512話 魔王でも知らない
「あなたも行きたいなら言ってよ、口に出さないとわからないわ」
オーロラが言うと、顔が膨れてムスッとする。
シルキーは無口なのはしょうがない。
それはいいとして、行くのはいいがユニコーンだしなー、遠出ならアンバーの許可をもらわないといけない。
ほかに問題なのが――。
「故郷って海中にあるのか?」
「陸に決まっているわよ。昔の方と一緒にしないでちょうだい」
陸なのか……けど、昔は海中で当たっていました。
ということは――。
「ちなみに故郷にセイレーンは――」
「もちろんいるわよ。今、知り合いがいるかわからないけど」
ですよね……。
海神が住んでいる場所なんて聞いたことないぞ……。
そんなところあったら大騒ぎだ……。
アンバーなら知っていると思うが。
陸でなければシエルと背中でお留守番だったが、杞憂でした。
「アンバーには俺が言ってと――兄にも許可をもらったらついてきていいぞ」
シルキーは頷いてその場から離れて兄――ホーツの元へ。
それじゃあ、俺はアンバーに連絡するか――。
アンバーは――。
『あの娘が遠出か。レイがいるなら許可しよう。くれぐれも気をつけて行けよ』
あっさり許可がもらえた。
『助かるよ。ところでセイレーンの住処ってわかるか?』
『なに冗談言っている? セイレーンが群がる場所なんて聞いたことないぞ』
知らないのか? じゃあ、魔大陸周辺の場所ではないみたいだ。
『いや、オーロラがほかにもセイレーンがいるとか言ってな』
『はぁ!? 本当にあるのかよ!? 人魚族が聞いたら大騒ぎだぞ!』
アンバーもかなり驚いている様子で……。俺からしたらユニコーンを保護していたことが驚くが……。
確かに人魚族に知られると、遠くにいようが拝みにきそうだ。
『まあ、そういうことだ。何かあったら連絡して――』
『オレも行くぞ! この目で確かめないといけない!』
『戦争の準備で忙しくないのかよ?』
『それとこれは別だ! 息抜きとして行くぞ!』
息抜きかよ……。気になってどうしようもないようですな。
『わかった、迎えに行くからよろしくな』
『おう、楽しみに待っているぞ!』
アンバーから許可をもらい、あとはホーツだけだ。
昼過ぎになると兄妹で揃って近づいて――。
「シルキーをお願いします」
ホーツがお辞儀をしてこちらもあっさりと許可する。
シルキーは笑顔で機嫌がよかったがホーツはため息をついていた。
この感じだとしつこく言われたみたいだな。
兄が根負けしたとみた。
翌日、オーロラは集会場でみんなに披露して大歓声を浴びて、無事に終わった。
「明日は、あたくしの故郷~」
歌いながら上機嫌だな。
「なあ、故郷の海水はほかと比べてどう違うんだ?」
「あなたたちで言う、塩が濃いと言ったほうがわかるかしら。ほら、あたくしが創ったダンジョンみたいな感じ」
塩分濃度が高いってことか。あのダンジョンの塩の結晶は異常だったな。
「まさか塩の塊浮いているなんてないよな?」
「そんなの浮いていたら邪魔でしかたないわ。島に塩が付着するくらいだと思ったほうがいいわ」
それはそれで、困ります。
というか普通の人間は住みづらいだろうな……。
特に潮風で髪がべたついて手入れが大変ですね。
まあ、今回は文句を言う人を連れて行かないからいいか。
その誰かさんはソウタの監視で忙しいし。
何も問題なく一日が終わろうとしたが――。
『レイ……サイガが……サイガがオレを外出させてくれない……助けてくれ……』
眠る前にアンバーから連絡がきた……やっぱり戦争の準備してるときはダメなようですね。




