420話 息子の責任感
討伐組と離れて十数分が経過した。
男とある程度距離を置いて案内をさせている。ユニコーンの住処を通る道から外れ、草木で人が数名が通れるくらいの幅になり険しくなる。
それはいいのだが、男の服を掴んで俺たちをチラチラと振り向いて見ている少女が気になる。
無口だし、恥ずかしがり屋か? いや、俺たちを警戒している可能性はありそうだ。
「うぅ……見られている……怖い……」
リヴァは少女に見られるたびに俺の後ろか、マイヤの後ろに隠れて服を掴む。
怖いのかよ……クズ野郎ときは前に出てよく頑張れたな……。
まあ、普段のリヴァに戻っているのは安心するが。
とはいえ、歩きづらい……このまま見られるとリヴァの心臓に悪いから少女が怖くないことを証明させないと。
「なあ、この子はお前の妹なのか?」
「そうですよ。僕の大切な妹です」
「やっぱりそうか。大切なら一緒についてきて大丈夫なのか? 道はかなり険しくなっているが」
「ここの道は慣れているので大丈夫ですよ。確かに僕だけで案内はしたいですけど、理由があって一緒にいます」
その発言で少女は下を向いて男の服を強く掴む。
訳ありか……この話は広げないほうがいいな。
「ユニコーン娘……辛そう……。どうしたの……? 理由を聞かせて……」
マイヤさん、お気持ちはわかるが、口に出さないでください……。
気まずいぞ。
「理由ですか? まあ簡単に言えば僕たちは群れから孤立しているからですね」
言うのかよ……。
孤立って、まさかあのクズ野郎が嫌で群れから離れたのか?
「なんで孤立しているの……?」
「追い出されたのですよ。父と母が周囲を荒らした黒い球体を命に変えてまで倒したのに、勇者を崇拝している愚か者が私たちに責任をなすりつけてきました。それに愚か者は勝手にボスになって僕たちの家を壊し、命令と言いながら仲間と離れろと住処を追い出されました。怒りを通り越して呆れます……」
やっぱり周囲が枯れていたのはマナイーターのせいか。
あのクズ野郎、どこまで性根が腐っている……。魔王にもそうだが、恩を仇で返すとは最悪だ。
厄災級から命を張って、住処を守ったのにあのクズ野郎はバカなのか?
男は呆れていると言いながら表情は怒っていた。両親を失い、孤立して妹だけで過ごすのは辛いに決まっている。
「元凶を倒しても、責任とかおかしい……」
「元から異常なのはわかっていましたが、「勇者なら簡単に倒せた」とか訳のわからない発言していました。もうあり得ません……」
どれだけ勇者を崇拝している……。仮に勇者がいてもマナイーターは無理だな。
干からびて消滅するのがオチだ。よくまあ、会ったことのない――亡くなった奴のことを言えたものだ。
「それを言われても遠い場所に移動しないのか?」
「考えていましたが、急に愚か者が僕たちに現れて「機会を与えてやる」と言い出し、湖の管理と周辺の魔物を倒し、荒れた大地を緑豊かにすれば考え直してやると言いました。僕は条件をのむことにしました。」
明らかに無理難題を押し付けているだろう……。
「なぜ断らなかった?」
「どこに行っても安らぐところがないのと、群れのほうには妹の友だちがいます。愚か者以外は僕たちを嫌っているわけではありません。よく考えた結果です。愚か者は動かないで何もしないのはわかっていましたし、みんなもいろいろと不安です。ここで僕が動かないと何も変わりません」
なるほど、妹のために優先したわけか。
みんなのためにも動くとかよくできた兄だ。父親がボスってことだけのことはあり、責任感がある。
彼こそボスに相応しい。
「それで俺たちにお願いしたのか?」
「はい、魔王さんが来たとき相談しようと思っていました。みなさん困っていたのでこの機しかないと思いお願いしました」
「なるほど。じゃあ、あのクズ野郎にバレずにやらないといけないな」
「そうですね。まあ、結局のところ愚か者は住処から全然離れないのでバレませんよ。状況が把握できませんし」
なら安心か、あのクズ野郎から手伝ったことがわかると言いがかりつけられると困る。
というかクズ野郎の行動範囲狭すぎだろう……。
「そうなのか……。まあ、いいとして、俺が言うのもなんだが、父親の角をあっさり渡していいのか? 形見なんだろ?」
「形見ですか? 確かに大切にはしておきたいですが、さっき言った妹とみんなのためです。父の角があなた方に役に立つのであれば、心置きなく渡します。父もそのほうが大喜びでしょう」
理不尽な仕打ちをしながらも他者を優先するとは、本当にできている。
「わかった、必ず湖をきれいにする」
「よろしくお願いします」
とは言っても頼まれたことが終わっても解決はしない――荒れた大地を緑豊かにしないといけないのが残っている。
これ以上ない収穫だ。この騒動が終わったら地魔法――「アースコントロール」が使える人を呼んで土を耕して、【創種】――花の種を植えて、兄妹を苦痛から解放させるよう。
「うぅ……そんな辛いことが……怖いと言ってごめん……」
リヴァは頭を下げて謝った。
方向は違ったが、誤解が解けた。
「気にしないでください。もしよろしければ妹と仲良くやってください」
「わかった……よろしくね」
リヴァが挨拶すると妹は俺たちを見てペコリと頭を下げる。
まだ恥ずかしいみたいで、そう簡単には仲良くなれないようだ。
「そろそろ着きます」
兄が言うと、道は急に変わる――木と花は枯れていて、腐ったような臭いがする。
周辺がここまで変わるなら湖は想像以上にヤバいかもしれないな。




