498話 親友の娘
俺が移動していると、ライカは察したのか勢いよく駆け走って俺を追い越す。
もう感情が抑えきれていませんな……。
「きゃあ!?」
そう思っていたら甲高い声で驚く女性の声が聞こえた。
我慢していたのはわかるが、ほどほどにしてくれよ……。
その声で急いで走ると――。
「チトセ! チトセ! チトセ!」
「私はお母さんじゃないよ!? だ、誰か、この子を止めて!」
ライカは赤色の甲冑と袴を着た黒髪ロングの鬼人族の美女を押し倒して、尻尾をブンブン振りながら、顔を舐め回していた……。
集まっている小人はライカの暴走を見て戸惑っていた。こんな姿、初めて見たのかもしれない。
俺はライカを抱えて無理やり離した。
彼女はホッとして起き上がると大体160㎝前半の身長だった。
「主よ、チトセともっとくっついていたい!」
「落ち着け! 悪いな、うちの守り神が飛びついて……」
「えぇ……、いきなりのことで驚いたけど……大丈夫ですよ……。この子が守り神なのですか……? もしかしてお母さんが言っていた「いぬっころ」かと思いました……」
「うぅ……ち、チトセ――――!」
今度は涙を流して号泣しているのですが……久々に「いぬっころ」と言われて感極まっていますね……。
「ああ、その「いぬっころ」がコイツだ。もう察しがついている。チトセの子ども――チヨメでいいんだよな?」
「国王陛下から聞いていましたが本当だったのですね……。そうです。私は稲垣千歳の娘の――稲垣チヨメと申します」
チヨメは深くお辞儀をして礼儀正しい。
「俺はここの領主をしている。レイ・アマガセだ。チトセのスキルでかなりお世話になっている。ここは自分の故郷だと思ってくつろいでくれ」
「やはりそうでしたか。周りの畑には見覚えのある野菜がありましたのでそうだと思いました。歓迎ありがとうございます。領主様」
「俺のことはレイでいいよ、お世話になった娘に敬語はいらない」
「そうですか。ではレイさんと呼びます。領主であるあなたには敬語で話します。お偉い人には敬語で絶対に接するようにお母さんから言われているので」
母親の言うことは絶対なのか……。
島暮らしだし、周りに人なんていなかったからそうなるか。
「主よ、いいから離してくれ!」
「ダメだ、また飛びついて話が進まないからな、少し我慢してくれ」
じたばたと俺から抜け出そうとするが、しっかりホールドしている。
まったく……もう少し落ち着いてくれ、チヨメがドン引きするぞ。
すると、尻追い組が勢いよく駆け寄って来るのだが……。
「やっぱり、あのときの美女だ!」
「やはり俺と運命で繋がっているようだ……」
「ああ……美しい……よろしければ……一緒にお茶でも……」
しまった……コイツらチトセのこと知っていたな……。
「なんで王国騎士が!? い、いや……見ないでください……」
尻追い組の熱い視線に、戸惑いってしまい俺の後ろに隠れる。
もしかして、城に泊まるのを断ったのは尻追い組のいやらしい視線があったのではないのか?
いや、まさか…………あり得るな……。
ロードのときより鼻息が荒いです……。
「お前ら……儂の大事なチトセの娘に手を出すな……。それ以上……やらしい目で見たら……あとはわかるよな……?」
ライカは全身バチバチと電気を発生させ、ご立腹です。
「だそうだ。ライカを放す前に逃げたほうがいいぞ。ベヒジャミより痛いぞ」
「「「し、失礼します!」」」
尻追い組は尻を隠して急いで逃げてしまった。
ベヒジャミと言うと訓練を思い出して効果覿面である。
今度からこういうときに利用しよう。
「もう大丈夫だ。悪いな、わけあって王国騎士が滞在をしている。できるだけ近づかないように言うよ」
「あ、ありがとうございます……。あの人たち、城に会ってどうも苦手で……」
アイツらのせいで泊まれなかったな……。まったく、いい迷惑だ。
「それより、聞きたいことがあるだろう? 屋敷に案内するからお茶を飲みながらでも」
「はい、そのためにここに来ました。その前に食事処はありますか……? ちょっとお腹が空いてしまって……」
「なら、俺のところで用意するよ。何か食べたい料理はあるか?」
「いいのですか!? では蕎麦とかありますでしょうか? どこに行ってもなかったので困りました」
やっぱり蕎麦のことは知っていたか。
「ああ、もちろん。好きなだけ食べていいぞ」
「あるのですか!? ありがとうございます! ああ……久しぶりに蕎麦が食べられる……」
この感じだと和食しか食べてなさそうだな。
島から出てかなりのギャップもあって大変だっただろうな。
「儂が作る!」
唐突に何を言う……。試食担当しかしてないのに急に料理を作るとか言うのではありません。
暴走するからこのまま抱えてチヨメを案内しよう。




