326話 それぞれの道④
ライカ視点になります。
皆と離れて十数分が経つ。
まだまだ一本道が続きそうだ。
急ぐこともないが……。
「「「ランランラ~」」」
「あら~気分がいいわね~」
子どもたちは上機嫌で歌いながら一緒に進んでいる。
遠足じゃないのだからもう少し周りを警戒してほしい……。
とは言っても儂が注意するほどでもないが、トリニッチには迷惑をかけてしまう。
「すまんな……うちの子が……こういう性格だから許してくれ……」
「いいのよ~。ダンジョンなんて一生入れるかわからないところだし~。楽しいのは当たり前だから平気よ~」
全然気にしていなかった。
というよりトリニッチも上機嫌だ。一緒に戦ってきているが今のところ厳しことは言わないで皆に優しい。
これが強い冒険者の貫禄ってやつか。
初めの印象は性欲の強いオネエで、子どもたちが食われそうと警戒していたが、そうではなかった。
礼儀正しく、紳士的だった。
ソウタの嫁? と聞いたときは驚いたが、皆と仲良くやっていれば別に構わない。
オネエであろうと仲間は仲間だ。
「前から気になっていたけど、ライカちゃんはソウタちゃんと奇妙な話をしていたけど――ヒコウキとかシンカンセンとか聞き覚えのないこと言っていたのは何かしら~?」
ソウタに飛行機と新幹線に乗ったことがあるか聞いただけだ……。
誰もいないところで話していたが、まさか盗み聞きしていたとは……。
「わ、儂が昔住んでいた場所に魔道具で作られた自動で動く乗り物に乗ったことがあるか、聞いただけだ……」
「なにぃ!? 自動で動ける乗り物なんてあるの!? そんなところ知らないわよ!?」
興奮させてしまった……。
言い切るしかないか……。
「辺境だからな……。そこらの人の知恵だから儂も知らない……。あの頃は魔物として村には入らなくて遠くで見ていただけだ……」
「そ、そうなのね……。ソウタちゃんは乗ったことがあるとか聞こえたけど、まさか……」
そこまで聞こえたのか……。
もう言い逃れするしかない。
確かソウタは精霊と契約した後遺症で記憶を失ったと設定して皆に言っていたな。
だったら――。
「ああ、知っていた……ソウタは記憶を失っていたとはいえ、儂と同じ知識を持っていた。もしかすると元同郷かもしれない……」
「えっ!? ライカちゃんと同郷なの!? あらやだも~それを早く言ってちょうだい~。ソウタちゃんに聞いてもはぐらかせれて困っていたのよ~」
「あそこは秘密の場所だ……その知識があると誰かに悪用されて大変な目に遭うからと、儂が内緒にしろと言った……」
「そうなのね~。もしかしたらソウタちゃんが故郷に帰ったら記憶が戻るかもしれないわね~」
「残念だが、あの村は旅に出ると二度と帰らないようにする風習があるみたいでな……。それにあそこの人らは部外者は立ち入り禁止で結界を張っているから無理だ……」
「そうなのね……。行きたかったわ……」
「逆に記憶を失ったほうが、ソウタには良いかもしれない。このことは内緒にしてくれないか……?」
「わかったわ……。それにしてもソウタちゃんはすごいところで育ったのね…………もしかしてワタシがソウタちゃんの子を生めば、知識のある子ができるかもしれない!」
何を言っている……。お主らは子を宿す身体ではないだろう……。
その前に子は知識は遺伝しない……。
「お主らは子を――」
「今日の夜はいっぱいがんばっちゃうわよ~。楽しみしててソウタちゃん~」
人の話を聞かずにスキップをして先頭に立ち進む――。
それはいつものことだろう……。
とにかく、ごまかせたらいいか。
儂らが日本から来た異世界人とは言えんからな。
すまんなソウタ、今日も干し柿のように干からびてもらうぞ。
これ、子どもたちもトリニッチの真似をして進むな……。
いくら優しくても失礼だぞ、まったく……。
――数分後。
先頭にいるトリニッチがスキップをやめて立ち止まる。
敵の反応があるな、大型の魔物3体ってことか。
「さて、遊びは終わりよ~。ここからは気をつけていきましょう~」
「「「は~い!」」」
トリニッチはミスリルの剣を抜いて戦闘態勢に入る。
魔力的にサハギンキングよりかは強そうな相手だが、子どもたちでも余裕で倒せそうだ。
だが、油断はできん、皆が危なかったら儂が前に出て刀の錆にしてくれる。




