379話 お世話になります
――翌日。
俺とローズさんは行く準備ができたが、メアが来ない、いったい何をしている?
「まさかローズがボウヤを……さすが私の妹ね」
「見かけによらず大胆ね……」
「なんのことです?」
「なんだ、いつもと変わらないわね」
「ちょっと期待していたのに……」
双子は俺を口説いて連れていくと思っていたが、ローズさんの一言で残念そうな顔をする。
ローズさんがするわけないだろう……。
「それより姉さんたちは王都に行かないのですか? 精霊使いと一緒にいたいと思っていましたが」
「「「精霊使い……」」」
その発言で尻追い組は圧を出す。スカーレットさんを行かせたくないのか……。
せっかく会いに来たのに水の泡となるからか。
いや、見張りをしっかりしろよ……。
スカーレットさん目的でここに来るな……。
「私は休暇中よ、王都に戻ってもやることはないわ、お兄さんとボウヤがいないし、ここを守らないといけないわ」
「スカーレットと同意見よ、仮に一緒にいるとお仕置きの意味がないの……」
「「「よし……」」」
行かないことがわかると、静かに拳を握りしめる。
「王国騎士、よく聞きなさい。賢者レイが不在で気を抜かないように、己の責務を果たすこと、いいわね?」
「「「ハッ!」」」
スカーレットさんが前に出て命令をすると、騎士たちは敬礼をする。
特に尻追い組は声が大きくやる気を見せる。
そのやる気、始めからやってくれ……。
そしてスカーレットさんは俺を見てウインクをする。
私がいるから安心してってことか。
まあ、スカーレットさんがいる限り大丈夫そうだな。
しっかりやる気を出させてください。
それにしてもメアは何をしている……。
「遅くなり申し訳ございません……。少々用意にかけてしまいまして……」
やっと来たか……黒いスーツにメガネをかけてポニーテール姿だった……。
遅いのはこれに着替えていたか。
俺の秘書になったつもりか……?
というかいつの間に作った?
「良い正装ですね。これなら生徒はメアさんを軽視しないと思います」
「フフフ……ありがとうございます……」
スーツ姿は別として、舐められたら【威圧】で無理やり抑えると思うが。
「主様もスーツを作っておりますのでご安心ください……」
メアは無限収納から黒いスーツを出す。
俺のもあるのか、随分用意がいいことで。
ん? アイシスが地面に手をついて膝をついているのですが……。
「アイシス、まさか作ったのか?」
「はい……。メアに先を越されました……。このとおり……」
アイシスは無限収納から青いスーツを出す。
こちらも用意がいいことで……。
「作ったなら着るけど……」
「ありがとうございます。今回は油断をしました。まさかメアが作っているとは……」
「フフフ……大事なことですよ……。ワタクシが何も用意していないと思いましたか……? 残念でした……」
「仕方がありません、今回は引き分けにしましょう」
「次からは正々堂々と勝負しましょう……」
なぜお互いにらみ合っている……。
というか勝負することなのか……?
2人が作ったスーツを受け取り、無限収納に入れる。
「ではよろしくお願いします。 姉さんたちもあまり迷惑かけないでね」
「余計なお世話よ」
「あなたこそ迷惑かけないでね」
なんだかんだこの姉妹仲が良いな。
メアが空間魔法を使い、王都に移動する――。
視界が変わり、王城の庭に着いた。
そこには王様家族にヴェンゲルさん、騎士団長がみんなでお茶を飲み、騎士たちは整列して待っていた。
「やっと来たか~待ちくたびれたよ~」
「すいません、いろいろと遅くなって、1ヶ月よろしくお願いします」
昨日は王様に講師として王都に行くと言ったら――。
『そうかそうか、じゃあ、泊まる場所が必要だね、よかったら僕の城に泊まりなよ』
っと言ってくれてお世話になる。魔法学校と大学は隣だし、ここから歩いて十数分で着く。
移動も楽で俺からしたらありがたい待遇だ。
まさか講師として泊まるのは予想外だが。
リンナさんは俺が来るとわかって、満面の笑みだ。
まあ、お相手する時間はあまりないと思うけど。
「いいよいいよ、とりあえずお茶でも飲んで。ローズもそのくらい時間はあるよね?」
「はい、問題ありません。私も陛下に話したいことがあるので」
俺たちもお茶をすることになった。
今日の予定は生徒が帰ってあとに校内の案内をしてくれるとか言っていたし十分時間はある。
ローズさんは王様に書類やらいろいろと渡していた。
「君も急なことをするね~。わかった、予定を空けておくから問題ないよ」
「急な申し出、ありがとうございます」
会う予定でもあるのか。それにしてもローズさんは王様の前でも堂々としている。
スカーレットさんと長い付き合いだし、普通か。
俺も話したいことが――。
「ヴェンゲルさん、ソウタは依頼ですか?」
「ああ、災害級――デスキングクラブの依頼を1人で受けさせている。そろそろ戻って来る」
その程度の魔物ならソウタは余裕だ。
なんだかんだヴェンゲルさん優しいな。
「ソウタには楽な相手ですね」
「ああ……今はアイツにとって苦しめる依頼がなく、非常に残念だ……」
そっちのほうか……。依頼が少ないなら平和でいいと思うが……。
あっ、怒りが抑えきれなくて、テーカップを割っている。
「また割った、ちょっと勘弁してよ~」
「陛下……弁償はソウタが払う……」
「わかったいるよ、割っていいからってほどほどにしてね」
なぜ、王様は笑顔でいられる……?
ヴェンゲルさんに気を遣っているのか?
ソウタの魔力がある、どうやら依頼を片づけてきたようだ。
すると、王女さんが立ち上がり、武器を持ち、尻追い組と思われる騎士も構えている。
察しました……。
「はぁ……はぁ……早く終わらせたぞ……」
ソウタは息を荒げて来る。
干からびてもいないしまだ大丈夫だ。
「遅いじゃねか……次は稽古だ……。休むんじゃあねえぞ……」
「ソウタさん、覚悟してください」
「「「精霊使い……覚悟……」」」
「今はやめてくれ――――!?」
王女と尻追い組はヴェンゲルさんの合図でソウタを襲いかかる。
うわぁ……容赦ない……。
ソウタが休める場所がどこもないな……。
「フフフ……滑稽ですこと……そういえばグランドマスター……新たな情報があります……耳を近くに……」
「なんだ? …………なにぃ!? スカーレットとルージュより、他の嫁が1番良いだと!?」
「はい……それも双子より良い身体を持っています……。むっつりなお兄さんは身体目当てしかありません……」
「ソウタ……許さんぞ……」
ヴェンゲルさんは立ち上がり稽古に加わった。
またメアは余計なことを……。
いや、ソウタは身体目当てところもあるから言っていることは本当か。
「ご愁傷様ね……」
リンナさん、拝まないでください……。まだ死にませんよ……。
疲れ果てて、干からびるとは思うけど。
「いや~賑やかでいいね~。ソウタ君がいると毎日退屈しないで助かるよ~」
「そうですな、ソウタ殿が来て皆がやる気になり、大助かりですな」
王様と騎士団長には評価が良いみたいです。
さて、ソウタは数ヶ月耐えられることができるだろうか。
もし危なかったら回復魔法をかけてやるよ。




