42話 商都の伯爵
リリノアさんと馬車に同乗しているがブレンダ以外は沈黙の状態だ。
いきなりギルドマスターが馬車に同乗するなんて予想外だよな……。
「何みんな黙っているのよ! 長旅で疲れてるから? それじゃあ、王都までもたないわよ!」
それはリリノアさんが悪いです……。
「しかし、ブレンダも大きくなったね! 学校頑張ってね!」
「うん、頑張る!」
そういえばブレンダも久しぶりに会うのか。
とはいえ2人とも元気ですね……デスキングクラブの件があったとはいえ……。
――貴族街に入り、奥の方へ進む。
「着いたわよ!」
伯爵の屋敷に着いた。
庭には欅が数本植えてあり、敷地の半分以上は色とりどりの花で埋め尽くされている。
手入れするの大変だな……。
「そこの君! サーリトはいる?」
庭にいる執事に話しかける。
「これは、リリノア様!? 旦那様は屋敷にいます! それにそちらは……ブレンダ様まで!?」
「わかっているなら早く案内して!」
「は、はい! ただいま!」
少々強引な気がする……。
執事に客間に案内され、少し待つと正装をした20代前半くらいのイケメンの金髪セミロングのエルフとドレスを着た20代前半くらいの美女で褐色肌の銀髪ロングのダークエルフとその後ろに隠れているブラウスを着た少し褐色肌の金髪美少女エルフが来た。
セバスチャンがお辞儀し、挨拶をする。
「お久しぶりでございます。ルアーヌ伯爵様」
「久しぶりだね、セバスチャン。災害級に襲われずに本当に良かったよ。王都の途中とはいえ、ご苦労様。ブレンダ元気だったかい?」
「お久しぶりです! サーリトさん!」
「相変わらず元気だね、ほら、ルルナも」
「久しぶり……ブレンダちゃん……」
「久しぶり! ルルナちゃん!」
伯爵はやんわりと優しい口調で話す。それにルルナって子は少々人見知りかな?
「そして君たちがレイ君とアイシスさんだね。初めまして」
「初めましてルアーヌ伯爵様。ブレンダの護衛についております、レイと申します」
「お初にお目にかかります、ルアーヌ伯爵様。私は賢者様の弟子で、レイ様のメイドのアイシスと申します。以後お見知りおきを」
「よろしく、2人とも。それと、ルアーヌ伯爵様はやめてほしいなどうも慣れない。サーリトと呼んでほしいな」
えっ……セバスチャンの言うとおり身分関係ないみたいですな……。
「それですと申し訳――」
「何言っているのレイ! サーリトに伯爵様なんて言わなくていいの! ザインちゃんの息子なんだから!」
リリノアさんそれ……関係ないですよ……。
「リリノアさんの言うとおり、私とザインの仲だから大丈夫だよ」
いいのかよ……。
「わかりました……サーリトさんと呼びます……」
「うん、その方が助かるよ。それと妻と娘の紹介がまだだったね。こちらは妻のオリビア、娘のルルナ」
「よろしくお願いします」
「……よろしく……お願いします……」
2人にお辞儀して挨拶をした。
最初は伯爵のイメージからしてクセのある人が出てくるかと思ったが全然違う。
とても謙虚な方だ。
「それでリリノアさんは何の用ですか?」
「はぁ!? 何吞気なこと言っているのよ!? 災害級を倒した報告に来たのよ! 連絡くらいは来てると思っていたけど、まだのようね」
「そうですか……ありがとうございます。さすがリリノアさんの冒険者ギルドは仕事が早くて助かります。これで商都も安心です」
「よく言うわ! ち・な・み・にワタシのギルド員たちではなくて、レイ1人で倒したのよ! ザインちゃんがしっかり育てたからこんなに強くなったのよ! 誇りに思いなさい!」
リリノアさんは胸を張って言う。
そこは威張るとこですか……。
「本当ですか……ありがとうレイ君。これは壮大に歓迎会を開かないとね。商都に滞在中は私の屋敷に泊まっていくといいよ」
「えっ!? それは申し訳ないですよ!? 先程会ったばかりですし……」
「遠慮はいらないよ、商都を救ってくれた人にお礼をしないなんて女神様の罰が当たるよ」
これはどうみても強制だな……。
「わかりました……お言葉に甘えます……」
「よかった、私も嬉しいよ。もちろん、ブレンダたちも泊まっていいからね」
「やった! ルルナちゃんとお話できる!」
「ブレンダちゃんがお泊まり……嬉しい……」
「うん、2人とも喜んでくれてよかった。そしてレイ君、時間があればスールさんは今どうしているか聞きたい」
スールさんのこと? そういえばスールさんだけさん付けだが、何かあったのか?
