455話 白石の手掛かり
森の中は薄暗く湿っていた。
奥に行くたびに霧が濃くなり視界が不安定である。
ちらほらと魔力反応があり俺たちに向かってくる――。
「せっかちな大木さんね~」
エメロッテは【武器創造】で緑龍の槍を創り、見えてきたトレントを突きつけて串刺しにした。
俺も【武器創造】で鉄の剣を創り、近づいてきた敵を切り、真っ二つにする。
霧で見づらいが魔力反応とキシキシと音を鳴らしてバレバレだ。
だが、霧が濃すぎて調査ができない状況だ。
「霧が濃くて困ったわね~。まだ敵もまだいるし~、山菜がなければ魔法で全部吹き飛ばそうと考えてたのに~」
龍魔法は絶対にやめてください……。山を崩壊させるほどの威力なので絶対にダメです。
急に大胆な発言をするから困ります。優しい声で言っているが冗談に聞こえません。
「いったん調査をやめて引き返すか?」
「う~ん、結構奥まで行ったから進みましょう~」
一度決めたことは曲げない頑固者でもある……。
というかもう前に進んでいる。今日中に終わらせたいみたいだ。
しょうがない、エメロッテの言うとおりにするか。
さらに奥へ――急な斜面を登り、平坦な道に入ると視界が広がり霧が少し晴れていた。
そして周りにはいろんな種類の山菜とキノコ、薬草など生えていた。
どうやらここ周辺で邪石付きフェンリルを見つけたらしい。
周囲を捜索するが手掛かりになるものは一切なかった。
「う~ん、特に何もないわね~」
これは何もないで終わるな……。
あの時一瞬で光ったのはただの偶然なのか?
「別の場所でも探すか?」
「そうね~。今日はもう少しここで探して明日からでいい~?」
まあ、見逃したところもあるだろうし、隈なく探してみるか。
すると、魔力反応――トレントを見つけた。
霧で見づらい、音を立てて何かしている。
いったい何をしている?
見える範囲に近づくと、むしゃむしゃと色鮮やかなキノコ――毒キノコを食べていた。
おかしい、トレントはキノコを食べることはないはずだ。
普通なら血と肉を養分にして成長させるはずだが、俺たちを気にせず食べ続けている。
食べているだけだ、その隙に切り――。
「待って、このトレント何かありそうだから様子を見ましょう」
あやうく切りそうだったぞ……。
しかし……かなり気かづいたのにトレントは食べ続けていた。
確かにここまで養分にならないキノコを食べ続けるのはおかしい。
様子を見るか。
「わかった、少し離れて見よう」
俺たちは霧でも見える範囲まで離れて様子を見る。
トレントは毒キノコを食べ終えると、急に走り出す。
その後を追うと――全長3mあるビッグボアがいた。
「――――ブヒィィ!」
トレントに気づくと助走をつけて勢いよく突進しようとしてくる。
だが、トレントは立ち止まり、大きく息を吸い込み、紫色の粉塵を吐き出す。
「ブ、ブヒィィィン……」
ビッグボアに粉塵が当たると、急に倒れ込み痙攣する。
そしてトレントはビッグボアに近づいて大きな口を開けて捕食し始める。
「いまのって……」
「毒粉だね~。トレントが食べた毒キノコを体内に蓄積させて毒粉を生成してビッグボアを弱らせたみたい~」
「普通のトレントはできないぞ……。もしかして異常種か?」
「う~ん、はっきりわからないけど、そうかもよ~。もう少し調べないとわからないわ~」
「調べるとしてもこの件は後回しになるぞ。フェンリルの手掛かりが先だ」
「わかっているよ~。けど~何もなければ調べなくてもいいよ~」
別に気になるわけでもなさそうです……。
まあ、そんな簡単にユニークは現れるわけではない。こいつ1体だけだろう。さっさと倒して山菜を採って帰るか。
ビッグボアを食べ終えたトレントは俺たちを向いて毒粉を吐いてきた。
今度は俺たちが捕食対象かよ。
だが、こんな薄っぺらい毒は効かない――魔剣の加護で状態異常は無効だ。
ユニークと言えど、ただのトレントでしかない。
俺はトレントを剣で真っ二つにしてあっさり倒した。




