3話 明日の準備
14年が過ぎた――。
朝起きて階段を降り、食堂に行き、スールさんのテーブルに座った。
「おはようございます、レイさん。調子はどうですか?」
「おはようございます、スールさん。体の方は全然大丈夫です」
「ならよかった」
昨日は、スールさんと一緒にDランクの魔物、ブラックウルフの討伐に参加した。
素早い敵だったが、スールさんの助言のおかげで苦戦せずに討伐できた。
「まだランク外なのに、こんなに強くなるなんて思いませんよ……」
「ギルドのみんなの教え方が良いんですよ。すみません、いつものお願いします」
そう言いながら、朝食を頼んだ。
この冒険者ギルドでは、15歳になればギルドカードが取得できる。
しかしまだ14歳だから取得はできないが、魔物の売却はできる。
そのおかげで、この年齢で金貨10枚(200万円)、大銀貨5枚(50万円)、銀貨52枚(52万円)、大銅貨237枚(23万7000円)、銅貨1000枚以上(10万円以上)、小銅貨などを持っており、いわば小金持ち状態だ。
もちろん大金だからアイテムボックスに入れている。
本当に便利でありがたい。
「はい、いつものやつね」
パンとブラウンボア肉の燻製、ホワイトバードの目玉焼き、野菜スープ、オーレジュースが来た。
「ありがとうございます」
食堂のお姉さん? が朝食を運んできた。
運んできた人は40代後半みたいだけど、魔力の質が良いからか、良い若さを保っている。美魔女にしか見えない……。
そういえば、ザインさんは今年で91歳になるらしいけど、30代前半にしか見えない……。
スールさん曰く、500歳は余裕で生きるとのこと。さすが、ギルドマスターだけのことはあり、長生きしますね……。
しかし相変わらず、ここの朝食は美味しい。ブラウンボア肉の燻製は最初、イノシシの肉だからクセが強いのかと思っていたけど、元の世界のベーコンと同じ味で美味しい。
ホワイトバードの目玉焼きは濃厚な鶏の卵を食べている感じで美味しいし、パンは少々固いが、野菜スープに付けて食べているから問題ない。
そして、オーレジュースはオレンジジュースみたいで美味しい。
これで銅貨4枚(400円)で食べられる。朝食としてはかなり贅沢だ。
この世界に来て、食べ物に困ったことは今までない。
ただ、日本食や甘いものが恋しい。
醤油、味噌は自分で作ればなんとかなるけれど、米や生魚はこの街にはない。
あとで行けばいいか。そして、問題は甘いものだ。
元の世界では趣味としてお菓子作りや食べ歩きを楽しんでいたが、ここでは砂糖が高すぎる。1㎏で銀貨1枚(1万円)もする。
自分のポケットマネーで余裕で買えるけれど、流通量が少ないからすぐ売り切れてしまう。
蜂蜜もあるが、こちらは1㎏が大銀貨1枚(10万円)という破格の値段だ。蜂蜜は普通に買えるけれども、その価格が高すぎてお菓子作りに使うのに抵抗がある。
街にはお菓子やケーキの専門店もあるが、高すぎて毎回買えるものではない。特別な時しか買わないくらいだ。
我慢できずに蜂蜜を買って、みんなに内緒で蜂蜜ミルクにして飲んでいる。今のところこれで甘いものを紛らわしている。
いずれはチーズケーキ、ガトーショコラ、デコレーションケーキ、焼き菓子などを作っていきたい。
「ところでレイ、そろそろ私をお父さんと呼んでもよいのでは?」
「それは言わない約束ですよ」
「そうですか……」
スールさんはしょんぼりした。まあいつものことだ、父さんと呼んでほしいみたいだ。
確かに育ててもらったから父親同然なんだけど、スールさんはどう見ても20代前半のイケメンお兄さんにしか見えないから言うのに抵抗がある。
「だったらレイ、俺を親父って呼んでいいんだぜ」
「ザインさんも抵抗があります……」
ザインさんも入ってきた。
「いいえ納得いきません、ザイン! 私がほとんど世話したので私が父さんです!」
「それを言うなら俺だってお前がいない時は俺が面倒見ていたぜ! それに教官として基礎的な事も教えたから親父同然だな!」
「私は魔法と知識を教えたから一歩も譲れません!」
ギルドのみんながまた始まった、みたいな顔をしている。俺、スールさん、ザインさんがいるといつもこうなる。
別に仲は悪くないけどやっぱりお互い譲れないらしい。
さて、そろそろ来るかな。
「はい、2人ともそこまで」
いつも通り、リンナさんが駆けつけてきた。小柄ながらも2人を抑え込んだ。
相変わらず10代後半の美少女にしか見えない……50代前半みたいだけど。もう年は取らないとか言っていたな。恐るべしエルフ……。
「今日はこのくらいにするか」
「そうしましょう」
いつも見ているが、コントをしているようにしか見えない。
「ところで、レイ君、今日は暇かな? 在庫整理をお願いしたくて」
「午前だけでもいいですか? 明日の準備をしたいので」
