422話 討伐組と合流
「もう終わったのですか……? 信じられません……」
兄はきれいな湖を見て驚いていた。
苦労していたのが一瞬で終わるのは信じられないよな。
まあ、水の魔剣がなければ【浄化】作業で数時間以上はかかっていた。
妹は湖に近づいて手で水をすくい、きれいだとわかると笑顔になる。
「言ったでしょう。レイちゃんとマイヤちゃんはすごいって」
リヴァが言うと頷いて返してくる。
この短時間で仲良くなったのか。恥ずかしがり屋のリヴァが積極的になるとは意外だ。
オーロラが見たら喜んだだろうな。
「ふぅ、大漁、大漁……」
マイヤはスライムの姿になって、すいすい移動し、ナマズを回収をして戻ってきた。
味が気になるらしく、どうしても食べたいようだ。
「かなり濁っていたから泥臭くて食べにくいぞ」
「大丈夫……アイシスが美味しく調理する……」
アイシスに絶対の信頼があるな……。
あながち間違いはないが。
すると、妹が俺たちに駆け寄り――。
「ありがとう」
っと、満面な笑みでお礼を言う。まさか無口の少女が不意を突くかのようにしゃべるとか予想外だ。
まあ、かわいい声でお礼を言われて悪いはずがない。
妹の姿を見て兄も頭を下げて感謝する。
まだ終わっていない、あとは魔物討伐組だ。今頃大暴れしていると思う。
休むこともなく、湖をあとにし、合流しにいく――。
森の外は危ないから、リヴァと兄妹は手前の方で待機させて、俺とマイヤは外に出る。
日も暮れて薄暗くなっていた干からびた大地――荒野は見渡す限りトロールの残骸が散らばっている。
そして、奥の方にはこっちに眩しい光が届く――エクレールの光魔法が炸裂していた。
近くには敵の魔力反応はいっさいなく終盤な模様。俺たちの出番はなさそうだ。
――十数分後。
シエルに乗っている討伐組が戻ってきた。俺たちに気づき、降りてくる。
「もう終わったのか、オレたちが早く終わらせようと思ったが早く終わったなんてな」
魔王、競争しているわけではないのだぞ……。
まあ、お互い早いに越したことはないが。
合流してあとは兄に報告だ――。
森の中に入り、俺たちが戻ってくると兄は再び驚く。
疑いもあるだろうから兄をシエルに乗せ、周りの確認をさせる。
俺たちはそれまで待機する。
「不可解な点が多すぎる……」
魔王は真顔になり腕を組んで考え込む。
「どうしましたか?」
「いや、トロールの行動がおとなしくてな、オレたちを見向きもしなかった」
「俺も思いました。トロールは大暴れるするはずなのに、あまりにもおとなしすぎる。不気味でした」
「私はトロールと戦うのは初めてだけど、弱すぎて手ごたえがなかったわ。なんだろう、魔物らしくない行動している感じはあった」
「そうなの~? たしかに~魔法で楽に倒せたけど~」
討伐組は疑問に思うほどおかしいのか。
「たまたまではないのですか?」
「そう片づければいいのだが……。ほかにも――マナイーターで枯れていた大地なはずだが、よく見ると花や草がちらほら生えていた」
「日が経てば生えるではないですか?」
「それは違う。厄災級であるマナイーターは生命すべてを奪う、枯れた大地に生えることがおかしい」
地上の管理者が間違いを言うはずはない。
それもそうか、俺たちが倒した厄災級はマナの大樹の近くだ。
大樹のおかげで周囲の大地は蘇っている。
普通に考えたらあり得ないことだ。
「厄災級が未成熟とかの可能性は?」
「そんなの聞いたことないぞ。まだわからないことばかりだ。様子を見るしかない」
地上の管理人と言えど生態系は年月とともに変わるからな。
「だが、ここまでおかしいと人為的な可能性もあり得る」
こんな秘境でもある場所に人為的って唐突だな。
そうなるとユニコーンの誰がやるしか考えられない。
大事な住処の周辺に愚かな行為はするわけがない。
まあ、今後は魔王が様子を見るし大丈夫だか。
そう話が終わると、シエルに乗った兄が戻ってきた。
降りてくると、妹は駆け寄って兄に抱きつく。
「はは、待たせたね。まさかこんな早く解決するなんて思ってもいませんでした。本当にありがとうございます」
兄妹は俺たちに感謝して頭を下げる。
「この魔王がいるのだ。当たり前だ。さあ、約束の角を渡してくれ」
「はい、約束の品です」
兄はアイテムボックスから大型のユニコーンの角を取り出して、俺は受け取る。
これでエリクサーが作れる。一刻も早く領地に戻らないと。
「オレたちは失礼するぞ。たまに様子を見に来るから何かあったら言えよ」
「はい、そのときはお願いします」
兄妹は俺たちにてを振って見送る。
さて、急いで空間魔法で――。
「お前たち避けろ!」
魔王が大声で叫ぶと――奥の方から光魔法が兄妹に襲いかかってくる。
間に合わず、魔王は【竜装】で白い鱗を纏い、兄妹の前に出て全身で受け止める。
「あ、ありがとうございます……その……」
「安心しろ、こんな弱いで魔王が傷をつけるわけがない。しかし……面倒なことが起きたな……」
こんなことするのはアイツしかいない――奥からクズ野郎率いるユニコーンが群れが向かってくる。
それもさっきよりも数が多く、子どもまでもいる。
「今度は全員連れて来たか……」
全員かよ……なんでこんなタイミングで来る……? 悪すぎだろう……。
このままだと兄妹が危ない。




