536話 騒動再び……
中に入ると、何百人は余裕で入るホールでドデカいシャングリラがぶら下がっている。
やっぱり大きな地位を持つと派手さが違いますね……。
俺たちはホールで待つように言われて数分後、2階から侯爵と夫人、ド変態と似ているミスリルの鎧を着た凛々しいエルフだ。
あれが、弟とわかった。
「ようこそ、我が屋敷へ――ゆっくり休むといい」
「遠いところお疲れ様~、ゆっくり休んでね~」
2人は笑みを浮かべて歓迎してくれる。
弟は会釈をして表情が硬い。
「またお世話になります」
シェルビーとサーシャは深く頭を下げた。
またということは以前、泊まったってことか。
「我輩はこれくらいしか協力ができん、そうかしこまなくてもいいぞ」
「そうよ~、深く考えすぎないでね~」
「ありがとうございます」
「立ち話はあれだ。皆、疲れているだろう――部屋に案内してくれ」
「その前に侯爵、冒険者が門番をしていたが、何があった?」
ヴェンゲルさんが問いだすと侯爵はため息をして、夫人は笑顔がなくなり、弟は下を向く。
嫌な予感が的中してしまった……。
「わかった……その訳を話す……。すまないが、レイとサーシャも一緒に話したい。いいかな?」
俺とサーシャも?
もうズイール関係とわかりました。
「侯爵様、私も一緒に――」
「すまない、シェルビー嬢……。君に話せることではない……」
「わ、わかりました……」
勘づいたシェルビーだが、断られて落ち込む。この話は子どもが参加できない話だろうな。
「シェルビーさん、侯爵様は訳あってのことです……。心配せずとも大丈夫ですよ……」
メアが不安を取り除こうとフォローをいれる。
まあ、そのあとにサーシャに聞くと思うし、そのうちわかるだろうな。
その間、シェルビーはメアに任せて、俺たちは1階にある客間に案内にされる。
弟も一緒に入ってくる。
弟以外はソファに座り、侯爵は手を組み下を向いてなかなか言わない。
「そろそろ話してくれよ。話さないのだったら息子に聞くぞ」
「我輩が話すから待ってくれ……。突然のことで整理がつかない……」
「まあ、無理をするな、お前のバカ息子が脱走して落ち込んでいるのはわかる。まさかほかの奴らも脱走したってことではないだろうな?」
すると侯爵が頭を抱えた。
あっ……当たりましたね……。
「そのまさかだ……。数日前……バカをやった全員が脱走をした……」
ド変態騒動の全員が脱走したのか!? かなり大事だぞ!?
「はぁ!? 大問題だぞ!? その話、聞いてないぞ! 陛下には言ったのか!?」
「これから言うつもりだ……。何かの間違いと思って今も捜索中だ……」
「だから冒険者が門番をやっていたのか……。街中の騎士があまりいないと思っていたが、ここまで大問題になっていたとは……。じゃあ、今も見つかっていないことは……」
「ズイールに脱走したと考えられる……」
「だろうな……。よくもまあ……数千が逃げたものだ……」
「監視していた騎士を怪我をさせ、倒れている隙に逃げられた……。いくら強い騎士でもあの数が暴動を起こすと止められん……」
でしょうね……。まさかと思うがド変態を追っかけに行ったに違いない。
全員が脱走するなんて前から計画を練っていた可能性がある。
せっかくの戦力が水の泡だ。
「俺のせいであります……。俺がもっとしっかり指導してれば……」
弟が口を震えさせて開いた。指導係をやっていたのか。
「ビアンは悪くない……。あのバカの異常なまで崇拝――洗脳が解けなかった我輩の失態である……。
あのバカがどこがいいのか本当にわからん……」
洗脳ではなく完全に信者だから無理だろうな……。
「失態はともかく、ズイールに逃げたなら追うことは無理に等しいな」
「ああ……メデアコットは封鎖されて追うことすらできない……」
地図では陸が繋がっているのはここと、メデアコットなんだよな。
メデアコットを通らないかぎり捜索は無理だ。
「話は聞いたが、どうするつもりだ?」
「我輩たちではどうしようもない……。だが、ワイバーンを乗っている君たちなら捜すことができる」
「おいおい、そんな余裕はないぞ。お忍びでズイール大陸に行くんだぞ」
「道中だけでもいいから捜してほしい。もちろん迂回してまでとは言わない」
「道中だけ……。わかったよ、周りの確認はする。まあ無理だと思うけどな」
ヴェンゲルさんの言うとおりルートは決められていて捜索は無理だとは思う。しかも一定の高さで飛んでいるから見えにくい。
もうどこかに隠れているだろう。
「すまない……。サーシャもお願いできないかな? 君は目が良いと聞いている」
「あの高さなら問題ありません。見つけることができなくても料金が発生しますが、それでもよろしいでしょうか?」
あの高さで地上がよく見えるのかよ!?
どれだけ視力がいいんだ……?
しかもお金はもらうのですね……。
「かまわないよ。見つけられなくとも金貨1枚でいいかな? 見つけたら追加で渡そう」
侯爵は金貨を出すと、サーシャは受け取った。
「成立ですね。では、できるだけのことはします」
「頼んだよ。我輩からは以上だ。ゆっくり休んでくれたまえ」
「わりぃが、これからレイとヤーワレに会いに行く。夕食前には戻ってくる」
「そうか、明日の打ち合わせをするのか?」
「まあ、そんな感じだな。良い飯を期待してるぜ――」
俺とヴェンゲルさんは屋敷を出ると、ため息ばっかりでした。
「はぁ~、面倒なことになっちまったな……。これ以上は勘弁してくれ……」
もし、ド変態信者がズイールの戦力になってしまったら大変だよな。
他人事になるが仕方ないと言いようがない。
切り替えないと前に進めない。
さて、ヤーワレさんに会いに行かないと――。




