319話 ダンジョン事情
周囲は霧がかかり、湿っている草むらに移動した。
ここから数百m離れている洞窟――黒色の扉が設置してあり、周りには、鋭い鋏を持った茶色のヤドカリと毒々しい尻尾を持った蠍が十数体いた。
「見慣れている魔物いるわね~。ウォールシザーにキラースコーピオンがいるわね~」
トリニッチさんは見慣れているのか、じゃあデストルツの近くにもいたのか。
「強さはどのくらいですか?」
「Aランクだよ~。みんな強いから大丈夫だけど、油断しないでね~」
確かにトリニッチさんの言うとおり油断はできない、霧で視野が狭いし――。
「かかれ~!」
「「「おお~!」」」
ナゴミが大声で言うと小人たちは一斉に襲いにかかる。
やっぱりそうなるか……。
ウォールシザーの鋏を切り、殻を蹴りで破壊し、キラースコーピオンは尻尾を切り、胴体を蹴り、数分もかからずに終わった。
まあ、予想通りの展開ですな。
「「「おわった~!」」」
「あら~待ちきれなかったの~。せっかちね~」
「すまんな、うちの子が……」
「いいのよ~。みんなダンジョン入りたいからね~」
ライカは謝るが、トリニッチさんは気にしていない。
こちらとしても時間が短縮して助かる。
しかし、Aランクの魔物が十数体いるのはおかしい。
「セイクリッド、どう思う?」
「恐らくだが、ここを長く占拠していると思うぞ。でないと強い奴はいない」
そうなるか、俺の領地からでもかなり離れているところだ。
人がここに来ることはまずない、長く住んで強い魔物を呼んだかもしれない。
中にいる魔物は油断はできないな。
「セイクリッドってダンジョンに入ったことあるの?」
アミナが質問してきた。
たまに勘が鋭いところがあるんだよな……。
「ハハハ! 昔はよくダンジョンに入って攻略していたからな!」
「すごい! セイクリッドがいれば余裕だね!」
「ハハハ! 任せるがよい!」
腕を組んで自慢げに言う。
なんとかごまかした……いや、セイクリッドのことだから本当かもしれない。
倒れた魔物を回収して、扉に近づく。
「我が扉を開けよう――――覇王斬!」
扉を一振りすると、粉々に砕け散って通れるようになった。
えぇ……普通に開けないのかよ……。
「軟弱な扉だな、もっと頑丈にしないのか。舐めている」
それはセイクリッドだけでは……?
ほかのダンジョンマスターの考え方がある……。
「シノちゃん連れてくればよかった……」
ルチル、残念そうに言うが、ここは遠足ではない……。
前は魔物のシエルは入り損ねたが、危険だぞ……。
いや、セイクリッドも魔物だ、もしかして魔物は入るの禁止だから扉を破壊しないと入れないのか?
いろいろとダンジョンの事情が明らかになっている。
「ここからは慎重に行くぞ! 儂の前に出るなよ!」
「「「は~い!」」」
さすがに強いとはいえ、未知の領域はライカも心配だな。
何があるかわからない。
経験豊富なセイクリッドが、先頭して、中に入り進む――。
ダンジョン内は広々とした洞窟だ。
最初のほうはセイクリッドが作ったダンジョンと同じだな。そうすると地下に繋がる階層あるはずだ。
変わっているといえば足が浸かるくらいの水――潮の香りがするから海水が流れている。
海系の魔物が出てくるのか? まだ足に浸かるくらいならいいが、深くなるのは厄介だ。
長身のセイクリッドが先頭なのは正解だな。
急に深くなって魔物が飛び出てきたら対象できない。
奥に進むと――さらに大きな広場に到着すると、無数の魔力反応がある。
セイクリッドは足を止めて剣を構える。
奥からとものすごいスピードで少ない水で泳いでくる――。
手には三又の矛を持った魚の顔をしたというか魚そのものをした足の生えた半魚人だ。
次々と出てきて、俺たちを逃がさないように後ろを取られて囲まれた。
「あら~Bランクのサハギンだわ~。やっぱりダンジョンは不思議よね~」
「サハギンって、人魚族が厄介者とされている魔物ですよね?」
「そうわよ~。魔大陸の海域生息して、陸にはあまり上がって来ない魔物よ~。見たことはあるけど、戦ったこともないからゾクゾクしちゃうわね~」
そう言ってトリニッチさんは興奮して魔力を多めに出す。
さすがに地上の魔物ではないから戦うのは初めてか。
なぜだろう……戦闘する目ではなくて獲物を取る目をしているのは気のせいだろうか……。
「作戦はありますか……?」
「ないわよ~。ワタシは久々に高ぶっているから好きにやらせてね~、みんなも好きなだけ暴れていいわよ~」
そう言ってトリニッチさんは先陣を切る。
「「「わ~い!」」」
小人たちも続いて行く。
それじゃあ好きに暴れてますよ――。
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