54話 男爵の娘とデート
――次の日。
滞在最後の日となった。
「ご主人様、今日はブレンダ様と2人でデートに行ってください」
急にアイシスの口から何を言い出すかと思ったらデートですか……。
確かに最後の日はブレンダにいい思い出を残そうとは思うのだが……。
「いいのか?」
「もちろんでございます。私はフェンリ様と稽古をしますので大丈夫です」
アイシスはブレンダに寂しい思いをさせないように気を遣っている。
まさかとは思うが、昨日アイシスが稽古をしなかったのはこのために遅らせたのかな?
まあ、フェンリが限界だったのもあるけど、もしそうであれば本当にできたメイドだ。
「でーとってなに?」
ブレンダは首を傾げて聞いているが、この世界にこの言葉はないから気になりますよね……。
「2人で楽しい思い出を作ることですよ」
アイシスは良い言い回しで言うな……。
「じゃあ、お兄ちゃんとデートする!」
喜んで飛び跳ねていた。
それじゃあ、今日はブレンダの要望に答えなきゃいけないな。
宿屋を出ようとしたが珍しく精霊は一昨日買った本を読み続けている。
俺が出掛けるときは読むのを中断して、一緒に来るが今日はその様子がない。
『精霊にも言っておいたから大丈夫だよ! 今日はこの子と2人で楽しみなよ!』
精霊にも気を遣わせたようだ。
みんな気配り上手ですね……。
「ブレンダはどこに行きたい?」
「お兄ちゃんとならどこでもいいよ!」
どこでもいいのか……。
とりあえず、周辺の観光でもするか、王都に何度か来ているブレンダといえど、行っていない場所があるだろう。
「じゃあ近場でお茶しながら考えようか?」
「うん!」
ブレンダと手を繋いで――宿を出て、カフェへ向かう。
ブレンダはルンルン気分で歩く――上機嫌で本当に良かった。
やっぱりフェンリがいるときは不機嫌だよな……前はカルムに来て会っても仲が良かったのにどうしてだ?
もうそういう複雑な年頃になってしまったか……。
――カフェでお茶や焼き菓子を頼み、ゆっくりする。
しかし昨日と比べ騎士の数が多い、やっぱりミノタウロスが近場にいたからか警戒を強めているな。
ブレンダは騎士が通っているのを見てばっかりだ。
本当なら騎士を目指していたからな……やっぱり少し心残りがあるのか……。
そういえばセバスチャンが騎士の公開練習が見られる場所があるって言ってたな、そこに行ってみるか。
「ブレンダ、騎士の練習が見られる場所があるらしいから行くか?」
「うん、行きたい!」
そうと決まれば、お茶を済ませて向かう――。
確か公開練習しているのは、城壁の近くだったはず、城壁の階段を上って、壁上に辿り着き、下を見ると騎士たちが剣や盾を使い、練習をしていた。
「すご~い! 騎士がいっぱい練習をしている!」
この様子だと見るのは初めてだな。
しかし……楽しそうに見ているな……本当は騎士学校に行きたかったんじゃないのか……。
聞いてみるか……。
「なあ、ブレンダなんで魔法学校にしたんだ? 本当は騎士学校の方がよかったはず……」
「違うよ、お兄ちゃん、わたしは騎士学校にいくなんて思っていないよ! 最初から魔法学校にいくって決めていたよ!」
…………はい?
最初から決めていた……それ初耳なんだが……ミランドさん、話が違う……。
「じゃあ、なんで剣の稽古ばっかりしていたんだ?」
「それはお父さん、お母さんが騎士の家系だからしょうがないと思ったから、剣の稽古をしていたんだよ!」
意外に大人の対応をしているな!?
