418話 自称ボス
「この私に用があるだと? 高貴である私に不敬であるぞ、身の程を知れ」
アイツの上から目線の態度にイラッとくる。
伝説の存在でも性格に難ありとはドン引きだ。よく周りの奴らも承諾してくれたな。
魔王が頭を抱えるのは当然だ。
「お前、誰のおかげでここに住まわせていると思う? この大陸は全部オレの所有物だぞ。お前たちの住処なんて簡単に追い出させるぞ。お前の態度一つで大事な住処がなくなるってことをな」
周りのユニコーンはざわめき、ボスになった奴を見る。
さすがの魔王も自称ボスに黙ってはいなかった。
保護対象で管理下でもある。これは一枚、いや二枚も三枚も上手だ。
「ふん、お前の戯言には付き合ってられん。いいだろう、話くらい聞いてやる」
どこまで上から目線なんだ……。
強がっているのかわからんが、頭のネジが外れているのか?
「はぁ……やっと聞く気になったか。お前たちにお願いがあって来た――盟友の身内が病にかかってしまった。薬を作るためにお前たち角が必要だ。生え変わりでもいいからもらいたい、タダでとは言わん、困っていることがあるなら手を貸す」
魔王の発言に周りの表情が柔らかくなり、頷いて納得する者が多かった。
やっぱり、いろいろと困っていることがあるみたいだ。交渉としては申し分ない、これなら――。
「貴様……なぜ角を渡さないといけないのだ!? 屈辱で侮辱だ! 帰れ帰れ帰れ!」
噓だろう……。なんで狂ったように激怒する……? 周りのみんなを見てわからないのか……?
ボスなら子分を困っていたら助けるのが道理だろう……。
自分のプライドを優先しているどうしようもない奴だ。
「お前……立場がわかっていないようだな……。生え変わりでもダメなのか?」
魔王も呆れるしかなかった。いや、ここ全員が呆れている。
「ダメに決まっている! この愚か者が! 帰れ!」
「理由を言え、帰れるに帰られない……」
「帰れ帰れ帰れ!」
どんなけ魔王のこと嫌いなのだ?
話を聞かないのなら俺が前に出て説得する。
「なあ、俺たちにはどうしてもユニコーンの角が必要なんだ。少しだけでも話を――」
「部外者は黙れ!」
ダメだコイツ、聞く耳を持たない……。
自分勝手すぎる……今日は頭に血が上って無理だ。
引き返したほうがいいな。
「お願いします! どうか僕たちの話を聞いてください! お願いします!」
泣きながらリヴァは前に出て頭を下げる。
しまった、角がもらえないと思って出てしまったか。
リヴァに無理をさせてしまう。
「――シャイニングアロー!」
男は魔法で光の矢を放ち、リヴァの足元――地面に刺さる。
「帰れと言ったはずだ! 次から当てるぞ!」
「は、話を聞いてくれるまで帰りません!」
身体を震えながらもお願いする。
自称ボスはもう魔法を発動させている。
「――――シャイニングランス!」
おい、光の槍はダメだ! いくら頑丈のリヴァでも致命傷になる。
すかさずリヴァの前に出て【武器創造】で金の盾を創り、防ぐ。
間に合ってよかった……。さすがの俺も堪忍袋の緒が切れる。
「お前……子供が必死に訴えているのになんてことするんだ!? 話しくらい聞け、外道が! 何が高貴だ! ただ切れているだけの品格ないクズだ! ボスの資格なんてない!」
「貴様……私を愚弄するな! ――――シャイニングナックル!」
再び魔法で光の剛球を放つが、俺には通用しない――衝撃はあるが簡単に盾で防ぐ。
傷すらつかない。
「お前たちやめないか!? 今日のところは引き返す。また来るから今度はしっかり話を聞けよ」
魔王は仲裁入り止めてくれた。
俺は我に返り、盾を解除する。
しまった……交渉できなくなる……。
「二度と来るな! この忌々しき魔王どもめ!」
男は血が上って魔法を構えていた。
魔王は挑発に乗らず、俺たちを後ろに下げて、そのままユニコーンらから離れさせていく。
「魔王さん、本当にすいませんでした……」
俺は魔王に頭を下げる。
アイツが悪いとはいえ、せっかくのチャンスを台無しにしてしまった。
「皆が無事でよければそれでいい。次もオレが頑張って説得するさ」
魔王は嫌な顔せずに笑顔で返してくる。
無理をして俺たちのためにここまでしてくれるのは感謝しかない。
しかし……あの上から目線の自称ボス野郎は魔王を嫌う?
よくしているのに訳がわからない。




