371話 代理の人
『あ~ローズ、お取込み中だから話はあとにしてね』
『そうはいきません! ジェストさんから話を聞いています! 魔道具を貸してください! 賢者レイさんに話があります!』
『えっ、ちょ――』
緊急事態と思ったら違うのか? というか王様がお取込み中なのに入ってくる女性は何者なのだ?
普通だと首が飛ぶぞ……。 しかも無理やり変わったようだが、俺に何か用があるのか?
『陛下と変わりました。ローズ・シャイニと申します。あなたの領地にいる双子の姉――スカーレットとルージュの妹になります。姉たちの面倒を見てもらいありがとうございます』
あの双子に妹がいたのかよ……。驚いています……。
声からしてあの2人とは違い、ハキハキしてしっかり者みたいだ。
この感じだと俺じゃなくて2人に用があるか。
『いえいえ、魔物を倒したりしていますので助かっています。慌てているようですが姉2人に用がありますか?』
『はい、スカーレット姉さんに用があります! 今すぐに王都に戻るように説得してください! 私に何も言わずに手紙だけ送って勝手に出ていくなんてありえません! まさかこんな重要なことが書かれていたなんて最悪です! もっと早く読めばよかった……』
なにやら大事になっていましたか……? この人、姉にかなり苦労していますね……。
『やっと、読んでくれたんだ。しっかり者のローズにしては随分と遅かったね~』
『姉からの宛てです! どうせロクなことしか書いてなかったので後回しにしてました。やっと落ち着いて読み上げたら呆れましたよ……。手紙ではなく直接言ってください……』
手紙って……俺の領地に来る前だから1ヶ月以上は過ぎているな……。
『だってローズは毎日忙しいし、時間があるときに来てくれと書いてあるはずだよ。まさかここまで読まないのは驚いたけどね。まあ、急ぎではないから大丈夫だけど』
『あの……緊急ならスカーレットさんに変わりますよ……』
『大丈夫、大丈夫、ちょうどいいし言うね、さっき話していたスカーレットの代理候補となるのは妹のローズだよ。ローズは王都の学校の理事長をして、魔法と剣を使える凄腕の人で僕の護衛としては適任だね』
妹が候補なのかよ!?
しかも王都の学校の理事長って……魔法、騎士学校、専門学校、大学の責任者だよな?
姉妹そろってすごいことしているな……。
じゃあ、代理だから理事長は辞めずやるのか?
なかなかにハードすぎるが……。
『レイさん、今すぐお願いします! 私に話さず勝手に決める姉が許せません!』
ですよね……。
メアに念話を送りスカーレットさんを呼ぶように言うと――。
「『むっつりなお兄さんと熱くお取込み中なので無理と言っています……』」
昼間から熱くなるな……。
まったく……しょうがない……。
『お取込み中だそうで今は無理みたいです。ローズさんの都合に合わせてかけ直すように言いますが、それでよろしいでしょうか?』
『わかりました。私の連絡先を教えますので、今日の夜が時間が空いています。よろしくお願いします』
『ということだからレイ君、騎士たちの準備ができたら連絡するからよろしくね~』
こうして2人との会話が終わった。俺に連絡先を教えてくれるのだ? スカーレットさんなら知っていると思うが。
まあ、いいや、今はお取込み中なら夕食のときに話せばいいか。
――夕食の時間になり、みんな集会場に集まってくる。
最後のほうにゲッソリとしたソウタに抱きついてラブラブのスカーレットさんが来た。
「スカーレットさん、ローズさんが夜に連絡するように言っていました。というか代理の件しっかり話してくださいよ……」
「ボウヤに迷惑をかけたわね。けど、姉命令だから絶対よ、姉に歯向かうなんていい度胸してるわね。悪いけど、夜はお兄さんと熱い夜を過ごすから連絡するのはなし」
それは連絡したあとにしろ……。ソウタが干からびない限りいつでも過ごせるだろう……。
よほど妹と連絡したくないのだな……。
「じゃあ、ローズさんに言いますので、この件は早くめに片づけてください。いずれ王都に行って話し合わないといけませんし……」
「わかっているわ。そうね……エクレール、王都に戻りたいと思う?」
「えぇ~? ウチは~ずっとここにいたい~。もう戻るの~?」
「いえ、まだよ。ボウヤ、エクレールがまだ戻りたくないって言っているから、陛下に呼ばれるまで王都には戻らないわ。申し訳ないけど、このことをローズに言ってちょうだい」
結局は嫌ってことか……。
後回しにすると、面倒が増すだけだぞ。
もしかしてローズさんはこのことがわかって連絡先を教えたのか……。
仕方ない、飯食ったら連絡するか……。




