350話 思いがけないこと
先王が楽しそうに話す。
「不思議な子にあってね、その子は鬼人族と人間族の混血で、ここの周辺の島で両親と3人で暮していたと聞いてその島を探しに来たのだよ。それでその子が渡ってきた、この丈夫な舟を借りてここまで来たというわけさ」
…………明らかにチトセの子どもじゃないか!?
意外だったのが鬼人族の男と伴侶としていたことだ。
まあ、魔大陸に人間の種族はあまりいないからあり得なくはないか。
とりあえず大陸には無事に着いたことは大きな手がかりだ。
「チトセの子どもに会ったのか!? どこに行った!? 教えてくれ!」
ライカは興奮が抑えきれずに先王の肩をつかみ、身体を思いっきり揺らす。
「ちょっと落ち着いて、いったいどういうこと?」
「オレが言う、ライカは落ち着け、シグルドがよく聞けんぞ」
魔王がチトセの子どもがここで暮していたことと、俺たちの目的を話した。
「そうか……チヨメちゃんを捜しにここまで……。大変だったね」
名前がチヨメって言うのか、女性で間違いないな。
ライカさん、バチバチと電気を尻尾に送って振らないでください。
興奮しすぎて魔力が漏れていますよ……。
「お前さんたちも、なんという偶然か……。どういう経緯で知り合った?」
「ちょうど、南海岸の街――クークスで釣りを満喫していたところ、舟を見かけてね、珍しい服装をしていたから話しかけたのさ。ライカちゃんみたいな服装で胴当てをしていたね」
巫女服に鎧とはまた組み合わせが……いや、侍みたいな防具か。
そこは日本人の血を受け継いでいるのかもしれない。
「儂と同じとはやるではないか。さすがチトセの子ども、わかっている」
まだ同じとは限らないぞ、本人を確かめないと。
「その子どもはどこに行ったかわかるか?」
「両親を故郷を巡るとは言っていたね。最初は魔大陸出身の父の故郷と次にプレシアス大陸出身の母の故郷に行くとは言っていたね」
旅をするって両親の故郷に行くことだったか。
待てよ、チトセの故郷がプレシアス大陸? まさか、小人の村のことだよな。
確かにこの世界の故郷と言い切れる。
「魔王よ、鬼人が多く住んでいる場所はどこだ?」
行く気満々だな……。
「鬼人は珍しい種族だ。多く住んでいる場所なぞどこにもないぞ。あったとしても親の故郷だとは限らん。悠々旅をしているなら待っていたほうがいいぞ。急に邪魔されたらたまったもんじゃない、ライカの故郷に行くなら待て」
「儂の故郷はもう壊滅してない……いつ来るかわからん……待てない……」
どちらも難しい話だな。父親の故郷を捜しはキリがなく、小人の村でずっと待っているわけにはいかない。
途中で俺の領地を寄ってくれるのは話は別だが、ここの島で待っているのが無難だ。
「それなら心配はないと思うよ。舟を借してくれたお礼にシュトラール――城への招待状を渡しておいたからね。「困ったときは息子に頼ってね」と言ったよ。チヨメちゃんは「絶対に行く」とか言っていたし、もしあれだったら息子に連絡して、城で会うのはどうかな?」
先王……やってくれますね……。
お礼のスケールがすごいです……。
というか王族ってこと言ったのか……。
王都に来てくれるならこちらとしては都合いい。
それを聞いたライカは――。
「絶対に会えるなら儂はかまわない」
納得してくれたようです。
帰ったら王様に連絡してお願いしてもらわないとな。
「話は終わったようだな。で、お前さんたちは島に来て、どうしたい? お前さんたちでは退屈すぎるぞ」
「そんなこともないよ。チヨメちゃんの島では農業ができると言って楽しみにしていたよ。あと、初心者でもできるとか言ってたね。種ももらったからいつでもできるよ」
そう言って先王はバックから袋に入れた種を見せた。
これって【創種】の種だよな……。そんな簡単に渡していいのか……?
信頼できると渡したとは思うが。
しかし、先王が農業したいとは意外な発言です……。
「わかった。だが、畑が荒れている、手入れをしないと無理だぞ。オレたちは手入れをしているから農業をしたければ手伝え」
魔王……先王に手伝えとかよく言えたものだな……。
俺には無理だ。
「そのつもりだよ。けど……私たち舟を漕いでお腹が空いてたよ……。食べてからでいい?」
「相変わらずのんきだな……しょうがない、メイドよ、この2人に何か食べさせてくれ」
「かしこまりました」
「おお、息子が大絶賛したアイシスちゃんが作ってくれるのか、楽しみだな~」
「私も1度は食べたかったのよ、期待して待っているわ」
王様、どこまで俺たちのことを手紙に書いたのだ……。ほどほどにしてくれ……。
アイシスは倒したホーンシャークの白身を使って――バターソテーやフライなどを作ってあげて大喜びだった。
まだ気になることがあるが、落ち着いたときに話すとしよう。
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