532話 踊らされている……
――2日後、
王様から連絡があり、アンバーとメアとヴェンゲルさんと一緒に来てくれとのこと。ヴェンゲルさんはわかるが、なんでメアも?
「フフフフフフ……ワタクシが呼ばれるということは陛下に信頼されていますこと……」
信頼というより、メアしか頼めないことで呼ばれるはずだ……。
まあ、とにかく、城に行って確認してみるか――。
いつもどおり空間魔法で城の庭に移動すると、ジェストが案内をする。
中に入り、廊下を歩いていると、指定された部屋の前に王子の従者――ワイアットとロディがいた。
王子もいるのか。
俺たちに気づくと会釈をして、部屋の中に入る――そこにいたのは、王様、王子、シェルビーに、世話役でもある元暗殺者のメイドのサーシャだ。
「この空気からして良い知らせではないな」
「魔王さんの言うとおりだよ……。ドミベック商会に尋問したところ洗いざらい話してくれたと報告がきたよ……」
「それで、どこまで情報を知っていた?」
「幸いなことに僕たちの計画はわからなかったみたいだけど……。クレメス辺境伯は冒険者と協力をしていることを帝王には報告されている……」
王様の発言で王子は悔しそうに拳を握りしめて、シェルビーは涙をボロボロと流す。
やはり危険な状況だ……。
「それはわかった、レイと小娘を呼んだってことは頼みたいことがあるよな?」
「はい……。ドミベック商会しか頼るところしかなく、ほかの商会のほとんどは帝王側について支援ができないのです。レイ君とメアさんにはシエルさんに乗って、拠点としているシンガードまで僕たちが用意した物資を送ってほしい……。あくまで辺境伯に支援するだけだよ……」
そうきたか、まあ、物資を運ぶくらいなら引き受けてもいいが――。
「おい、盟友を加担させる気か? それに、メデアコットを占拠したら支援する話ではないか?」
アンバーは反対のようだ。女神との約束で俺たちは戦争に巻き込んではいけないからだ。
王様に俺が参加させない条件を出しているから、規約違反だと思っている。
別に戦争行くわけではないし、王様の言うとおり、あくまで支援するだけだ。
これくらいなら女神も許してくれるだろう。
「魔王さん……状況が違うのです……。なんとしても辺境伯と冒険者には持ち直してほしいのです……。今は一時撤退しているけど、支援すれば、戦況も変わり、メデアコットを占拠できます」
アンバーは腕を組み、目をつぶって考えている。少し情報を整理しているようだ。
「魔王殿、どうか叔父――辺境伯を助けたい! 約束していることはわかっている……けど……どうか、どうか――」
王子は必死に頭を下げる。それでもアンバーは考えていた。
「魔王……いつまで考えていますの……? たかが支援程度のことで考えているとは情けないですこと……」
メアが口に出すとは意外だ。王子に――いや、シェルビーのために言ったのか。
泣いている子を黙って見過ごせなかったようだ。
「おい、小娘、状況がわかっていないのか? 盟友のために――」
「俺はいいよ。物資を運ぶくらいなら大丈夫だろう。もし、バレても白を切ればいい話だ。そうでしょう陛下?」
「うん……、責任は僕が取るよ。何かあったときは僕が処置する」
「…………はぁ~、しょうがない……。好きに行ってこい、オレは知らんからな! もう一度言う――オレは知らんからな!」
観念したのかアンバーは投げやりだが、承諾してくれた。
これは俺の判断だからアンバーは女神には何を言われても悪くはない。
「魔王殿、ありがとう!」
「魔王様、本当にありがとうございます」
王子とシェルビーは精一杯、頭を下げた。
もしかして、メアを呼んだのはアンバーを説得するためとシェルビー関係の依頼は受けてくれると思ったみたいだ。
王様は用意周到である。
さて、ここからが問題である。
「魔王さん、ありがとうございます。では詳しくことを話すね――物資は集まり次第、連絡するからよろしく。シンガードの案内としてサーシャを乗せてほしい――」
案内役はサーシャが適任だろうな、さすがに王子が案内をできる立場ではない。辺境伯に騙されてたと帝王には話がいっているはずだ。
もちろん、シェルビーも――。
「あの……私も……私も連れていってください! お、お父様にあ、会いたいです!」
シェルビーの発言で周りは驚く。
…………マジかよ。




