402話 黒い靄を取り除く
――シェルビーを治す日となった。
準備は万全に整っている。
やれるだけのことはしよう。
「恩人様……ウチも手伝う……」
「俺がダメだったら頼むよ」
「わかった……」
マイヤはやる気のようだが、俺1人で大丈夫だと思う。
まあ、【浄化】が効けばの話だが……。
王様が指定された部屋――客室用の部屋で王様と待機していた。
ドアからノックが聞こえると、メアとシェルビー、その後ろに凛々しい顔立ちをした20代後半のメイドが入ってきた。
シェルビーの世話役とわかったが、普通のメイドではないようだ。魔力も人並み以上にある。戦闘経験があるように見え、かなり手練れとわかる。
「ああ、レイ君はわかってしまったか。この子は今はメイドだけど、元暗殺者でもあったからね」
元暗殺者ですか……。
というかさらっと教えていいのかよ……。王様、口が軽い。
「国王陛下……あまり私の素性を話さないでください……」
「ごめん、ごめん。だけどレイ君に隠し事は無理だと思うよ」
「そうですね……。暗殺する前にやられてしまいそうです」
物騒なこと言うのではない……。俺を暗殺対象として見るな……。
「失礼いたしました。私はシェルビーお嬢様の護衛をしておりますサーシャと申します。賢者様はお嬢様とメア様から聞いております。以後お見知りおきを」
サーシャはお辞儀をした。
元暗殺者がどういう経緯で護衛になったのかは気になるが、あとにして――。
「ところで王子には本当に言わなかったのか?」
「はい、いても目障りなだけなので言っていません」
やはり嫌みたいだ。
まあ、シェルビーの意思は尊重はする。
「わかった。体調のほうは大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。メア様が近くで励ましてくださったので」
「フフフ……シェルビーさんはとても良好でございます……。ワタクシが責任をもって保証します……」
じゃあ、問題なく始められるか。
シェルビーに背を向けるように言い、俺は背中に手を当てる。
触れた瞬間、異様な寒気が襲いかかってきた。
なんだこれは……この世にあってはならないものだとわかる……。
今までこれを抱えてきたのというのか……。
ふざけるな……まだ幼い子に――。
「主様……お気を確かに……」
「大丈夫だ、問題はない」
メアが心配して俺に声をかけたが、いたって普通だ。
少しだけ……少しだけ怒っただけだ……。
絶対に治してやる――俺は【浄化】のスキルを使い、シェルビーに奥に潜む黒い靄を取り除くように魔力を通す。
「ハァ……ハァ……く……苦しい……」
黒い靄まで魔力を通すと、シェルビーは汗をかき、息切れしている。
それに反応するかのように黒い靄は変形するように暴れて始めた。
手ごたえは十分あるとわかった。
「ちょっと我慢してくれ、もう少しだ――」
さらに魔力を多く通し、暴れている靄を全体を包むようにおとなしくさせる。
そして掴む感覚があり、握りつぶすようにイメージをした――。
靄が弾け飛ぶようにバラバラになり消滅した。
シェルビーの身体中に魔力が流れ込んでいく。
ふぅ……無事取り除くことができた。
これで――。
「あああ…………熱い!」
シェルビーの魔力は勢いが増して制御できていない。
しまった、今まで魔力なしの生活だったから抑えられないか……。
このままだと魔力暴走して命が危ない。
「ワタクシの出番ですこと――――マナドレイン……」
メアは闇と回復の【混合魔法】を使い、魔力を吸い取る――。
加減をしてゆっくりと吸い取り、安定をして魔力が正常に循環する。
辛そうだった顔も和らいでいき、気を失う。
「お嬢様!?」
慌ててサーシャは駆け寄り、身体を支える。
「大丈夫だ、ゆっくり寝かせてくれ」
「はい……ありがとうございます……。レイ様……メア様……」
サーシャは涙を流してお礼を言い、部屋に設置しているベッドに寝かせる。
「本当にありがとうございます……。この事は辺境伯様に報告いたしますので必ず謝礼を――」
「謝礼をもらうためにやったわけではない。教師として助けただけだ。それじゃあ、俺たちはソウタが稽古しているとこを見るか」
「フフフフフフ……はい……急いで行きましょう……」
「えっ!? ですが――」
「サーシャ、言っても無駄だからね。レイ君たちは欲がないから」
「しかし……」
「じゃあ、こうしよう。借りを作る形でいいかな? 何かあったときに返すようなに、レイ君はそれでいいかな?」
まあ、借りを作るくらいなら別にいいか。
「それでお願いします」
「だそうだよ」
「わかりました。必ず借りは返します」
「決まりだね。じゃあ、僕からクレメス辺境伯に報告するからサーシャはシェルビーさんのお守りよろしくね~」
「えっ、陛下――」
王様は先に出ていってしまった。
あの性格だと後々報告するのは嫌みたいだな。
「主様、そろそろ……」
「わかった。ゆっくりしていろよ。何かあったときは騎士学校にいるから呼んでくれ」
「恩人様……ウチが残るから大丈夫……。ゆっくり変態を観察してね……」
まさかソウタを変態呼ばわりか……。
なんだかんだマイヤはしっかりして心配はないか。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「うん……」
こうして俺とメアは部屋を出て、騎士学校に向かう――。




