368話 結晶騎士とスライム
この回はセイクリッドとマイヤの話です。
セイクリッドはレイの言うとおりにリフィリアの故郷――マナの大樹を守っていた。
「――――覇王・一閃! フン、雑魚が我の領域に入るとはいい度胸だ。しかし……」
予想以上の数を倒したせいか、周りと鎧は血まみれで汚れていた。
けど、マナの大樹の周辺には血一滴もなく守られている。
「ふぅ……仕方がない、解体してから水浴びでもするか」
そう言いながら解体を始めた。
食べられる魔物の肉は「ゲート」を使って様子を見てくるリフィリアに渡してその肉を調理して持ってきている。
レイたちに会わなかった前はただ肉を焼いて食べていることが多かったが、味を占めてしまい、今は食に関心をもってしまった。
器用に内臓と肉に分け、日が暮れてしまった。
「ふぅ……リフィリアが来る前に終わった。急いできれいにしなければ――」
そのときだった。
小さな魔力反応があり、セイクリッドは剣を構えた。
「小さいが、これも我の役目だ、悪く思うなよ」
姿を現したのは上機嫌で飛んでいる青い球体の生物――スライムだ。
「スライムか……害のない奴は切らん。しかし、今まで見た中で大きいな」
セイクリッドは構えるのをやめた。
スライムは敵意のない生物と認識し、周りの掃除をしていることをわかっている。
そしてスライムは魔物の残骸がわかると、小刻みに震えて飛びつき、骨を体内へと取り込んでいく。
「ハハハ! 食いつきがいいな! 我は水浴びしてくるから肉だけは残しておけよ! まあ、言っても無駄だろう」
知能の低いスライムは目の前の死骸を食べ続けるしかわかっていない。
セイクリッドはそれをわかっていているが、残骸は大量にあるから肉まで食わないと思い、水浴びにいく。
「さて、そろそろリフィリアが来る頃だ……なんと……」
水浴びして戻ると異様な光景を目の当たりにする。
スライムが残骸をすべて食べつくして、周囲――血だらけだった地面がきれいになっていた。
驚くことに解体した肉だけが残っていた。
あり得ないと思い、目をこすって再度確認したが現実である。
食べを終えたスライムは高く飛びながら上機嫌で去っていく。
「長年生きているが、珍しいスライムがいるものだ」
セイクリッドは未だに不思議そうに立ち止まっていた。
「ご苦労様、どうしたの?」
「いや、なんでもない。夕食はなんだ?」
「ゲート」を使って来たリフィリアに言っても信じられないと思いスライムのことは言わなかった。
肉を渡し、持ってきた夕食を受け取り、何もなかったかのように食べる。
今日の出来事は心の中にしまった。
――翌日。
昨日と変わらず、魔物を狩っていた。
「ふぅ……こんなものか、さて解体でも――」
すると昨日と同じスライムがリズミカルに向かってくる。
「また来たか、残念だがまだ解体していないぞ。少し待ってくれないか? そもそもスライムは待つことができるのか?」
昨日はたまたま言ってただけで、スライムが言うことを聞くなんて、まだ信じていないようだ。
だが、死んだ魔物を目にしてもおとなしく待っていた。
「本当に待つとはな……」
セイクリッドは解体を始め、骨や内臓を取り出すとスライムは飛びついて食べ始めた。
昨日ことを覚えていて肉の方は手をつけなかった。
あっという間に平らげて次を待っていた。
「信じられんな……。まあ、よい、好きなだけ食べるがよい」
スライムは飛び跳ねて喜んでいた。
その後、解体した残骸を食べ終わり、地面に飛び散った血まで取り込み去っていた。
「まあ、周りの掃除をしなくて我にとっては助かる」
いつもならいらない残骸は専用の穴に入れて処理をしている。
そのまま放置すると、リフィリアに怒られて説教されるからだ。
面倒が省けてセイクリッドは大助かりであった。
その後、毎日のように来て残骸の食べてくれるようになった。
小人の村に遊びに行った後のことである――。
「ハハハ! 息抜きもできた、さて引き続き狩るか!」
すると、セイクリッドを見つけたスライムが勢いよく飛んできて――腹の方に当たる。
そして久々に会ったのか周りを回って喜んでいる。
「――ヌオォ!? スライムとしては良い攻撃をしてるではないか……。腹が空いているのはわかっている……。少し待て」
そう言ったが、待てないのかついてくる。
しょうがなく、同行して狩りをするようになった。
それが、レイたちと離れているときの日常となる。
小人たちの悲劇が起きたあと、みんなと開拓をしているときのこと――。
セイクリッドは作業をやめて、イスに座り休憩をしていた。
マイヤは休憩だとわかると、近づいてくる。
食べもの目当て関係なく来るようになり、懐かれていた。
「マイヤか、最近相手できなくて悪いな。落ち着いてもそうとは限らないこともある。もし、我が忙しいときにお主が代わりにみんなを守ってくれぬか? 特に主殿だ。たまに危なっかしい行動をする、そのときは頼む、約束だ。今のお主なら並大抵の魔物なら身体を使って防御できる。まあ、無理にとは言わんが」
セイクリッドは思い出しながら言う、一緒に狩り行って、複数の魔物に襲われた瞬間、マイヤが身体を伸ばして守ってくれたことを。
もう背中を預けられる存在だから言えることだ。
セイクリッドの言葉に応えるようにマイヤは高く飛ぶ。
「そうか、そうか。約束だ」
セイクリッドは手を差し出し、マイヤも手の形に変形させ握手をする。
こうして結晶騎士とスライムは約束をする。
「あっ、やっとマイヤちゃんを見つけた! 遊ぼう~! 待て~!」
ルチルの声でマイヤは握手をやめて、逃げ始める。
あまりにしつこくて嫌みたいだ。
「ルチル殿も変わらんな、さて、やるか――」
セイクリッドは立ち上がり、作業始める――。




