4話 出会い
翌朝、目が覚める――。
防具を装備し、食堂に行き朝食、昼食用のサンドイッチを頼み、オーレのジュースを飲んで出発だ。
「おはよう、レイ君」
「おはようございます、リンナさん」
「今日はギルド長は徹夜で今寝込んでいて、スールはまだ帰って来てないから見送りは無理だけど。くれぐれもむちゃはしないようにね」
「わかりました。それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「むちゃはするなよ、レイ!」
「早めに帰って来るんだぞ」
「ケガしないように」
みんな見送りしてくれてありがたいけど、少し過保護な気がする。
城門に門番の獣人のニーマさんがいた。
「おはようございます、ニーマさん」
「おう、おはようレイ! 今日は1人で小遣い稼ぎか?」
「ブラックウルフを狩りにいきます」
「おいおい、ランク外なのによく倒しにいくな! お前のことだし止めはしないがむちゃはするなよ」
「はい、では行ってきます」
「おう、行ってらっしゃい」
そうして街道を歩き、街が見えなくなるくらいでスキル【身体強化】を使い、目的地へ向かう。向かい先は50㎞以上離れた森である。
かなり遠いが、身体強化があれば疲れることなく2時間で辿り着ける。
あそこにはブラックウルフが多く生息しているとの情報があった。
その森は街から遠いので危害もなく、誰もあまり行かないみたいだ。
難易度はDランク以上とされている。
まあCランク以上の魔物がいても逃げれば問題ないと思う。
途中、休憩を挟みながら朝食のサンドイッチを食べる。
そしてその森が見えてきた。【魔力感知】を発動させる。近くには魔物はいないようだ。そうして森の中に入っていく――。
――10分くらい経ったときに反応が出た。
500m先に3頭の魔物がいる。
【武器創造】を使って鉄の剣を創る。恐る恐る近づき、100mまで距離を詰める。ブラックウルフだ。まだ気づいていないようだ。
先手必勝、すかさず風魔法を使う――。
「――ウインドアロー!」
「ギャウ!」
風の矢で胴体に直撃する。
よし、まず1頭仕留めた。それに気づいて2頭がこっちに向かってくる。慌てることなく闇魔法を使う――。
「――シャドウバインド!」
1頭を封じ、もう1頭は拘束せず、突っ込んで来るタイミングで剣を振る。
「キャン!」
そして拘束した1頭の頭を剣で切り落とした。
「ふう……こんなところかな」
ブラックウルフの素材は1頭ごとに銀貨1枚(1万円)で取引される。依頼が受けられなくても、こんなにおいしい稼ぎはないから、思わず笑ってしまう。
2頭はアイテムボックスにしまい、1頭そのまま放置する。血の匂いを嗅いでくるからである。すると5頭くらいがこっちに向かってくる。
「今日は30頭を目標にしているからどんどん来てくれ!」
と言いながら、魔法と剣で次々と倒していく。
「……28……29……30っと」
およそ1時間で30頭を討伐出来た。この短時間でこんなに出るとは思わなかった。情報通りだ。魔力を使い果たしたから、マナポーションを飲む。
目標も達成したし。森の外に出て、昼食のサンドイッチを食べて帰るとするか。
すると、魔力感知に反応が出た。
「……うっ……なんだこの圧は……」
今までにない反応だ。しかも反応が森の出口近辺で出た。タイミングが悪すぎる。
そのまま時間を待って外に出るのもアリだが、森の中で待つのは危険すぎる。タイミングを見計らって出ることにしよう。
反応が出たモンスターに近づく。
近づくにつれ、魔力が濃くなってきた。150mぐらいで確認できた。
赤く身長3~4mくらいの怪物だ――とっさに木の陰に隠れた。
「……赤い……オーガだと……」
でもおかしい。オーガは基本的に灰色のはずだ。もしかして、異常種か?
普通のオーガでさえ、Bランクなのに、赤いオーガは聞いたことがない。
どう考えても魔力の量が多すぎる。勝てない相手だとわかった。
さて、どうしたものか。
――すると、ブラックウルフがこっちに来る。
「マズい!」
すかさず剣で切りつけた。
「――ガアァァァァァァァッ!」
赤いオーガが気づいてこっちに来る! しかも速い! 最悪のパターンだ!
