566話 偽者⑤
ボクが前に歩くとアイツは後ろに下がる。
「く、来るな!?」
「どうしてだい? レイならボクを怖がらないで迎えてくれるよ」
「だ、黙れ――――アクアマリンランス!」
「――――フレイムウォール」
ボクは創造魔法で炎の壁を創り、アイツの水と結晶の【混合魔法】――水を纏った結晶の槍を防ぐ。
「どうしたの? レイならこの壁を貫けたよ」
「テメェ……力を取り戻したからといい気になるな!? ――――氷刃・一閃!」
アイツは氷の魔剣に持ち替えて真っ二つにした。
魔剣しか頼れないのは残念だ。
「本当のことだよ。じゃあ、お前が本物のなら魔剣を出せ」
「なぁ……」
その言葉でアイツは固まった。
やっぱりボクを出せないみたいだね。なんだ、ただの魔力暴走でしかない。
ボクは創造の魔剣を出すと怒り狂う。
「なぜだ!? なぜ使えるようになった!? 出させないようにしたはずだ!?」
「そんなの決まっているじゃん。紛い物にはボクを止めることはできない」
「ふ、ふざけるなぁ!? 俺はレイ・アマガセだぞ――――氷炎乱華!」
氷炎を纏わせて切りかかってきた。
レイのマネをしてるだけじゃないか……。
その攻撃は見切っているよ。ボクを使わなくても簡単に回避できる。
「避けるんじゃねぇ!?」
「お前の攻撃がワンパターンすぎるからだよ。よ。本当に紛い物だな」
「黙れ!」
大振りになった瞬間、魔剣を使いアイシスとフランカを弾き返してアイツの手から離し、2本の魔剣は遠くに飛んで地面に突き刺さる。
「どうしたの? アイシスとフランカ全然使えてないじゃん。やり直し」
「ふざけんなぁ!? …………なんで戻ってこない!? アイツらに何をした!?」
「簡単なことだよ。創造の魔剣を使ってお前に戻らせないように創造しただけさ。何か不満でもある?」
「俺をバカにするなぁ!?」
今度は闇の魔剣と風の魔剣を出して切りかかってくる。
同じように弾き返してアイツから離した。
「もう無意味だよ。魔剣も魔法も使ってもボクには敵わない。降参するなら今のうちだよ」
「誰がするか!?」
負けを認めないとは……。アイツは何度も繰り返した雷の魔剣、水の魔剣をはじき返し、次に双光の魔剣、結晶の魔剣、最後に治癒龍の魔剣を使って切りかかってくる。もう血迷っているしかなかった。
「――――ふざけなぁ、ふざけるなぁ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
「ちなみに、レイはそんな汚い言葉は言わないよ。お前の言っている言動はアイツの――」
「それ以上言うなぁぁぁぁ!?」
認めないんだね。治癒龍の魔剣をはじき返して地面に突き刺さる。
これで全員の魔剣が戻せなくなった。
「ボク、一方的に攻められるのは嫌いでね。そのお返し――――絶創」
「――――ギャァァァァ!」
アイツを切りつけると、悲鳴をあげてあまりの激痛で地面に倒れてもがき始める。
「何をした!? お前の大切な仲間の身体を傷つけるのか!?」
「よく見なよ、レイの身体だ無傷だ。切ったのはお前自身だ」
「あり得ない!? なんでそんなことができる!?」
「だってボクは創造神だよ。そんなこともわからないの? もう終わりだよ。いい加減に――」
「誰がする!? 戻せないなら取りに行けばいいだけだ!」
後ろに向いて近くにある氷の魔剣を取りに行く。ボクを無視するとはいい度胸だ。
時魔法を使う――。
「――――クロノスワールド」
周囲は無数の時計が浮かび、ぐるぐると時計の針が回るものもあれば逆回りに回るもの、ゆっくり回るものもある。
そしてアイツはゆっくりと走っている。
「なぜ身体が遅い!?」
「よっと、遅いね君。遅すぎてボクが取ってしまったよ」
「何をした!? 俺の知らない魔法を使うな!?」
「ボクが得意とする時魔法だよ。ようこそボクの世界へ。お前はこの世界にいるかぎりスロウ状態のままだ。そしてボクや仲間の子にはヘイスト状態にする。素晴らしい魔法だ」
「ふざけるな! な、なんでお前が魔剣を持てる!?」
「もとはと言えばボクも一緒に創った魔剣だよ。持てるのに決まっているじゃん。もう諦めなよ」
「誰がするか!? 俺は正真正銘のレイ・アマガセになったぞ! ハハ、残念だったな。アイツはもう二度と起きない! これが俺の勝利を意味する! これは俺の身体だ! だったら――」
アイツは膨大な魔力を使って暴発させようとする。本当に狂っている……。諦めが悪くて呆れるよ……。これ以上はさせない。
再び時の魔法を使う――。
「――――タイムストップ」
ボク以外すべては止まり、静寂に包まれる。
ここまでする必要はなかったが、レイのためだ。
アイツの言葉が本当なら悪いけど、ボクはここまでしかできない。
本当にごめん……。時魔法を使う――。
「――――リスタート」
「な、何を……し……た……」
タイムストップを解除し、レイの身体に魔法をかけた。
アイツは抵抗することなく、目をつぶって眠りにつく。
ボクは倒れる前にレイの身体を抱えた。
あとはレイ自身の問題だ。頑張れ――。




