453話 フェンリルだが……
シノより小さい――小型のフェンリルが尻尾を振って中に入ってきた。
それに……背中には白い石――邪石と同じのが付いている……。
これはいったい……なんだ……?
このフェンリルの魔力が白石に吸い取られているぞ……。
だから反応がなかったのか。
笑顔でいたエメロッテが真顔になってフェンリルを見る。
穏やかな空気ではなくなった。
「この子、いつからここにやって来たの?」
「もう1年くらい経つかな。山菜を取りに行っていたら酷い怪我で倒れていたの。手当てして治りは遅かったけど、元気な姿になって良かったわ」
最近ではないのか……。
治りが遅いのは白石の影響かもしれない。
この白石は邪石の一種でいいよな?
こんなのがまた増えたならかなり厄介になるぞ……。
「魔力が吸われている以外は特に問題ないわね」
「エメロッテ……このワンちゃん治せるの……?」
ルチルは悲しそうに言う。
「様子を見ないとわからないわ。だけど――」
「ワン!」
フェンリルはシノに駆け寄りテンションが上がっている。
そしてお互いじゃれ合い始める。
こうして見ると魔力を吸われている以外、問題はない。
だが、今後影響がないとは限らない。
「焦ってもしょうがないね。主ちゃん、1週間くらいここに泊まってもいいかしら~?」
いろいろと調べたいようだ。
邪石の一種なら見過ごすわけにはいかない。
俺も残って様子を見る。
「ああ、納得行くまでいいぞ」
「ありがとう~」
「1週間と言わずにずっと泊まっていけばいいのに」
さすがにずっとはいられません……。
なんだかんだ寂しいようですね。
「大丈夫ならいいや! アタシも交ぜて!」
ルチルは気にすることをやめて飛びついてじゃれ合いに参加する。
まあ、ルチルも一緒に残ってくれそうだし何かあったら対処してくれる。
「ハハハ! 少々、長居なるがよろしくな!」
「ハハハ! 久々に語りつくそうではないか!」
当然、セイクリッドとモリオンも滞在することになった。
「シエルはどうする? 無理に一緒にいなくてもいいぞ」
「妾は花が気になるから一緒にいるぞ」
忘れていました。シエルにとってここは楽園でしたね。
結局全員で泊まることになりました。
空間魔法で戻らないでアイシスに念話で報告するか――。
――アイシスに報告してデスナイトの料理ができあがった。
湖で獲った鱒のような大きな魚の香草蒸しに豆と燻製肉と野菜を煮込んだスープである。
味のバランスがよくとても美味しかった。さすが【料理人】のスキルを持っていることだけある。
「いっぱいあるから遠慮しないでね」
気合いが入り過ぎたのかスープは大鍋で作るとは……。
まあ、こちらは大食が多いから大変ありがたいですけどね。
夕食後、外に出てエメロッテとセイクリッド相談する――。
「エメロッテ、あの邪石みたいなものに何か怪しい変化はあったか?」
「魔力が吸い取られていただけで特になかったよ~」
瞬きしないで観察していても何もなかったか。
「まさか友が邪石付きのフェンリルを助けたとはな……。簡単に破壊できるが……そのあとはやはり……」
「フェンリルが白骨か灰になる可能性がある。その点はエメロッテはどうだ?」
「同じ考えよ~」
「それでは友が悲しむ……。うかつに破壊できん……」
セイクリッドは危険だと思い破壊したいようだ。
友に何かあったら困るよな。
「もしも、あのフェンリルが暴走したらどうする? 悪いが邪石を破壊して安らかに眠らせる」
「ふむ……仕方がないが同意見だ……。友のためでもある……」
「まだ初日だからはっきりわからないよ~。そのための1週間様子見るのだから~」
「頼むぞエメロッテよ。もし暴走したら我にやらせてくれないか? 皆に責任を負う必要はない」
あくまで身内だけで責任を取るつもりのようだ。
そこまでする必要はないが、そこまで言うのなら任せる。
「わかった。もし止められないければ俺たちもやるからな」
「承知した。このことはモリオンに伝えておく」
こうして話は終わった。
しかし……邪石付きのフェンリルがなぜこの地にいるのはなぜだ?
禁忌野郎はいったい何を企んでいる。
「みんな、夜は寒いから小屋に入りな。温かい飲み物を入れるから身体温めてね」
「ハハハ! 今すぐ行くぞ!」
心配してデスナイトは様子を見に来た。
今日はもう考えるのはやめて明日考えることにしよう。




