56話 気が早い……
――そろそろカルムに着く。
帰りは魔物の数も少なくて安全だった。
護衛の依頼もこれで終わりだ。
「いや~悪いね、セバスチャン! まさか全部宿泊代を払ってくれるなんてこんな待遇受けたことない! 本当にありがとう!」
セバスチャンはアイシャたちの宿代を払っているが……いったい何を企んでいるんだ……。
「いえ、アリシャ様たちはカルムに必要なお方ですので大丈夫ですよ」
「言わせるね! それにレイとアイシスは料理が美味しくて驚いたよ。こんな贅沢な旅、初めてだよ!」
「ハハハ……それは良かった」
まあ、旅で料理ができるのとできないでは相当違うからな。
「4人は料理しないのか?」
「私は料理は苦手で……」
「ハハ……私は食べる専門だから……」
「同じく僕も……」
「俺はある程度できるぜ! 俺が料理担当をしているぜ!」
ガルクが作るのか、このメンバーでは意外だな。
「3人は本当に料理ができなくて大変だぜ! 特にアリシャなんて剣は振るえるのに包丁は振るえないから笑えるぜ!」
いや、剣と包丁を一緒にしてはダメだろう……全然違う……。
「ちょっ、このバカガルク何言ってるのよ! 誰だって得意不得意はあるでしょ!」
「本当のことだからいいじゃあねぇかよ!」
アリシャとガルクは揉め始めた……毎日最低でも2回はやっているな……本当に仲がいいことで帰りは大変賑やかです……。
――馬車が進むこと30分、街が見えてきた。
やっぱり故郷を見ると一安心する。
『やっと帰ってきたね!』
――城門を潜り抜け、街中はいつもの光景だ。
「ここがレイの住んでいる街ね! 大きくて長閑な街だね!」
「ここ気に入った! もうここ拠点じゃなくて、ここに住みましょう!」
「確かにここは住みやすいね」
「いい街じゃないか! 明日から散策しようぜ!」
第一印象は良いみたいだ。
ギルドのみんなに帰還の報告をしないといけないのでギルドまで送ってもらう。
「ぼっちゃま、アイシス様、護衛依頼ありがとうございました。報酬は明日屋敷で旦那様からお受け取りください」
「わかった」
「では私たちはこれで」
セバスチャンとニーナと別れ、アイシャたちもギルドに挨拶に一緒に向かう。
ギルドに入り――。
「ただいま戻りました」
その声でみんなが気づいてくれた。
「レイたちが帰ってきたぞ!」
「おかえり! どうだった?」
「やっと帰ってきたか! 心配したぞ!」
この感じ実家に帰ってきた安心感がある。
全力で駆け寄る小柄の美少女が――。
「ぐはぁ!」
抱きついてきて、そのまま床に押し倒される…………リンナさん相変わらず力が強いです……。
「レイ君、おかえり! 心配したのよ! 長旅お疲れ様!」
「ただいま……リンナさん……大丈夫ですよ……」
「アイシスと精霊ちゃんもおかえりなさい! それにこの冒険者は誰?」
リンナさんにアイシャたちのことを伝えると納得していた。
「そうなんだ、カルムの冒険者ギルドへようこそ! 歓迎するわ。宿屋の手続きはまだかしら? まだならオススメの宿を紹介するわ」
「それは助かるが……レイが苦しそうに見えるのは気のせいか……」
そのとおりでございます……魔力で維持しているけど……さすがにこれはキツイ……一般の人は骨が簡単に折れる…………。
「ごめんね、レイ君!? 久々に会ったから力の手加減が難しくて!」
「大丈夫ですよ……」
そして泣きながら駆け寄るのは――。
「うぅ……レイ~心配しましたよ……無事でほんどうによがった……」
スールさん号泣ですな……別にそんなに心配しなくても……。
ザインさんも階段から降りてきた。
「帰ってきたか、レイ、嬢ちゃんに精霊。リリノアとオルリールから聞いたぞ! 災害級のデスキングクラブを倒したり、ミノタウロスの異常種擬きを倒したとか大活躍だな!」
やっぱり言ったのか……。
「ハハハ……なりゆきで倒しただけですよ……」
「何を言ってるのだ!? もっと自信をもっていけよ! これならSランクの依頼も許可できそうだな!」
今後は面倒事に巻き込まれそうだな……しょうがないか……。
今日は久々に街に戻ったからギルドの食堂でみんなと一緒に食べた。
アイシャたちも、ここと相性が良いのかすぐに周りのみんなと溶け込んだ。
――そして屋敷に戻る。
久々に屋敷に帰ると本当に落ち着く。
俺は気にしていないけど長旅だったからある程度ホコリが溜まっている。
精霊は急いで窓を開けて風魔法を使って掃除に取りかかる……綺麗好きですね……。
こちらとしては大助かりだけど。
『レイ、約束は守っているよね?』
やっぱりそうなりますよね……。
「わかっているよ。アイシス今日の夜はいいよ」
「ありがとうございます! ご主人様!」
