えのある魔力――。
「ロックバードだ! 皆、岩を落とされる、気をつけろ!」
名前も同じだった……。やはりグランシアと同じ魔物がいるのですね……。
「まったく……違う世界でも目障りな鳥だ――クリスタルバレット!」
「ブエェ!?」
セイクリッドが結晶の弾を放ち、胴体を貫通して落ちて痙攣していた。
一瞬の出来事で騎士たちは何が起きたのかわからなかった。
「セイクリッド殿……無詠唱を使いませんでしたか……? それにあの魔法は……?」
ゾルダーははっきりと見えたのか。いや、はっきり見えたら困る……。
「そうだ、無詠唱だとも。結晶魔法だがどうした?」
正直に言わないでくれ……。
「な、なんと!? 鎧のからしてすごいお方だと思っていましたが、無詠唱とユニーク魔法の使い手ですか!?」
「この程度、みんなできるぞ。我は魔法では一番弱い方だ」
「あの威力で弱いのですか!? それなら、皆様はあの魔法を……」
「私はあの魔法はできませんが、氷魔法なら余裕です」
「儂はあの魔法は使えんぞ。雷魔法なら余裕だ」
アイシスとライカが訂正して言う。
そこは正直に言わなくても……。
さすがに氷と雷は一般的で――。
「氷魔法だけでなく雷魔法まで余裕……」
騎士たちは真っ青になった。
何かこの世とは思えない顔をしているが、どうした?




