410話 精霊使い、縁談を断る
教会に着くと、見張りをしている騎士がソウタを睨んで舌打ちをする。
「早く断らないと……俺の身体がもたない……」
身も心もボロボロのソウタにはこれ以上面倒事に巻き込まれたくはないよな。
覚えていないとはいえ、簡単に断れるわけはない。
断れても嫌われるどころか、女神の裏切り者として教会に入れなくなる。
ソウタの判断だから俺は止めはしない。
中に入ると――シスターが俺たちを見て駆け寄り、出迎えてくる。
「司教を呼んでくれないか? 大事な話がある」
ソウタが言うと、シスターが奥の方の扉へ入り、アマーニを呼ぶ。
十数後にアマーニが来た。
ここからはソウタ個人の問題だ。頑張って断れ――ん? なんで首を傾げる?
「なあ、前に会った聖女だよな?」
「そうだが、忙しくて瘦せたみたいだ」
「そうなのか!? まるで別人だな……」
そうか、覚えていないから、ぽっちゃり体型の姿だと思っていたのか。
「聖騎士様……お会いできて嬉しいです……」
「ああ……前に会ったときより美しくなったな」
「まあ、人前で……お恥ずかしいです……」
ソウタの発言でアマーニは顔を赤くして照れていた……。
おい、ソウタ紛らわしいことを言うな。覚えていなくてもアマーニに会ったのは昨日だぞ。
「聖騎士様……大事な話とはなんです?」
「それはだな……」
ソウタはアマーニを見つめて沈黙が続く。
さすがに本人の目の前だと言いづらいか。
「『フフフフフフ……むっつりなお兄さん……胸ばっかり見ていますこと……』」
「『うわぁ……。やっぱり変態だ……』」
メアとマイヤが念話で会話していた……。
おいおい、いくらなんでもそんなことないだろう……。
ソウタの視線を確認すると――本当に見ていた……。
しかも目力強く……。
おい、胸を見る暇はないだろう!?
まさか、美人になった姿に断るのに抵抗があるわけではないよな……?
「そんなに見つめて……お恥ずかしいです……」
「やっぱり言えない……。すまない……女神ミスティーナにお祈りからでいいか……?」
「はい……私もお祈りします……」
なるほど、あまりにもドストライクで容姿で言えなく、ティーナさんに会って断るのお願いしようとしてますね。
ソウタ、それは卑怯だぞ、ちゃんと自分から言え。
「ちぃ……姑息な真似を……ワタクシも行きます……」
メアは舌打ちをして不満げです。
こちらもティーナさんに会って阻止しようとしてますね。
ソウタとアマーニが祈りを捧げたら――。
『精霊使いソウタ……司教アマーニ……聞こえますか……?』
えっ? 脳内にティーナさんの柔らかい声が……。
「女神ミスティーナ様!?」
アマーニは驚いた様子だ。
シスター、礼拝している人たちにも聞こえたようで周りは騒然とする。
ソウタはただ、呆然とする。
これ本人の声だよな……?
メアとマイヤに振り向いて確認すると、首を振ってやっていないアピールをする。
はい、本人でした……。
『フフフ……やっと結ばれましたね。ソウタ……アマーニ……あなたたちを祝福に来ました……。私はいつまでもあなたたち味方です……この先、険しい困難があると思いますが……二人なら大丈夫です。末永くお幸せに……』
そう言って声が途切れる。
もしかしてティーナさんが来たのは断るのを拒否させようにしたな……。
アマーニを精神的に追い込ませないように。
「ミスティーナ様……温かい祝福……ありがとうございます……」
アマーニは感激のあまり涙が止まらない。
それはいいのだが――。
「あれが女神様の声……」
「ありがたや……ありがたや……」
「なんという美声だ……」
周囲も涙を流して拝んでいました……。
ソウタは逃げられない状況なったな、その本人は――――意外に平然としている。
「女神に言われてはしょうがない、これから頑張ろうな」
「はい、聖騎士様!」
ソウタとアマーニは寄り添い周囲に祝福される。
おい、すんなり受け入れるな!?
訳がわからん……。
お前の嫁たちにどう言い訳するのだ……。
俺は知らないぞ……。
「フフフフフフ……これはこれで面白い展開ですこと……」
メアさん、嬉しそうでなによりです……。
今後のことについて話し合いたいと2人は奥の方へと行った。
もう勝手にやってください……。
俺たちは城に戻り、王様たちに報告をする――。
「えぇ……断る前に祝福されたの……? 女神様はよほどソウタ君に結ばれてほしいんだ……」
「クソッ! なんだよアイツは!? 断ると言いながら結局は受け入れたのかよ! スカーレットとルージュになんて話せばいいんだ……」
王様はため息をしてヴェンゲルさんはテーブルを台パンして頭を抱える。
はい、俺にはどうしようもできないので流れに任せます。
「目撃者もいるみたいだ……。王として公認せざるを得なくなったね……」
「陛下……早まらないでください……」
「すぐに公認しないさ。明日ソウタ君とアマーニに話を通すよ。レイ君も一緒にお願いね。今後のことについて話し合いたい。ローズに午後の授業はなしに言うからさ」
まあ、そうだよな……ソウタの嫁は俺の領地にいる。ソウタとアマーニの考えたことを聞かないといけないしな。
「わかりました」
「うん、よろしくね」
しょうがない、頼むから面倒事はこれで終わりにしてくれよ。




