539話 女神のエゴ
『驚いて無理はない。この街は私を信仰しているからな、レイ君に伝えることが可能だとも。まあ現界は、無理だが』
『でも、ファルファは布教活動はしていないはずでは……?』
『彼女は活動はしていないが、熱心にお祈りしていたら自然に信仰する者が多くなった。まさか、ティーナ信者がいなくなったのは驚いた』
自然はすごいですね……。それほど、ファルファは感謝しているみたいだ。
『では、ファルファを助けた理由を聞いてもよろしいでしょうか?』
『理由? 帝王が気に食わないだけだ。それ以上何があるかね?』
ですよね……。帝王の悪趣味をなんとか止めようと察しました……。
『だが、助言できたのはたまたまだ。運良く繋がっただけだからな。あの大陸の様子を見えることなんて稀だ』
歪んだ信仰で見ることができないしな。じゃあ、ファルファに繋がったのはたまたま歪んでいなかったってことなのか。
『しかし……両親を亡くしてしまったことに後悔をしている……私のエゴで殺してしまった……。もちろん、こちらに来たときは謝罪し、待遇も良くしている……。彼女にも謝罪した……』
後悔はあるみたいだ……。けど――。
『ファルファは今でも感謝しているじゃないですか。帝王の下に行くなんて選択はなかったと思います。両親はそれをわかって逃げる道を選んだと思いますよ』
励ましになるかわからないが、俺はこれしか言えない。
いや、余計だったかもしれない……。
『レイ君もあの親子と一緒のことを言うのだね……。ありがとう……少し気が楽になったよ……』
よかった……気まずくならなくて……。
こういうことはあまり首を突っ込まないほうがいいな……。
『それはなによりです……』
『すまない、変な話をして……。こんなことを言ったあとに申し訳ないが、できれば、ファルファを力になってほしい。プレシアスにいるが、ズイールと目と鼻の先だ。もしものことがあったら私でも対処できない。お願いできるかな?』
『わかりました。任せてください』
『ありがとう……。では終わったら酒を飲もうでは――』
念話が切れてしまった。
ソシアさんって……酒好きですよね……。
確かにファルファはプレシアス大陸で住んでいるとはいえ、ズイールの奴ら――帝国軍が強行したら危ない。
しかし、メデアコットと近いのであれば噂は広まっているはずだが、手を出しては来ない。まあ、後ろ盾にヤーワレさんがいるからとは思う。
下手に手を出せないことはわかっている。
危なくなったら子どもたちと一緒に俺の領地で匿う。
さて、俺はヤーワレさんに挨拶をしたことだし侯爵の屋敷に――。
「ところで、子分からレイ君の領地に天使が住んでいると聞いたのだが、本当なのかな?」
このタイミングで聞いてくるのは、マズい……。
今日はもう面倒くさいから明日に――。
「ああ、いるぞ。翼の生えた正真正銘の天使がな。お前好みの幼い容姿をした子だ」
ちょ、ヴェンゲルさん、余計なことを言わないでください……。
「なんだと!? その話ぜひ聞かせてくれ!」
「では明日――」
「今日に決まっているではないか! 飯は奢るから語りつくしてくれ!」
俺の腕をつかみ、もう逃げられない状況です……。
そのままギルドに強制されました……。
ヴェンゲルさんが明日の予定を言い終わると、ヤーワレさんは目をギラギラに輝かせて待っていた。
それはいいのだが……なんで、ギルド専用の食堂で話をする……?
みんな、天使という言葉に反応して寄ってくるのですが……。
はぁ……適当に話して帰らせてもらおう……。
話したあとにみんなに質問責めされて、屋敷に戻ったのは夜中になってしまった。