いや、感謝されることでもないのだが……魔剣の為だと思って割り切るしかない……。
――その夜はアイシスの要望に応えました。
――――◇―◇―◇――――
――次の日。
上機嫌でアイシスは朝食を作っている……朝からうどんを作るとか気合いが違いますね……。
肉うどんを作ってもらったが……肉の比率がうどんより多いのは気のせいだろうか……。
「肉が多いのだが……」
「そんなことはありません。ご主人様の栄養を考えてこの量にしました」
あっ……はい……わかりました……まあ、美味しいからいいか。
今日は報酬を受け取りにミランドさんの屋敷に行く――。
「「「――――おかえりなさいませ! ぼっちゃま、お姉様――――!」」」
いつも通りの迎え方ですな……。
セバスチャンに書斎に案内されると、ミランドさんがいた……すごい笑顔なのですが……。
「フフフ……長旅ありがとう。レイ、アイシス君……君たちの活躍セバスチャンから聞いたよ。実に素晴らしい……」
「いえ……依頼なので当然のことですから……」
「そう謙遜しなくてもいいのだよ……報酬を受け取ってくれ……」
「ありがとうございます……」
金貨2枚受け取ったが……まだ笑顔でいて怖いのですけど……。
「ところでレイ……ブレンダとは親密な関係になったみたいではないか」
やっぱりセバスが何か言ったな……。
「えっ……それは……なんといいますか……」
「フフフ……正直言ってもいいんだよ……私は喜んで歓迎するよ」
「いえ……それは……まだ……」
「まだと言ったね! じゃあブレンダと結婚してくれるのか!?」
ミランドさんとセバスチャンの目が光ったような気がする……。
これはしっかり話さないといけないな……。
「それはブレンダが成人して好きな人がいなければの話で……」
「なんと!? じゃあ、もしブレンダが成人して誰も相手がいなければ結婚をしてくれるのかね!」
「責任は取ります……」
それを聞いてミランドさんは拳をグッと握りしめた……。
「フフフフフフ……では決まりだな! 予定では養子にしようと思ったが……私は間違っていたようだ……婿にすれば早い話ではないか……それはそれで計画どおりだ! レイ、私のことはお義父さんと呼んでいいのだよ!」
「いえ、まだですからね!」
「そうか……残念だ……だが気長に待つよ」
気が早いな……まだブレンダの気持ちが決まっていないのに……。
「あの……ご主人様はリンナ様がいますが……」
おい!? アイシス!? 今言うことか!? 空気を読め……。
「それはザインから聞いているよ。ブレンダが第二の妻なら大歓迎だ!」
いいのかよ!? しかもまだ色々と先の話なんですけど……。
腹をくくるしかないか……。
「そうですか……ではリンナ様に報告をします」
だからまだ早いって!? こんなに早く言ってもややこしくなるのだが……。
「よろしく頼むよ。それとこれは別の話だが、最近この街に新しい商館が建てられたのだが、いろいろと珍しい食材が置いてあるけど興味があるかい?」
商館? そんな最近になって建てられたところってあるっけ? それに珍しい食材? これは行くしかない。
アイシスも目が輝いている。やっぱり気になるか。
「はい、その珍しい食材が使えるのでしたら料理したいと思います」
「フフフ……私の予想どおりの答えで助かるよ。実はセバスチャンがその商人をこの街に誘って商館を出したのだよ」
はい!? ヘッドハンティング的なことしたのか!?
セバスチャンってどんだけ有能なんだよ……。
「もちろん普通の食材も売っているのだが珍しい食材が売れなくて困っているのだ。取り扱いがわからなくて料理が難しいのだよ。そこでレイとアイシス君ならその食材を活用できるのであれば是非ともメイドたちに教えてほしいのだよ。それと街にその料理を広めて名物にしたい」
相変わらず野心家ですな……けど珍しい食材でも臨機応変に料理ができると思うが使うのに抵抗があるのかな?
「わかりました。その場所を教えてください」
「感謝するよ! セバスチャンが馬車で送るから準備してくれたまえ! それと紹介状を渡すから商人に直接話を聞いてほしい」
徹底してますな……まあ、良い物だったら大量購入するけど。
『ん? また良からぬことを考えてたね』
エフィナはいつものように察している。
「わかりました。では早速行きたいと思います」
「それとレイ、その商人には失礼のないように」
「えっ、は、はい」
失礼のないようにって……結構すごい人なのかな?
まあ、商館持ちの商人は確かに商業ギルドではギルドカードだとゴールドクラス以上なはず。
それは失礼なことはできないのは当たり前だよな。
「では馬車にお乗りください」
馬車に揺られながらその場所に向かう――。




