317話 女神のお願い
ライカが落ち着いたところでシャーロさんは亡くなった小人たちはここでゆっくりしていることを話すと、涙を流してホッとひと安心する。
「そうか……子どもたちが……ありがとう……」
「もう気に病むこともないから……安心して……」
そう言ってシャーロさんはライカの頭をなでる。
これで肩の荷が下りただろう。
顔もスッキリした様子で良かった。
シャーロさんが言わなければ、一生背負っていたかもしれない。
だからライカを呼んだのか。感謝しかない。
そのあとにライカはここに来たチトセはどのようなことを言ったのか詳しく聞く。
まだチトセのことは気になりますよね。
ティーナさんはいうと……無言でアイシスが作ったお菓子――プリンを食べ続けている。
日頃のストレスを甘いもので紛らわしていますね……。
『そんなに食べちゃ太るよ』
「毎日運動しているから関係ないわ」
『ふ~ん、運動ね~。少し横腹が肉がついているのは気のせいかな~?』
「なっ、それは前から気にしていることよ! エフィナったらデリカシーがないのだから……」
『ティーナが糖尿病になったら困るから言ってるのだよ。お菓子がおいしいからって食べ過ぎはよくないよ。控えてね』
「わかったわよ……」
いやいや、ここ天界ですよね……。女神が糖尿病になるのか……。
エフィナのことだから冗談だとは思うが……。
『それにしてもソシアは遅いね。本当にもうすぐ帰ってくるの?』
「おかしいわね……。そろそろ帰ってくるはずだけど……。どうしたかしら……」
ティーナさん深刻そうな表情をする。
用ってそんなに大変なことなのか……。
「私がどうした……? 帰ってきたぞ……」
「ちょっとソシア、大丈夫なの!?」
ソシアはフラフラと歩きながら戻ってきた。
顔色も悪く、呼吸が乱れている……。
「大変じゃない!? レイ、ソシアをベッドまで運んでちょうだい、案内するから!」
「わかりました」
「私は平気だ……」
そう言いながら気を失い、倒れそうになったところ、俺は支えてお姫様抱っこをし、ティーナさんの案内でソシアさんの家へ向かった。
大きな平屋の中に入り、シンプルにベッドだけが設置してある寝室にソシアさんを寝かせる。
『用って、勇者召喚のゲートを塞いだ?』
やっぱり用ってそのことか……。
「隠すつもりはなかったけど、そうよ……。異変に気づいてソシアは見に行ったのよ……。今回は危なかったみたいね……。今の帝国はそんな力がないのに……」
「今回はそうもいかなかったぞ……」
ソシアさんは目を覚まして起き上がるが、身体はよろけたままだ。
「寝ていなさい! 心配しているのよ! 安静してなさい!」
「すまない……。せっかく会いに来たのだから元気な顔でいようとは思ったが、こんなに悪くなるとはな……」
『そんなことはいいよ。しっかり休んでね。今回はそんなにやばかったの?』
「ああ……。レイ君が言っている邪石の力を借りて無理やり召喚しようとしているようだ……。それでも私のほうが上だがな……」
邪石を使ってまで勇者召喚したいのか……。
そう考えると魔王の排除ではなく、内戦――冒険者ギルドの排除か……。
情報では冒険者ギルドが有利だしな。
切羽詰まっているな。
「大丈夫なの……。得意じゃないけど、アタシがゲートを塞ぎに行こうか……?」
「その必要はない……。念入りに封印をした……2、3年は大丈夫だろう……。それで帝国が崩壊すれば私たちの勝ちだ……」
なるほど、ソシアさんは冒険者ギルドに託しているな。
だから無理をしてまで止めたのか。
『まったく無茶して……。まあ、これが最後の仕事ならソシアはゆっくりできるね』
「ああ……そう願う……。レイ君に伝えたいことがある……」
「なんでしょうか?」
「帝国には関わらないでほしい……。これ以上君たちに悲しい思いをさせたくないからだ……。だから帝国の崩壊を待ってくれないか……? 私からのお願いだ……」
まさか俺たちにまで気を遣わせてくれるとは……。
仇は取りたいが、女神様に心配されるとどうも調子が狂う。
…………みんなの幸せが優先だな、ソシアさんの言うとおりする。
「わかりました。ですが、俺の領地に現れたら容赦はしませんよ」
「それでいい……。まだ疲れがあるから寝かせてくれ……。次会うときは特大のケーキを作ってほしい……」
そう言ってソシアさんは眠りついた。
『お疲れ様。ソシアも頑張ったね。終わったら毎日特大のケーキ持ってくるよ』
エフィナさん、また勝手なことを……。
確かに帝国が崩壊すれば特大でもなんでも持っていくが。
冒険者ギルドは有利、女神の勇者召喚の封印は帝国に取って破滅に向かっているようにしかない。
時間の問題だ。
俺たちに気を遣っているソシアさんに感謝しかない。
世界平和になったらみんなで盛大に祝おう。