これだと我慢していたのでは……。
「剣の稽古は嫌じゃないのか?」
「そんなことないよ! 【剣術】のスキルがあったから楽しいよ! けど、お兄ちゃんみたいに魔法が使いたいから違う場所で魔法の練習もしていた!」
まさか裏で魔法を練習をしていたとは……本当に努力家だな。
そうなると、みんな勘違いしていたんだな……まあ、話が聞けてホッとした。
「そうか、頑張れよ! 困ったときはいつでも相談に乗るからな!」
「うん! わたしはいつかお兄ちゃんと一緒に魔法で魔物と戦いたい!」
魔法で戦うには卒業してからになるな……。
「ハハハ、そうか……」
すると微かに魔物の魔力反応を感知した。
「魔物だ! あれは――フェザースネークだ! 100以上はいるぞ!」
壁上で周りを監視している騎士が大声で叫んだ。
このタイミングで魔物かよ……しかもこっちに向かって来る……。
フェザースネークはDランクの魔物、大した魔物ではないが空を飛んでいるから非常に厄介だ。
それに100以上って……。
「早く弩の用意を! あと魔法と弓を使える者を呼んできてくれ!」
騎士たちは慌てて大型の弩の準備をしているが、これじゃあ、間に合わない。
住人に被害が起きる可能性がある。
しょうがない……一肌脱ぐか。
「ごめんよ、ブレンダちょっと魔物を魔法で懲らしめてくるから」
「うん、いいよ! お兄ちゃんの魔法見たい!」
フェザースネークの距離が数百mに近づいてきた――これくらいなら届きそうだな。
氷魔法を使う――。
「――――アイシクルニードル・レイン!」
――無数の氷柱の針がフェザースネークを襲う。
――そしてほとんどが地面に落下した。
これなら騎士たちに任せられるな。
それを見た騎士が呆然としていた。
「君はいったい……何者なんだ……」
めんどくさいからその場を去ることにする。
「いえ、ただの通りすがりの冒険者だから。あとは任せたよ騎士さん。行こうブレンダ」
「うん!」
「ちょ――君!」
ブレンダと手を繋いで城壁の階段を下りた――上から見えないように人混みに紛れて、隠れる。
これなら騎士も追ってこないだろう。
その後にブレンダは俺の手を強く握りしめた。
「やっぱりお兄ちゃんはスゴイ! 早く氷魔法使いたい!」
「その内に使えるよ、昼食の時間になったから店に行って食べよう」
「うん!」
さっきより上機嫌で鼻歌を歌いながら歩く――そんなにすごかったのかな?
――その後。
昼食を食べ――。
雑貨店で買い物をしたり――。
屋台を巡り食べ歩きをしたり――。
観光スポットである時計台の上に行き、周りを眺めたり――。
夕方までの楽しい時間が過ぎていった。
宿に戻る前に噴水広場のイスに座って休憩する。
「お兄ちゃん、今日はありがとう! 今までで、1番楽しかったよ!」
「それは良かった」
1番楽しかったとか嬉しいこと言うなー。
このタイミングで渡そうか。
無限収納からプレゼントを出す。
「ブレンダ少し早いけど、誕生日に渡せないからこれ、贈り物」
「えっ!? これ……わたしにくれるの!?」
「そうだよ」
「あ、あ、ありがとうお兄ちゃん!?」
「ぐはぁ!」
これ以上ない力で抱きついてくる――。
「開けてもいい?」
「も、もちろん……」
ブレンダは箱を開けると飛びはねて喜んでくれた。
「キレイな首飾りの魔石だ! 嬉しい!」
「その魔石はワイバーンの魔石だよ」
「そうなの!? わたしワイバーン大好き!」
ミランドさんの言うとおりワイバーンは好きみたいだ――それに喜んでもらって本当に良かった。
ブレンダはネックレスを首にかける――うん、少し長いけどアクセサリーとして考えれば似合っているな。
「これはただ綺麗なだけじゃないよ。魔石に魔力を通してみて?」
「こう?」
ブレンダは魔石に魔力を通した――少し弱く輝いている。
「わあ~キレイ!」
「この魔石に魔力を通せば練習にもなるから頑張るのだよ」
「え!? こんないいの本当にもらっていいの!? これスゴイ高いのじゃあ……」
まさかこれ売り物だと思っていたのか……。
「これは俺が作った物だよ。それにワイバーンの魔石も狩りに行って取ってきた物だから大丈夫」
「これ、お兄ちゃんが作ったの!? スゴイ! ずっと大切にするね!」
再び喜んで飛び跳ねた――まあ、軽いサプライズは成功したということでいいかな。
「お兄ちゃん!」
「ん? うぉ――」
ブレンダは抱きついて頬っぺたにキスをした――。
「えへへ……大好き……」
お互い赤くなってしまった……。
『まあ、予想はしてたけど、責任は取った方がいいよ』
デートときは気を遣ってしゃべらなかったエフィナは口を開いた。
『責任って……まだ、子供だから学校で好きな人とかできるだろう』
『そう? じゃあ成人になっても気持ちが変わらなければ妻に迎える覚悟でいなよ!』
どんなけスケールがデカくなっているのだよ!?
まあ、薄々は気づいていたけど……ブレンダが成人してほかに男ができなければ覚悟はする。
そうなるとリンナさんはどうなる……この場合だと一夫多妻は逃れられないな……まだ時間はある……しっかり覚悟は決めないと。
『わかったよ……』
『よし、アイシスと精霊には言っとくから、覚悟してね!』
なぜそこは言うのだ!?
あっ……もういいです……逃れられないのはわかっています……。
「宿に戻ろうか……」
「うん!」
顔を赤くし、笑顔で返してくる――手を繋いで宿に戻る――。