「あぶな、速すぎだろう!」
俺を目掛けて太い拳を振ってくる。拳も速い。身体強化を使っても避けるのが精一杯だ――。
「――ヤバい、当たる!」
すかさず【武器創造】を使って大きな鉄の盾を創った。そして、盾と体中に魔力を通して拳を受け止める。しかし――。
「――いっ……」
力が強すぎて数十メートル吹き飛ばされた。右腕の骨が折れたくらいで済んだ。
普通の人間なら死んでるはずだけど、体中に魔力をコーティングしてクッション代わりにした。こっちに向かってくる。
思いきり魔力を込め――。
「……シャドウバインド」
「――ガアァァァァッ」
なんとか闇の拘束魔法で止めた……今のうちに……。
「――ヒール」
回復魔法を使い、右腕を完治させた。あと数分しか止められない。マナポーションを飲み、その場から全力で逃げる――。
――数分経過して魔法が解けた。
やはりこっちに向かって来ている。無我夢中で逃げた――。
逃げてから10分くらいのことだった、急に赤いオーガの動きが止まった。どうやら諦めた様子だ。
「……助かった~」
さすがに疲れた…どうやら森の奥まで入ってしまった。周りに魔物もいないし、少し休憩にする。昼食用のサンドイッチをアイテムボックスから取り出し、食べた。
少し落ち着いたときに、周りとは違う場所にいることがわかった。不思議と何かに引き寄せられる感じがした。
すると……。
『久しぶりのお客さんだね』
――頭の中で可愛らしい女性の声が響く。
「誰だ!」
『ボクの声が聞こえるんだね! じゃあ、こっちに来て!』
【魔力感知】に反応が出た。100mくらいにいるみたいだ。
しかも、ボクっ子ですか……まさか魔女が住んでいるのか?
感知した場所に行くと、白紫色した綺麗な剣が岩に突き刺さっていた……。
「綺麗な剣だな……」
『どうも、ありがとう! まさか最初から口説かれるなんて!』
「まさか、この声って剣がしゃべっているのか!?」
『察しがいいね! その通り、ボクは君から見て魔剣という形で見えるかもしれないね!』
「魔剣ですか……」
『名前もあるよ、エフィナって呼んでね! 何もないけど、ここの結界は安全だから適当に座ってよ!』
「はあ……」
魔剣の近くに座った。
いろいろと整理しよう……。
魔剣エフィナの結界の中に入って赤いオーガに気づかれないようになっている。そしてこの魔剣、フレンドリーすぎる! 警戒も何もない!
「しかし……警戒とかしないのか?」
『問題ないよ、君の魔力がとても良いし、悪い人じゃないからね! ところで君はなんて名前?』
「レイだ」
『レイ、良い名前だね!』
「褒めても何もないぞ」
『はは、確かにね。ところでレイは、なんでこんな森の奥まで来たの?』
「それは――」
エフィナに事の経緯を教える――。
『なるほどね、その赤いオーガはレッドオーガ、異常種だね』
「やっぱりそうなのか……」
『大変だったね、ここでゆっくり休むといいよ! むしろ、ずっと居てもいいよ!』
「それだと食料が保たないって……」
『それもそうだね!』
この魔剣、本当にフレンドリーだなー。まあ悪くはないけど。もしかして、ティーナさんが言うこれがイベントなのか?
だとしたらイベントではなく、神様の試練的な感じなんだけど……。
ここにずっといるわけではない、街に帰らないといけない。よし、聞いてみるか。
「なあエフィナ、俺以外にここに来た人はいないのか?」
『もちろんいないよ! ここに来ることがあり得ないから、来ても近くを素通りだからね!』
「そうなのか……寂しくなかったのか?」
『それは寂しいよ……けどレイが来たから本当に嬉しかった! ずっとこのままかと思った』
魔剣と言っても自我があるからやっぱり寂しいのか……このまま放っておくわけにはいかないか。
「そうか……魔剣だから契約者とかいるのか?」
『いらないよそんなの、ボク自身扱える人なんていないからね』
「いないのか……じゃあずっとこのままなのか?」
『そんなことはないよ、ただ……』
「目の前に適性者がいて悩んでいるとか?」
『はは……君はお見通しだね。確かにレイ、適性があるけど今のボクを扱うことはできない。けど、ほかの条件ならある』
「レッドオーガを退けるなら別に構わないさ。その条件とは?」
『君にボクの魔力あげることができる。そうすればレッドオーガなんて余裕で倒せる』
「それなら俺は嬉しいかぎりだ!」
