398話 女神のミス
「先生……この人たちが女神ですか……? 全然違うのですが……」
「違うとはなによ! 正真正銘、女神ミスティーナよ! 誰だか知らないけどそこをどきなさい!」
「は、はい!」
クエスは慌てて席を外してた。
失礼のないようにと言ったはずなのに……。
ティーナさん、勝手にチーズケーキを黙々と食べないでください。
「それでレイ君、そこ子はいったい誰だ? ここに来るのは普通ではあり得ないことだ」
「俺が連れて来たわけではないのですが?」
「そうだが、普通の人は無理だぞ。私たちが呼ぶのはわかるが、その子を呼ぶメリットがない。特例で来たようしか考えられない」
「特例ですか? この子は元日本人ですよ。転生させたのではないのですか?」
「転生した? まさか前世の記憶が……」
ソシアさんはティーナさんを向き、ため息をつく。
何かやらかしてしまいましたね。
「ティーナのミスだ……」
「ティーナ……ちゃんと仕事してるの……?」
シャーロさんまで呆れています。
やっぱりティーナさんの仕業ですね。
その本人は無我夢中でチーズケーキを食べていて、聞いていませんよ。
「私を見てどうしたの?」
「ティーナ、その子の前世の記憶が消えてないぞ」
「しっかりやってよ……」
「前世の記憶…………え、えぇぇぇぇ――――!?」
やっと事の重大さに気づいたようだ。
手違いで前世の記憶を消さずに転生させたことでいいのかな?
「じゃあこの子は、記憶を持ったまま転生してしまったことですか?」
「そうだ、レイ君は使命を与えられて記憶はそのままだが、普通なら前の記憶を消して転生するようになる。ほかの世界の人の魂をこの世界に転生させる準備はティーナの仕事だ」
「なるほど、転生先は自分で決められるかと思いました」
「良いことをしてれば希望はする。もちろん、世界に貢献してくれるなら記憶も引き継ぐようにしている。だが、悪いことをすれば希望はしない。悪い魂はほかの世界の神と相談して勝手に決める」
それならクエスが転生させた経緯がわかる。
「やっぱり俺は悪いことをしたから……当然だよな……」
下を向いて落ち込んでいた。
これはどうしようもないことだ。諦めて今の人生を真っ当するしかない。
「この子はどうなるのですか?」
「もうどうすることはない、悪いことをしなければ、普通に生きていい。これはティーナのミスでもあるからな」
ですよね……まあ、クエスなら反省もしているし大丈夫だろう。
ティーナさん頭を抱えて沈黙しないでください。
「だそうだ、クエス、今の人生を楽しめよ」
「はい……。でも俺は前の記憶がなかったほうがよかったと思います……。酷い人生だったので……知らないほうがマシですよ……」
知らぬが仏と言うがまさにこのことか。記憶を引き継いでも人によっては辛いよな。
ティーナさんがミスだから責任を取ってほしいが。
「酷い人生か、後悔があるのか?」
「はい……おふくろと親父に謝りたいです……」
「それは無理な話だ。君は悪いことをしているなら叶えられない。女神としての判断だ」
まあ、そうだよな。そんな都合よくいくわけにはいかないか。
「そうですか……わかりました……」
クエスもわかっていたかのように諦めた。
もう自分を押し殺して割り切ったか。
「だが、君が今世で徳を積むなら話は別だ。私たちが納得するほど良いことをすれば、地球の天界に案内はさせるぞ。それで元親に謝れいいさ。かなり時は流れるが、その条件ならのむ、どうだ?」
さすがに好条件とはいかないが、叶えてくれるのか。
それまでの道は長すぎて普通の人なら諦める。
さて、クエスはどう判断する。
「俺は……記憶が残っているかぎり、後悔し続けると思います……。なら受け止めて絶対に謝りたいです! この世界のために貢献します!」
大変だがやる気みたいだな。
クエスリークとして生きるとは言ったが、本江隼也でのケジメはつけないといけないようだな。
「そうか……わかった、では人のために良いことをするように」
「はい! 頑張ります!」
「それで良いな、ティーナ」
「えっ……? ええ! あなたには悪いことをしたからわざと記憶を残しておいたわ! これは女神としての試練と思っていいわ! 感謝しなさい! さぁ私たちのために世界を正しなさい!」
ミスをした本人が何を言っている……。
クエスは何も言わないで白い目で見てるぞ。
それと、メアもクスクスと笑っているぞ。
「まったく……よく言うよ。会議もあって疲れた。レイ君、まだお菓子はまだあるか? 私も食べたい」
「レイ……私も……」
「ワタクシが用意してありますのでご安心を……」
メアは無限収納からお菓子を出した。
いつの間に作った……?
まあ、とりあえずクエスの問題は解決した。
その流れで俺たちは戻らないで一緒にお茶をすることになった。




