330話 海竜の主
海竜は久々の通路だったのか警戒をしながら歩いた。
「本当にアイツらがいない……良かった……」
ひと安心すると、顔が緩み、大はしゃぎで走った。
「こっちです! 今日は主に会っていないから楽しみだ~」
『早くママに会いたくてしょうがない子だね~。ダンジョンマスターは母性があると信じているよ~』
またエフィナは変なことを……。
というか、その主は男の可能性はもあるだろう……。
まだ女と決めつけてはいけない。
一本道を進むと、急に海竜が足を止めて俺の後ろに隠れた。
「誰かいる……。近くに主がいる部屋があるのに……」
「ああ、俺の仲間だ。みんな早く着いたみたいだ」
みんなは青い大きな扉の前で待っていた。いろいろ聞いていたから待たせてしまった。
みんな無事そうで…………なぜか見覚えのある魔物がいるのですが……。
奥に見えたのは、5年前にカルムの近くに突然現れた災害級――魔物の覇者、ベヒーモスではないですか……。
ルチルと小人たちは背中に乗って楽しんでいます……。
「待っていたわよ~。あら、かわいいボクがいるけど、誰かしら~? かわいくて食べちゃいたい~」
「ひぃ!? 僕はおいしくないです! 食べないでください!」
トリニッチさんの熱い視線を海竜に送り、海竜は俺の袖をつかみ、ビクビクと怯えている。
やっぱりな……。しかし、分かれたあとより興奮しているのは気のせいか?
「冗談よ~。それよりもレイちゃん、この子、飼ってもいいわよね~? しっかり面倒見るからお願い~」
そうきましたか……。ルチルが連れてきたと思ったがトリニッチさんか……。
災害級の魔物をペットにするとは大胆にもほどが……。
普通ならアウトと言いたいところだが、トリニッチさんだしな……。
それに凶悪な魔物なのにおとなしいのは珍しい。
だが暴走しても…………大丈夫だな、俺たちが簡単に止められる。
魔物の覇者と言っても、俺たちの前では小動物みたいなものだな。
「しっかり躾ができるなら、いいですよ……」
「ありがとね~。良かったわ~ベヒジャミちゃん~、末永くお世話するわよ~」
「ガルゥ……」
ベヒーモスは怯えながらも返事をする。
なぜだろう、かわいそうに見えるのは気のせいか……?
深くは考えないことにした。
みんな海竜のことが気になるからボス部屋に入る前に事の経緯を話した。
納得してくれる人や呆れる人もいた。
特にフランカ組はアリシャたちが酷い目にあったらしく、フランカは経緯を話すと海竜が深く頭を下げて謝った。
「主に気をつけるよう言いますので、見逃してください……」
「まあ、次からしっかり管理しろよ」
「はい……」
いや、すぐそこにはダンジョンマスターがいるから海竜が謝らなくていいだろう……。
というか、また魔物が増えるから管理も何もないが……。
今後どうするか話を聞くしかないか。
「ここが、主がいる部屋です。どうぞ中に――」
海竜が扉を開けると――周りには噴水のように水が出ていて、奥には――玉座に腰をかけている。
長身のスレンダーで深青髪のセミロングでヒレの耳をした地上にいる姿の白いワンピースを着た美女人魚族だ。
『海神セイレーンだね~。海竜のボクちゃんの主は納得いくね~』
セイレーンって……。人魚族の多くが海の神として拝んでいるという神獣クラスの魔物じゃん……。
セイクリッドとよりは魔力は低いが、ダンジョンを広く作れるほどはあるか。
俺たちに気づくと、玉座の後ろに隠れて怯えている。
確かにこんな大勢で押し寄せくるのは無理もない。
「な、なんで人がここに…………り、リヴァちゃん!? ま……ま、まままま、まさか捕まったのぉ!?」
ああ……そう思うか……。
「違います、主、この方は――」
「あ、あたくしのかわいいリヴァちゃんを返しなさい――――ラララララ~」
「主それはダメ!」
海竜は慌てて言うが、セイレーンは無視をし、きれいな声で歌い始める。
確かセイレーンの声は惑わすほどの効力があると聞いたな。
だがきれいな歌声を聞いているだけで何ともない。
まあ、いろいろと加護があるおかげかもしれないが。
周りのみんなも平気だが――。
「ベヒジャミちゃん!?」
ベヒーモスはよろけて、気を失った。
さすがに加護がないとこうなるよな。
「な、なんで効かないの!?」
「あなた……よくも愛するベヒジャミちゃんを……覚悟はいいかしら……」
トリニッチさんは魔力全快で剣を抜いてセイレーンにゆっくりと近づく。
「ひぃ!? ち、違います! あなたたちを眠らせようとしただけです! 命を奪うことはしてませんから――!」
泣いて訴えているが、トリニッチさんは無反応だ。
まさか魔力暴走か!? 止めに入らないと――。
「お、お願いします! どうか殺さないでください! あ、主は僕を守るために行動を起こしました!
ど、どうか……お静まりください……」
海竜は大泣きして身体を震えながらもトリニッチさんの前に出る。
トリニッチさんは足を止めてた。あともう一押しか――。
「ベヒーモスは気持ちよく眠っているから大丈夫だよ!」
ルチルが言うと、剣を納めて魔力も正常になり、我に返ったようだ。
「あらやだ~。早く言ってちょうだいね~。ごめんなさい~怖い思いさせて~」
「「た……助かった……」」
セイレーンと海竜は肩の力が抜け、泣きながら抱きついた。
少し落ち着きを取り戻すと、海竜がセイレーンに俺たちのことを話して納得してくれた。
「ありがとう……邪魔な魔物を倒してくれるなんて良い人たちだわ……」
良い人でも何もないが、魔物を倒さないと進めないしな……。
「それで、また魔物が増えるが、どう対応する? また同じことの繰り返しになるぞ?」
「できれば……またお願いしてもいい? 自由にダンジョンに入ってもいいからお願い」
俺たちがダンジョン内の掃除をしてくれってことか……。
まあ、魔石が手に入るし、悪い条件ではない。
「わかった。たまに遊びに来るから歓迎はしてくれよ」
「あ、ありがとう! やっとリヴァちゃんとゆっくり暮らせるわ!」
「はい、主!」
お二方は再び抱き合い大喜びだ。
まあ、隣人が付き合いのいい隣が増えたことにしよう。
隣と言っても遠いが。
「ぬるすぎる……。これでもダンジョンマスターか……。お前たちそこに座れ!」
「「はい……?」」
「いいから座れ!」
「「はい!」」
「いいか、ダンジョンと言うのは――」
セイクリッドの言われるがままに正座をし、説教をくらう。
さすがの元ダンジョンマスターは許せない行為みたいですな。
ほどほどにしとけよ。
次の更新21日です。




