438話 メリットがない
居間に入り、ザインさんはお茶を飲んで落ち着かせる。
「まさか領地が短期間で発展するとはな……普通ではあり得ないぞ……」
周りを見てすごい驚いていました。
まあ、あれこれ使った結果なんだよな……。
「みんなが頑張りましたので……」
「そう考えとくぞ……。それでだ、本題に入るぞ。単刀直入に言う――スールの野郎が脱走した」
重いため息をして言う…………えぇ……ド変態が脱走したのかよ……。
かなり大事ではありませんか……。
「ちなみに1人ではないですよね……?」
「ああ……あのバカを崇拝しているハヌヤと複数で脱走した」
ですよね……。厳重に監視していたと思うが、計画性のある脱走だな。
逃げたところで罪が増えるだけなのにバカなのかアイツらは?
メリットなんて一つもない。
「捜索中ですか?」
「そうだ、もう2週間以上は経過している。身内で解決すれば俺に情報が入らなかったが、そうもいかなくてな……厄介なことが起きた……」
意外に経過していた……そうでないと大事にはならないですね。
「厄介とは? また精霊を狙っているわけではないですよね?」
「それはないから安心しろ、あのバカどもはズイール大陸に逃げたらしい……」
うわぁ……最悪なパターンだ……。
まあ、逃げるところなんてそこしかないとないが、どうもおかしい――。
「あの大陸をすごく嫌っていましたよね? いまさらどうして?」
「俺も最初は思ったが、いろいろ調べたら見つかってな、前の騒動でバカが使っていた――精霊を捕まえた魔道具を覚えているか? あれはズイール産で開発された奴隷用の籠と判明した」
あの特注で作られた魔石付きの籠か。
どうもおかしいと思ったらズイール産かよ……。
確かにここの大陸は奴隷用の魔道具は禁止されている、もちろん開発なんて論外だ。
「あの騒動はズイールも関わっていたと?」
「どういった経路で関わったのか知らんがそうなる。ズイールは身分として人間が絶対的地位だが、エルフは見下したりはしない。むしろ、高貴な存在として扱う傾向がある。特に黒髪のエルフは神の子として優遇されると聞くぞ」
なるほど、だからズイールに逃げたのか。人間以外差別していると思ったが、意外に良待遇で驚いた。
そういえば前の王様が帝王に一時休戦を申し出できたのはエルフという待遇で話し合いができたってことか。
小さい頃からド変態に聞かされたが違うではないか。
噓の情報を教えるな。
それに黒髪って……ソシアさんを意識しているな。
気持ち悪い信仰だ……歪んでいて吐き気がする。
「ズイールの奴らが脱走を手助けした可能性は?」
「わからない、可能性はなくはないが調査中だ」
この件は関係するかわからないか。
もし関わっていたら余計に悪化しそうだ。
「今後の処遇はどうなりますか?」
「決定していることは――家名の剝奪――ククレットという身分は消えてただの指名手配のスールとなった。これは謹慎中に逃げたときの処遇だ。あのバカに親父さんはしつこく言っていたが、本当にやるとは愚の骨頂でしかない……」
おいおい、勘当されたのかよ……。リスクを冒してまでズイールに行く必要があるのか……?
「侯爵も辛い決断でしたよね……?」
「決定事項でそうでもなかったぞ。まあ、会ったとき、ため息ばっかりで呆れていた」
もう約束を守れない息子はいらないってことか。
「けど後継者がいなくなるのは……」
「そんなことはないぞ、言ってなかったが、あのバカに弟がいるぞ。あのバカとは大違いで真面目だ。
アスタリカを離れて時点で弟を後継者として決まっていた」
弟がいたのですね……。あのド変態の愚行だから俺が口を挟む必要なんてない。
決まっていることはしょうがない。
もしかして弟と比べられて逃げたということもあり得そうだ。
俺としてはどうでもいい話だけど。
「ズイールで隠居生活を選んだわけか……」
「一概には言えんが、あのバカのことだ、何かする可能性がある。だからレイに話した」
あのゴキブリ並みのしつこさは嫌ほど知っている。
まあ、襲撃してもすぐ返り討ちにするから問題ない。
「わかりました。気をつけます」
「そういうことだ。俺はまだ忙しいからカルムに戻る、悪いが嬢ちゃんに送るように頼んでもらえないか?」
こうしてザインさんはリフィリアに送ってもらいカルムに帰った。
まさかド変態がズイールに行ったとはな……今後、何も起きないことを願う。




