427話 禁忌を治す魔剣
視界が変わり――真っ白な空間にいた。
目の前には少女――エフィナが俺の左手を両手で優しく握りしめていた。
温かい……辛いことなど忘れるようなほど温かい……。
顔を合わせると、笑顔で返してくる。
なに悔いのない満足げな顔する……自分が危ないっていうのに……。
「エフィナ……」
「大丈夫だよ。今度は多めに寝るだけだから心配しないで」
「絶対に元に戻す……それまで待ってくれ……」
俺が言うと何も言わず笑顔のままだ。
「さぁ、戻ってみんなを治してね――」
視界が戻り――左手には深緑色で煌びやかな龍鱗の剣を持っている。
頭には浮かぶのは――【怒り】から【逆鱗】に、【刀術】から【剣聖】に変わり、【再生】【飛行】のスキル、回復魔法上級に龍魔法を獲得した。
魔剣を置いて――。
「急だが頼む……」
『は~い、ちょっと待ってね~』
少々腑抜けている柔らかい女性の声で返事し、魔剣は輝き始めて姿を変える――長身で深緑の腰まである長髪、白銀の瞳をした耳の尖った着物――和服を着た女性だ。
ウルマと同じいい容姿をしている。
「まったく……小娘よりあり得ないの創ったな……。この世界に存在しない種族ではないか……」
魔王は呆れて言う、わかってしまったか、竜人ではなく龍人だからな。
エフィナはどうしてこの世に存在しない種族にしたのかはわからない。
いや、治癒龍の魔剣が選んだことだ。俺がどう言うことではない。
みんなを治してくれるならなんだっていい。
『さぁ~急いでいきましょう~』
魔剣は柔らかい声で言うが、先に進み――小走りで宿に向かう。
中に入ると――みんなを見守っていたヴェンゲルさんはこっちに振り向いて驚いていた。
「その女性は誰だ……? かなり異質をもってように見えるが……」
「助っ人として呼びました。彼女は治療に長けていますご安心ください」
いつものようにアイシスがごまかす。
「そうなのか!? エリクサーでも治りはしない、どうか見てくれ!」
「はいはい~任せて――うん、エリクサーは効いているみたいだね~。大丈夫だよ~」
魔剣が言うと、周りは暗かったが泣いて喜んでいる。
エリクサーが効いているのは噓だ。
噓をついても、みんなの不安を取り除くことを優先したか。
「良かった……。まだまとわりつく黒いのが取れないのはなぜだ?」
「それほど強力だからすぐに治らないよ~。だけど、私がすぐ治るようにさせるね~」
魔剣は患者の中心に移動し、龍と回復の【混合魔法】を使い床に手を当て――。
「――――龍脈」
床は脈のように魔力が広がり――患者全員に触れると、身体に入り込み、黒い靄が一瞬で消え去る。
患者は穏やかな顔をして眠って安静した様子だ。
しかも魔剣は魔力も分け与えたのに自分自身の魔力は全然消費していなかった。
さすがエフィナが創った魔剣だ……俺の創造以上の力だ。
「はいはいみんな~喜ぶのはいいけど、抱きつくのはやめてね~。病み上がりだから~」
みんなは魔剣に感謝し、これで事を終えた。
まだまだやることが多い、いったん整理しないと…………って……またかよ……意識が……。
「主ちゃんは私を呼んだから、ゆっくりしてね~」
魔剣が俺が倒れると、すぐに駆け寄り、受け止め……そっと目を閉じる……。
――――◇ー◇―◇――――
意識が戻り目を開けると――また真っ白い空間にいた。
身体がだるい……エフィナはどこだ……?
辺りを見渡し、後ろを振り向くと、遠くに仰向けに倒れているエフィナがいる。
寝ているのか? はっきりわからない……。
エフィナのほうに向かうと…………なんだ……急に身体が重くなって、さらにだるさが増す……。
ちょっと待て……このままじゃあエフィナを助けるどころか元に戻せないぞ……。
負けてたまるか……。
ゆっくり歩いて近づこうとするが、拒むかのように身体が重くなり、膝をついてしまう。
エフィナを確認したいだけなのにどうしてだ……ちくしょう……。
そして床に倒れ込み、起き上がることができなくなった。
力が思うように入らない……。意識もなくなっていく……。
せめてエフィナ安否だけでも……。
必死に床を這って進み――あと十数mだ……。
これ以上は厳しい……目がかすんでくる……。
ここなら十分確認できる、前進するのを止めてエフィナを見ると…………噓だろう……身体が半透明になっている……。
何が大丈夫だ……存在が消えかかっているぞ……。
このまま消してたまるか……。
再び這っていくのだが……視界が見えなくなった……ちくしょう……あともう少しでエフィナを……。
「エフィナ……頼むから耐えてくれ……絶対に元に戻すから……頼む……消えないでくれ……」
頼む……俺の声が届いてくれ……もう意識が……。




