36話 出しに使われる……
――翌日。
「お兄ちゃん、起きて!」
ブレンダと精霊が起こしてくれた。
昨日あれだけ魔力使ったのに元気ですな……。
「……おはよう」
「うん、おはよう! お姉ちゃんが朝食の用意ができたって!」
もうそんな時間なのか、時間は……部屋に置いてある魔道具を確認すると7時になっていた。
近くに時計があるとやっぱり便利だな。
街には大きな魔道具もあるし、ギルドの中にもあったから時計のことなんて気にしていなかったけど、部屋にあると便利だ……屋敷にないから王都で良い時計買うのもありか。
「わかった、今すぐ行くよ」
「うん、みんな待っているよ!」
待たされてるのか……みんな起きるの早いな……。
食堂に向かうと――。
「「おはようございます。ぼっちゃま」」
「おはよう、待たせてごめんよ」
「いいえ、そんなことはありません。私たちも先ほど、起きたばかりなので気にしないでください」
セバスチャンはそう言うけど気を遣わせてしまったようだ。
『レイっていつも朝起きるの弱いね』
確かに俺は朝に弱い方だが自分で早めに起きることだって……無理な方だな……。
たまにしか起きれないから否定はできない……。
朝食はパン、チーズオムレツ、牛肉の腸詰め、野菜のミルクスープだ。
食べてみると――うん、安定の美味しさだ。
「卵の中にチーズが入っていておいしい! 毎日食べたい!」
ブレンダはチーズオムレツが気に入ったようだ。
それを聞いたルミンはすかさずメモを取る。寮母になる人もいろいろと大変だな。
朝食を食べ終え、準備をして、宿を出る。
今日の予定は70㎞離れたリーヌ村まで行く。
馬車に乗り進む――村の出口付近で人だかりがあるがいったいどうしたんだ?
窓際で精霊が見えると思いフードに隠した。
村長が出てきて一旦馬車を止め、セバスチャンが対応していたが俺に用があるようだ……。
嫌な予感しかない……。
「やはり、貴方は――貴族様だったのですね!? 昨日は村の生産品を沢山買ってくださいましてありがとうございました! こんなに村に貢献してくれた人は貴方しかいないです!」
うわぁ……勘違いされている……やっぱり買いすぎたか……このままだと面倒くさいから護衛って言わないと。
「いや別に大したことはしてないって! それに俺は貴族ではな――」
そのタイミングでセバスチャンのメガネが光った――。
「このお方はカルムの領主様の養子になるレイ様でございます! 皆様控えてください!」
ちょっと待て、セバス! 変な誤解を招くだろ!?
それを聞いた村長は驚いてた……。
「養子!? 大変失礼いたしました! じゃあ、生産品を買ったのはもしや……」
「はい、レイ様は食にこだわっていますので、ここの生産品を大変お気に入りになられたからです。誇りをもってください」
「なんと!? ありがとうございます!」
ここの乳製品と牛肉は気に入ってるのは確かだが……セバスチャンが何か書いている。
「こちらはカルムの商業ギルドの紹介状です。ここだけではもったいないので、是非、カルムに運んでください」
抜け目ないな……てか俺を出しに使うな!
「よろしいのですか!? ありがとうございます! 是非ともお伺いします!」
まあこの村が商業ギルドと提携すれば街に乳製品と牛肉は品質良く売れるな……というかここは、ほかの街に提供とかしてないのか?
「では、私たちは忙しいので失礼します」
「はい! またお越しください! 次は大歓迎して待ってます!」
「「「ありがとうございました!」」」
村人たちは気持ちよく見送ってくれた……そんなに俺、貢献したのか?
「ぼっちゃま、ありがとうございました。やっとこの村の生産品が街に運ばれてきます」
「やっとって……今まで街に流通していないのか?」
「その通りでございます。品質を良くするあまりこの村はあまり市場に出していません」
「ってことは宿もいいのを建てているってことは、ここで売ることで相当な儲けがあるってことか。なぜいまさらなんだ?」
「そこまで考察しているとはさすがでございます。最近の事になりますが、街の食材を見てどう思いますか?」
「品質が良くなっていることだな。商業ギルドの人たちは頑張っていると思う」
「おっしゃる通りでございます。最近開発された氷の魔石を付けた魔道具に入れて運んでいるからでございます」
そんなの開発されていたのか!? これは世の中良くなりますな……。
「だから品質が良いのか……だとすると、ここの村に来なくてもほかのところで、同じ物を運んでしまえば街で運ばれてきた物で十分になり、需要がなくなるってことだな」
「その通りでございます。今この村では、大打撃を受けていたところだと思います。そこでおぼっちゃまがここで大量に品を購入したことで村の救世主になったのです。それでこの機会に交渉したら上手くいきました。本当にありがとうございます」
ちゃっかりしているな……まあ、この村と良い関係を築き上げたならいいか。
「難しい話しているけど、どういうこと?」
「お嬢様、おぼっちゃまは人を助けたすごいお方ということですよ」
いや、そこはちゃんと説明しろよ!? すごいで丸く収めるな!
「うん、お兄ちゃんはいつもスゴイ!」
それで納得したのかよ……セバスチャンはブレンダの扱いが上手いな……。
――ソネットから離れて3時間経過した。
今のところ魔物にも襲われることなく穏やかなに街道を進んでいる。
「この先は丘を越えて行きますので、ここで昼食にしましょう」
馬車止め、昼食の用意をする――アイシスが主に作ってルミンが助手に入った。
俺は魔物がいないか警戒をしていた。
昨日と同じでホーンラビットくらいの魔物しかいない。
そしてブレンダは――。
「風の矢よ、敵を射貫け――――ウインドアロー!」
ホーンラビットに放つが避けられた。
「ムムム……もういっかい!」
練習に励んでいた。
昨日より速くなっているな。この速さならゴブリンなら仕留められるがホーンラビットは素早いからまだ少し厳しいか。
「そろそろ昼食ができるから戻るぞ!」
「うん、わかった!」
素直に返してきたな、お腹でも空いているのか。
昼食はミネストローネに……また凝ったのを作りましたね……ローストビーフサンドですか……。
まさかローストビーフは朝作り置きしていたのか? こんな短時間ではできないからな。
食べると――肉が固すぎずしっとりしていて、これがまた美味しい……。
「おいしい! もっと食べたい!」
「濃いかと思いましたがあっさりしていて美味しいです」
「美味しいですお姉様! 昼から贅沢できるなんて幸せです!」
「ウマい……俺はこれが1番好きかもしれない……」
「ジョナサン、今度私が作るわよ。お姉様から完璧に教わったからね」
「そうか……ありがとう」
ジョナサンとルミンは身体をくっつけ合い2人の世界に入っていた……。
別に仕事をしているからベタベタするなとは言わないが傍から見たら爆発しろ! と言わんばかりのムードですけどね……。
『アハハ! 昼間っからイチャイチャしてておもしろい!』
なぜかエフィナにはウケていた……。
昼食を済ませ、馬車に乗り丘へ進む――。
――2時間後。
丘を登っている途中、【魔力感知】に大きな反応が出た――上の方か。
飛行系の魔物だとわかった。
「セバスチャン、魔物の反応が出た。俺は先に行って様子を見てくるから危なかったら馬車を止めてくれ」
「わかりました」
アイシスは何かあったら困るからここに待機してもらう。
「それじゃあ行ってくる」
「気をつけてください。ご主人様」
「お兄ちゃん、頑張って!」
馬車を降り、反応があった場所に向かう――。




