329話 それぞれの道⑦
海竜を治療させたのだが、ずっと泣きっぱなしである……。
『お願いします……僕と主を殺さないでください……』
っと繰り返し言っている……。
「わかったから、もう泣かないでくれ……」
『うぅ……』
ダメだ全然聞いてくれない……。
あの威勢はなんだったのだ……今は子犬のようにプルプルと震えている。
本当の性格は臆病なのかもしれない。
小人たちは飽きたのか、水の中に入って泳いでいるし、時間がかかりそうだな……。
「おい、小僧、いつまで泣いてる。小僧がめそめそしているうちに我の仲間たちが、その主と戦うことになるが、いいのか?」
『や、やめてください! どうか大好きな主を殺さないください!』
「だったら、質問に答えるのだ」
『はい……』
少々脅しになったが、話す気にはなったか。
『大好きなご主人って、やっぱり、甘えん坊な子どもだね~』
甘えん坊はともかく、俺が思っているほど幼いみたいだな。
「それで、お前の主はダンジョンマスターか?」
『はい、そうです……』
「俺たちと戦う気力はあるのか?」
「ただ追い払おうとしただけです……。主も戦いは避けています……」
小人が捕まったときにベラベラとしゃべっていたのは、早く帰らせるようにしたのか。
普通だったら攻撃をしてくるしな。
「戦う気がないなら、なぜ、お前の主はダンジョンを作った?」
『僕たちの安住の地にしました……。誰も来ない場所に主が作ったのに、まさか攻略者が来るとは思いませんでした……』
意外だな、セイクリッドと違い安住の地するダンジョンマスターもいるのだな。
確かに人がいないところに作れば自分たちの住処になる。
「だが、ほかの魔物は攻撃してくるが、主の命令か?」
『違います! そいつらは勝手に出てきただけです! 主は僕のためにダンジョンを大きくしたのですが、急に現れて僕たちを襲ってくるので大変困っています! 平和に暮らしたいだけなのに……』
ダンジョンマスターなのに管理できていない……。
安住の地とはいったい……。
『なんでダンジョンを作ってまで平和に暮らしたい? ほかにも安全な場所はあるだろう?』
「それはですね――」
海竜の話によると、物心がついた頃には、ダンジョンマスターと一緒に海で暮らしていたらしい。
海での暮らしは危険でダンジョンマスターは戦うのが苦手でいつも逃げていたという。
【ダンジョン生成】のスキルを覚えたらしく、陸に上がり場所を探していたら、この場所を見つけ、人も魔物もいなくていい思い、ダンジョンを作ったみたいだ。
それで平和に暮らせると思ったが、魔物は勝手に増えたりして、ここのフロアに閉じこもったまま自由に動けないという。
たまにだが、徘徊している魔物に見つからないようにしてダンジョンマスターと会う機会があるが、不便らしい。
ここに一緒にいればいいと言ったが、ダンジョンコアも管理しないといけなくて、一緒にはいれないと、逆に海竜がダンジョンコアのとこに一緒にいればいいとも言ったが、徘徊してくる魔物が怖くて移動できないみたいです。
ダンジョンマスターは不便ではないかと聞くと、海竜のためならと苦ではないと言う。
『重症だね~。甘々の甘ちゃんだね~』
エフィナ、楽しそうに言うのではありません……。
まあ、ダンジョンマスターと海竜は親子みたいな関係になっているから心配はするだろう……。
というか海の中で暮らしていたなら海竜の主は海系の魔物と確定した。
「まったく舐めている……。管理放棄で強者を望まないとは理解できん、そいつに説教をしてやる」
セイクリッドはご立腹のようで……。考えの問題だとは思うが……。
まだ気になることが――。
「セイクリッド、ダンジョン作った場所を変更はできないのか? ダンジョンコアの場所を変えたりとか?」
「そんなことはできんぞ、増やすことはできるが、変更は不可能だ。だがこことダンジョンコアの場所と繋げることは可能だ。なぜ小僧の主はそれをしない?」
『もう作れないと言っていました。多分ですが、魔力の問題かと……』
「じゃあ、コアを持って移動は可能だよな?」
「それもできぬ話よ、コアは決められた場所にしか置けん、どこかに持っていくと消えて元の場所に戻る」
いろいろとダンジョンの事情がわかってくるな……。
解決策を出しても無理ですな。
急に海竜がソワソワして落ち着きがないようだが。
「どうした? 傷が癒えてないところがあるのか?」
『ち、違います……そろそろ恐ろしい牛が来そうで怖いです……。水の中に潜ってもいいですか……?』
ああ、徘徊している魔物が来るってことか。
なんだ、問題は解決していた。
「心配しなくていいぞ、多分だが、俺たちの仲間が倒したかもしれない。隠れなくていいぞ」
『本当ですか……?』
「今ならコアがある場所――お前の主のところに安全に行けると思うぞ」
『ほ、本当ですか!? 僕が怖がらずに移動できるのですが!?』
「ああ、いたとしても俺たちが守るから案内をしてくれるか?」
『だけど……主に何もしませんよね……?』
「俺たちは興味本位でここに来ただけだ。お前たちに害がないことはわかった。挨拶くらいはしてしないとな」
『わかりました。僕からもお願いします。また主と一緒に寝られる楽しみだ~』
海竜は顔を赤くしてクネクネと身体を動かして喜んでいる。
まだまだ子どもだな。
挨拶と言っても海竜と一緒にいるダンジョンマスターは気になる。
セイクリッドやシエルほどの知性があるとは思うが。
『あっ、少し待ってください。身体を変えるので』
まさか【身体強化・変】を持っているのか。確かに移動するのに今の大きさは不便だよな。
海竜は身体を輝かせて、小さく――ん? 違うぞ、姿そのものが変わっている。
輝きが終わると、全裸の140㎝前後のヒレのような耳と海竜の尻尾がある水色髪ロングな男の子に変わった。
【人化】できるのか……。この海竜、思っている以上にすごいのかもしれない。
「では、ついてきてください」
「ちょっと待った。全裸はよくない、せめて布で隠してくれ」
俺は無限収納から全身を隠せるほどの白い布を出した。
「そうですか? 主は僕が全裸でも気にしていませんが? あなたたちの事情ならわかりました」
海竜は陸に上がり布で身体を隠す。
俺は問題はないが、特に一名ほど、猛獣のような目をして狙う人がいる……。
多分、大丈夫だと思うが、念のために隠させてもらう。
こうして、ここのフロアを出て、海竜に案内をさせてもらう。




