553話 衝動
お茶を飲んで落ち着かせようとしたが、全然収まらない……。
どうしてだ……? 身体も熱くなってきた……本当にメアが食事に滋養強壮剤を盛っただろ……。
というかなんで外に出たい衝動なんだ?
そんなことはどうでもいい、このままだと――。
『大変、セイレーンたちが無数のクラーケンに襲われてケガしている! 私、戦闘で手が離せなくて困っているの! エメロッテお願いできる?』
リフィリアから念話がくる。
大事になっているな……。
さすがに海では魔物除けの花は効かないよな……。
『大変ね~、すぐ向かうから安心してね~』
『大変そうだね、ボクも手伝うよ』
王都に行っているエフィナも手伝ってくれるみたいだ。
『ありがとう、できるだけ急いでね!』
リフィリアから念話が切れた。
おっ、エメロッテが行ってくれるなら少し外に出られる。
『じゃあ、そういうことだから~、アイシスちゃん、主ちゃんをよろしくね~』
ですよね……。そう簡単には行かないか……。
『わかりました。ちょっと食事の準備で忙しいので十数分お待ちください』
おっと、これはチャンスだ。アイシスが来るまで外に出られるぞ。
「しょうがないわ~。じゃあ、主ちゃん、絶対に出てはいけないからね~。絶対にだよ~」
「わかっているよ」
念を押されたが、エメロッテは空間魔法を使ってリフィリアの援護に行った。
よし、外に出られるぞ。
さすがに領地で歩いているとバレるから。こっそり遠くに行こう。
そうだな――そうだ、小人村近くにある花畑にするか。
誰にも邪魔されず気分転換ができる。
シエルに悪いが、独り占めさせてもらう。
俺は空間魔法を使って花畑に移動する――。
視界が変わると、一面、橙色の花が広がり、風がなびいて花びらが散って舞っている。
冬なのにここは暖かくてのんびりできるな。
そのまま花の中へ倒れて深呼吸する。
ここに来た瞬間、衝動が収まり、穏やかな気持ちになった。
すぐ収まるとは……よほど外に出たかったのか。
まあ、いいや、ギリギリまでのんびりしよう。
…………ふと思ったが、一人になるのはいつぶりだ?
ほとんどに一人になる時間なんてあまりなかったしな。
たまには悪くはない。
時間が過ぎてあっという間に戻る時間となった。
はぁ……全然もの足りない……。
まあ、みんなに心配されるのもあれだし戻るとしよう。
『もう少し休んでもいいだろ……』
ん? 頭に響いた声は……俺?
まさか幻聴が聞こえているとは……。よほど寝室には戻りたくないだろうな……。
だったら念話がくるまでのんびりしてればいいか。
アイシスなら大目に見てくれるし、引き続きのんびりしよう。
…………あれ? さらに十数分経っても念話がこないぞ?
食事の準備で忙しいのか?
まあいいや、十分のんびりできたし戻るとしようか。
その前に……近くにいる魔物――オーガを討伐してからだ。
こんな良い場所を荒らされてたまるか。
「――――ガァァァァ!」
俺に気づいて向かってくる――。
ちょうどいい、エフィナの主となったことで【武器創造】は強化されこの世で一番硬い鉱石の武器を創ることができた。
その試し切りになってもらう。
俺はアダマンタイト…………えっ? なんで炎の魔剣を出した……?
しっかり【武器創造】を――。
「――――ガァァァァ!」
考えている暇はない、また今度だ。
オーガが殴ってくるのを躱して腹部を切りつけて、全身燃え盛り、灰に変わってしまう。
えっ? なんで「絶炎」を使った? 俺は使う感覚はなかったぞ……。
しかも一部花に燃えて広がってしまった……。
急いで水魔法で消火して事なきを終えた。
いったいどうしたんだ……?
俺……疲れているのか……?
戻って考え……て……急に胸が苦しい……。
しかも魔力が……以上に漏れている……これは……魔力暴走……?
なんでだ……? しっかり意識があるぞ……。
『戻ることは許されない……』
なんで俺の声が聞こえる……?
わけがわからない……。
『やっと……やっとだ……。お前にはうんざりだ。眠っていろ……』
「お前は誰だ……?」
『俺は――――』
はぁ……?
まったくわけがわからない……。ダメだ意識が……。