「それで良いわよ。明日の準備って何?」
「昨日、スールさんとブラックウルフと一緒に狩ったので、次は1人で狩りに行こうかと」」
「気が早いわね。そんなに急がなくてもあなたは十分強いのだから、ゆっくりしてもいいのに」
「できることは早めにしたくなる性分なので、それに成人する前に資金を蓄えないといけません」
「まさかレイ! 成人になったらこの街を出るのですか!?」
スールさんは慌てた様子だ。
「違いますよ。成人になったら一人暮らしをしたいので、資金が必要なだけです。それに、この街とギルドには恩があります。街を出ることは考えていません。ただ、欲しいのがあれば、少しだけ旅はしますけど」
「それならよかった……レイはいつも先のことを考えて、驚くばかりです……もしかして、本当に賢者の末裔かもしれませんね」
「いや、いつも言ってますけど、俺は賢者の末裔ではありませんよ」
このことで街中に噂されている。このプレシアス大陸では、捨て子はあまりいないらしく、捨て親が見つかれば厳重に処罰されるらしい。それに、俺は既に初級の魔法を全て覚えている。さらに、物覚えが良く、明らかに森の中に置かれたのは不自然だ。何らかの理由で賢者が置くしかなかったという噂が立ってしまった。
それを聞いて恥ずかしいです……ただの異世界転生した一般人ですよ。ただ強くてニューゲームしただけです……そんなことは言えず……。
10歳ころに称号に【神童】が消え【賢者の末裔?】になった。
疑問系かよ!? とツッコミを入れてしまった。
まあ、変な風にいじられたりしないからいいのだけど……。
「別に成人になって一人暮らししなくても、部屋を借りてればいいのによー」
「それだと迷惑をかけてしまうのではないかと思いまして……」
「迷惑どころかむしろ助かっているぞ! 在庫の整理はアイテムボックスで短縮するし、食堂では料理を手伝ってくれるし、どこが迷惑だ? 本当なら頼ってほしいところだけどな」
「恥ずかしいからやめてください……」
「まあなんせ、俺たち家族だからな! ということで、俺をおやじと呼んでくれ!」
「またそんなことでレイを誘導する気ですか!」
「はいやめ! ギルド長は仕事がたまっているので速やかにお願いします」
「わ、わかったよ……」
リンナさんはザインさんの扱いがとてもうまい。さすが、長い付き合いだけはある。
ザインさんは部屋に戻った。
「ではレイ、私は依頼があるからもう行くね」
「行ってらっしゃい、スールさん」
「レイ君、朝食を食べ終わったらよろしくね」
「わかりました」
こんな感じで日常は続いて、毎日が楽しく幸せな日々だ。ティーナさんには本当に感謝している。
朝食を食べ終え、さて、歯を磨いて在庫の整理でもしますかな。
この世界ではもちろん歯磨き粉はない。しかし、薬草を練り合わせたものを使って歯を磨く。ミントっぽい感じで全く違和感なく、歯を磨ける。歯を磨き、顔を洗い、鏡を見た。
前世の自分とは似ているが、明らかに顔が中性的になった。自分で言うのもなんだけど、かなりイケメンになった感じだ。
まあ、この世界は美男美女が多いから、普通かな……。
そして、リンナさんに頼まれた在庫の整理を始める。換金対象の素材や書類の移動をする。大人数で3時間かかるところを、アイテムボックスを使って移動させると、1時間で済ませることができる。。
「これで終わりだ」
「ありがとう、レイ。今日のお礼よ」
「ありがとうございます」
リンナさんから大銅貨2枚(2000円)もらって部屋に戻り、明日の準備をする。食堂でサンドイッチを作ってもらい、それを食べながら地図を確認したり、アイテムボックスの中のポーションやマナポーション、食べ物を確認したり、防具の手入れをしたりする。アイテムボックスは便利だが、唯一の欠点がある。
時間が経過してしまうことだ。
食べ物をそのまま放置すると、腐ってしまうから基本的には干し肉、香辛料、塩、保存のきいたものしか入れていない。
ふと思ったけど、醤油や味噌はアイテムボックスを活用して作れるんじゃないかなと思った。あとで試してみよう。
そうしている間に夕方になった。今日はスールさんが遅いみたいだし1人で夕食を食べるとするか。食堂に行き、夕食を頼む。
パン、ホーンラビットの香草焼き、野菜スープ、ミルクを頼んだ。これで銅貨7枚(700円)である。
ホーンラビットの香草焼きは肉が柔らかく、ジューシーで本当に美味しい。満足のいく夕食だった。
そしてシャワーを浴びて、明日は早いから早めの就寝――。
明日が本当に楽しみだ。
通貨
小銅貨1枚:20円
銅貨1枚:100円
大銅貨1枚:1000円
銀貨1枚:1万円
大銀貨1枚:10万円
金貨1枚:20万円
大金貨1枚:100万円
白金貨1枚:1000万円 と設定しています。