『君はこの力を悪用はしないと思うけど、周りから悪用される可能性があるから苦労すると思うよ』
「なんだそんなことか。そのときはそのときだ! まあ加護を持っているから大丈夫だと思う」
『加護ってまさか神様の加護かい?』
「そうだよ、あと俺は転生者だからそれでもらった」
『君、転生者だったのか……フフ……』
突然、エフィナが笑い始めた。
『決めた! 君に喜んで力を貸すよ!』
明るく言い返してきた。何か面白いことがあるからついて行くよ、という感じだと思った。
「じゃあ、どうすればいい?」
『君はボク、この剣を抜くだけでいいよ!』
「わかった」
『ちなみに、剣を抜いたら、結界が破れるからレッドオーガが、すぐ来るかもしれないから気をつけて! 準備はいいかい?』
「もちろんだ!」
剣を抜く――すると、剣が消え――白紫色の球体になった。そして、俺の体の中に入る。
とても温かく、魔力がみなぎるようだ。
『成功したみたいだね』
頭の中からエフィナの声が聞こえる。
「そうみたいだ」
魔力感知で反応が出た。2㎞先にレッドオーガがいる。こんなに鮮明に反応するとは、エフィナの魔力はすごい。
『レイ、武器創造なんて面白いスキルを持っているね! もしかすると、オリジナルの魔剣が創れるかもしれない!』
俺の体の中に入っているから、俺のスキルがわかるのか。
「そんなことができるのか!?」
『ただしボクの魔力を使うからむやみやたらに使えないし気をつけてね!』
「わかった。善処するよ」
レッドオーガがこちらに気づいたのか、猛スピードで来る。
『よろしい! レッドオーガは氷に弱いからそれに適した魔剣を創ってね!』
「氷か……」
レッドオーガって氷に弱いのか、しかしエフィナはいろいろ知っているな。魔剣って物知りなのか?
それはいいとして、自分の魔剣を創るどうやって? イメージが全然わからない……。
氷が弱点なら氷の魔剣を創ればいい――。
そうイメージをした――。
すると手のひらから青い光が出る――。
『もうちょっとだよ頑張って!』
エフィナが応援する。徐々に頭の中に剣のイメージが勝手に思い浮かぶ。
これを創ればいいのか。
「来い! ――氷の魔剣!」
頭の中から【魔剣創造】のスキル獲得の文字が浮かぶ。青い光が包みこんだ――手にはイメージした氷の魔剣を握っている。どうやら成功したみたいだ。
『すごいよ、レイ! 魔剣を創るなんて!』
「それより大丈夫か、エフィナ? かなり魔力を持ってかれた気がするが……」
魔剣を創るのに莫大の魔力を使った。これは命にかかわる程の量だと思うが大丈夫なのか?
『心配してくれてありがとう! 大丈夫だよ! それよりほら、レッドオーガが来たよ!』
大丈夫なのか!? エフィナが大丈夫って言うから平気か……それとレッドオーガが来たか――。
「――ガアァァァァ!」
エフィナは余裕で倒せると言っていたけど、どれだけ通用するか、やるしかなさそうだ……。
すると頭の中に技や氷の魔法が浮かぶ――。
「――――アイスソード」
もう片方に魔法で氷の剣を創り、手に握る。レッドオーガが殴りかかってきた――。
――二刀かまえて拳を防ぐ。
「ガアァ!?」
さっきまで防げなかったのが余裕で防げるようになった。これはチートだよ……。
拳を弾き、足を狙って切る。
「――――絶氷!」
切りつけると、簡単に足が切れた。
「ギィガアァァ!」
切りつけた足が凍った。これが魔剣……恐ろしい切れ味だ……。
片足を切られても相手はひるまずに殴りつけてくる。それを剣で受け流した。
しかし、相手の攻撃を読み取ることができるなんてすごいとしか言いようがない。
隙が見えた、冷気を纏い一気に切りかかる。
「――――氷刃乱華!」
「――ガアァァァァァァァァァァ……」
レッドオーガの体中を連続で切りつけた。これで倒せただろう、しかしまだ立っていた。結構しぶとい、魔法を使うことにした。
「――――アブソリュート・ゼロ!」
レッドオーガを氷漬けにし首筋目掛けて切る。
「――――氷刃・一閃!」
首を切り倒した――。
「やっと終わった……これで帰れる……」
『お疲れ様レイ!』
「ありがとう、エフィナお陰でレッドオーガを簡単に倒せたよ」
『えへへ……どういたしまして! それと魔剣にもお礼を言わないとね!』
「ああそうだな、ありが……と……う……」
急に倒れこんでしまった。意識がなくなる……ここで寝込んだらマズい……。
そうして意識が無くなった――。