「あの……スールさんとはどのような関係ですか?」
「スールさんは私の先輩でね、いろいろとお世話になったのだよ。最近会っていないから元気でいるかなと思ってね」
伯爵の先輩って……意外にスールさんってすごいエルフなのか?
「スールのどこがいいのよ。ワタシとしてはスールなんて子どもよ!」
リリノアさん……それだと俺は赤ん坊ですよ……。
すると……フードから凄い振動が伝わってくる。
あっ……これはマズいな……。
「レイ君、頭巾の中に何かいるみたいだけど……」
バレますよね……。
「フ・フ・フ……な~んだ~サーリト、気づかなかったの? レイはね、精霊に懐かれているのよ!」
はぁ~勝手に言わないでください……まあ、泊まる時点で隠すつもりはないけど……。
フードの中から精霊を出して――初めて見る人は驚いていた……。
サーリトさんは全然驚いてはいないが深刻な顔をしている。
「レイ君……もしかして精霊と契約をしているの?」
「いえ、してません。する可能性はありますけど」
「そうか……これだけ懐いているなら問題ないけど、気をつけてね……精霊は人を見る目がある……だから嫌な人が契約を結ぼうとしたら魔力を全部持っていかれるからね……私は若い頃、精霊に会って軽率に契約を結ぼうとしたら死にかけたからね……」
「わかりました……気をつけてます……」
エフィナと言っていることと同じだ……やっぱり契約するのは大変なんだな……。
『少しあの残念エルフのような感じがしていたけど、大丈夫みたいだね!』
精霊は少しホッとしている……スールさんみたいだったら嫌なのか……。
「暗い話をしてしまって悪かったね……災害級の疲れもあるからゆっくりしてね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、ワタシも泊まろうかしら、災害級で忙しかったから存分にもてなしなさい!」
なんで!? ギルドの仕事は放棄!?
リリノアさんそういうとこ自由なんだよな……。
「もちろんですよ、精一杯もてなします」
笑顔で答えてるが……意外にリリノアさんの扱いが上手いな……。
「ギルドに戻らなくて平気ですか?」
「大丈夫よ! ギルドのみんなは勝手にやってくれるからワタシがいなくても平気よ!」
大丈夫でした……。
「それと夕食はここで獲れるオレンジサーモンをご馳走するよ」
「わ~い! お魚が食べられる!」
ブレンダは嬉しそうだな……もちろん、俺も嬉しい、久々に魚が食べられるから。
「えぇ~オレンジサーモン……ワタシは飽きてるから肉が食べたい!」
ワガママ言いますね……ちょうどいいか、ロックバード肉でもあげれば。
「でしたらこないだ倒したロックバードの肉をあげます。それで何か調理してください」
「いいの!? ありがとうレイ! ワタシ、ロックバード肉大好きなんだ!」
「レイ君、それは助かるよ、客人なのに悪いね……ありがたく使わせてもらうよ」
「泊めてくれるお礼ですよ。気にしないでください」
「それでしたら私が夕食を作ってよろしいでしょうか?」
「アイシスさんが? それは申し訳ないよ……」
「問題ありません。私は料理が好きですので、それにオレンジサーモンを使った料理を作りたいのでよろしいでしょうか?」
「そこまで言うのなら夕食はお願いするよ。楽しみにしてるよ」
「お任せください。それと商都に行く途中でリバークラブを仕留めてきましたのでそちらも使ってもよろしいでしょうか?」
アイシスもリバークラブを仕留めていたのか……これは楽しみにだな。
「ああ、もちろんいいよ。誰かレイ君とアイシスさんを厨房に案内してほしい」
メイドに厨房に案内され、ロックバード肉を置き――その後、サーリトさんたちとお茶を飲みながら話をした。




