295話 お世話になった村
――翌日。
魔王城を出る日となった。
魔王たちは城内の庭で見送ってくれる。
運送屋のハーピーたちも準備もできていて、いつでも行ける。
「話足りないぞ! ソウタだけでもいいから残ってくれ!」
「悪いが魔王、俺も忙しいから、またあとでだ」
「しょうがない……今度は余裕があるときに来てくれ! オレも暇ができたらレイの領地に行くぞ! それまで通信機で我慢してやる!」
王様からもらった通信機で登録をしたし、簡単に連絡ができる。
だが、通信機に魔力消費するから長くは連絡はできない。
それと、遠いからさらに多めに消費する。
ソウタくらいなら余裕で1時間は話はできると思うが。
まあ、俺とメアがここに「ゲート」で移動できるようになったから、いつでも行けるけどな。
その「ゲート」の問題でいろいろとあったが、引き止めはしないで諦めて良かった。
本当に大変だった……。
昨日の夜のこと、サイガさんから元料理長――カーリーさんが俺の領地に行くことを話すと、魔王は頭を抱えるほど落ち込んでいた。
しまいには俺の領地に引っ越すとか言い出し、言うことを聞かなかった。
「ゲート」ですぐに移動できるからと説得すると、「毎日来い」「オレも連れていけ」と言われる……。
長時間いろいろと説明して、顔を膨らしながらも説得はできた。
朝は機嫌をとるために俺とメアで料理――カレーを作り、食べさせると上機嫌になった。
意外にチョロかったです。
「みんなじゃあねー」
結局シャーロさんは俺たちが滞在するまで一緒にいてくれた。
天界に帰ったら大変だろうな……。
「お忙しいところありがとうございました。転移魔法があると言えど、無理せずお越しください」
サイガさんはお辞儀をし、丁寧に見送りをしてくれる。
魔王のワガママに付き合っているサイガさんもご苦労様です。
俺たちはゴンドラに乗り、ハーピーたちがついている鉄筋をつかみ、空高く飛び、魔王たちは手を振って見送ってくれた。
なんだかんだ大変だったが、楽しかった。
魔王はワガママではあるが、民思いで優しいところもあって憎めないところがあった。
魔王には聞きたいことがありすぎだが、またの機会にしよう。
メルシャンを離れると気が楽になり、力が抜ける。
次はソウタが長い間お世話になった村――ロールへイスに向かう。
メルシャンから南東1000㎞以上離れている場所で夕方前には着く予定だ。
ソウタとプロミネンスは久々に行くからテンションが上がっている。
俺は朝食を作りで早かったから寝不足だ。というか滞在中、寝不足だった……。
楽しみにしているところ悪いが、仮眠をとらさせてもらう。
睡魔に襲われて、ゆっくりと眠りにつく――。
――メアに起こされると、もうすぐで着くらしい。
窓から外を見ると、周りは一面の森だ。
「村があるとは思わないが……」
「そう思うけど、窓を開けて前を見てくれ」
ソウタの言うとおり、窓を開けて真っ正面を見ると――平たく盛り上がった丘が見えた。
「あそこに、お世話になった村がある」
「寝ていてわからなかったが、あの村から近くの街はどのくらいある?」
「ここからだと200㎞以上はあるな」
「そうなると自給自足の生活だな」
「そんなこともないぞ。周りには上質な薬草が採れるから商人と取引をしている。街から遠いが、それなりに豊かな生活をしている村だ」
「私の自慢の故郷よ! 薬草なんてどこでも採れるからね!」
プロミネンスが胸を張って言う。
そうか、精霊が住むほどの居心地がいい場所で上質な薬草が採れてもおかしくはないか。
「もうすぐで着くぞ、皆、俺のことを覚えていればいいのだが」
ソウタは嬉しさもあるが、不安もあるみたいだ。
まあ、エルフだけの村で精霊と一緒にいる人間を忘れるわけがないと思うが。
丘に入ると、周りは草原が広がり、その中に畑や家が建てられている。
「村の入り口前には降りてくれないか?」
ソウタはハーピーに指示して、木の柵作られている入り口前に降りる。
ハーピーが来たことがわかると、中から次々とエルフ、ダークエルフが来る。
ゴンドラからソウタが顔を出すと、エルフたちは驚く。
「ソウタ……ソウタが帰ってきたぞ!」
その声でエルフたちはソウタとわかると近くに寄る。
「ただいま、俺を忘れていないかと不安だったよ」
「忘れるわけがないだろう! 誰か、長老を呼んできてくれ!」
みんなに歓迎されながらソウタは嬉し涙を流していた。
邪魔してはいけないし、ハーピーたちにお礼を言って解散させる。
さて、興奮が収まるまで俺たちは待機だ。
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