288話 魔王
夜なのに灯りをつけず、窓からの月光の灯りだけ。
薄暗いなか、退屈そうに大あくびをしながら玉座に座っている――薄着で露出の多い、山吹色のスーパーロング、瞳は黒と黄色のオッドアイの小柄な美少女竜人だ。
魔王だから男のイメージだと思ったら少女か。
見た目で判断をしてはいけない、膨大な魔力が持っている。他の人と比べられないほどに。
はっきり言って敵に回したくない相手だ。
『いや~、久々に見るけど変わらないな~』
そうか、エフィナは天界にいた頃、魔王を見ることがあるか。
というかこの魔王何歳だ?
精霊たちは魔王を見ると――。
「問題ないわね」
「問題ない……」
「問題ありません」
どこを見て言っているのだ……。
「残念すぎるほど絶壁ですわね……」
メアもか……。
「あの……魔王様は小さいことを気にしているので、言うのはお控えください……」
「なるほど、わかりました……」
メアは不気味な笑み浮かべる。
弱みを握ったと思ったのか……。
頼むから変なことはしないでくれよ……。
気づいたのか玉座から立ち上がり、指パッチンをすると――周りが明るくなった。
笑顔で向かってくる。
「首を長くして待っていたぞ! お主らがスタンピードを終わらせた…………女神の加護持ちだと!? しかも3人も!?」
魔王は急に眼の色を変えて、その発言に配下は驚く。
あっ、加護持ちってわかるのか……。
3人と言ったな……シャーロさんはわかるが、ソシアさんとティーナさんの加護もわかるのか……。
3人の女神に会ったことがあるのか?
「ほう……だから女神に好かれるほどの強さか……。スタンピードを終わらせるわけだ……」
1人で納得している。
あれこれ言わないからまだいいが。
「魔王様、挨拶を……」
「そうだったな。 オレはフリール魔大陸を統一する魔王――アンバー・エル・イフドラーだ! スタンピードを終わらせたこと感謝している! 長旅だったろう? ゆっくりオレの城で泊まって休んでくれ! 話したいことが山ほどあるからな!」
ん? ディナーだけの話だが、泊まるのか……?
「それで? いつまで泊まっていく? 長くいてもいいぞ!」
「魔王様……恩人方は忙しいので……困らせるわけには……」
「気が変わった! 気に入ったからだ! 名はなんだ?」
まあ、2、3日は泊まっても大丈夫か、それ以上は無理だが。
俺たちは魔王に挨拶をすると――。
「お主が元凶を倒したレイか! 良いぞ! ただ……気になることが……そこのお主――」
魔王がメアに指を差す。
「なんでしょうか……?」
「メアと言ったか? お主は吸血鬼なのか? 見た目は吸血鬼だが、何かが混ざっているな? 混血とはまた違う」
見抜いたか……。
サイガさんとエンデさんは思わず「えっ!?」っと声をあげる。
さて、この状況でどうやって言い訳するか……。
いたってメアは普通――いや、にやついている。
「ワタクシは正真正銘の吸血鬼です……。ただ……住んでる世界が違うだけですわ……。ワタクシは主様に召喚された契約者でございます……。この世界の吸血鬼とはまったくの無縁です……。期待通りのお答えはできません……」
「本当か? 噓をついているようにしか思えん」
「本当ですわ……。噓をついても何も特になりませんこと……」
魔王はメアをジッと見つめ、疑っている。
信用されていないな……。俺も魔剣とバラしたくはない。
察したのか、ため息をついて――。
「その性格、オレが知っている吸血鬼と同じで腹が立つな。まあ、よい。そんなとこにしておくか。
それよりも、レイ素晴らしい魔力を持っているな」
俺に近づき――俺の顔を両手で触る。
俺を見つめると、興奮して息が荒いのですが……。
「レイ、子どもはほしくないか?」
…………はい? 何言ってんだこの人……。
「今のところないです……」
「なんと、オレの美貌でも平気とはな。もっと顔を赤くしてもいいぞ」
顔はかわいいとは思うが、ドン引きです。
「胸が絶壁な方に主様が欲情しませんこと……」
「黙れ小娘! 胸なんて関係ない! 愛があれば関係ない!」
メアは鼻で笑い、魔王は睨みつける。
禁句って言っただろう……。
サイガさんとエンデさんは汗がダラダラですよ……。
というか今の発言で愛は関係あるのか……。
「レイよ、単刀直入に言うぞ、オレは強い男が好きだ。だからお主の子がほしい」
本当に単刀直入だな!?
強いって……魔力が強いってことか?
「魔王様がようやく好きな人が……」
「やっと後継者が……良かった……」
ちょっと待て!?
俺は何も言っていないぞ!? 側近の2人、泣くな!
「魔王さん……俺は第一王女と婚約しているのでお断りします……」
「オレはそんなの関係ないぞ。ただ、レイの子どもがほしいだけだ」
そっちかよ!?
それが一番困るんだよ!?
「お主ら、夕食前にレイを借りるぞ。食前の準備運動をしてくる」
だから勝手に決めるな!?
誰か……魔王の暴走を止めてくれ……。
『まったく、性格も変わってないね。レイを困らせるんじゃあないよ!』
エフィナの発言で魔王が固まった。
念話を送ったのか……。
「その声は!? レイ、お主……あやつがいるのか!?」
驚いてそのまま俺の身体をペタペタ触る。
この感じ、エフィナも知っているか。
すると膨大の魔力――【威圧】をメアが出している。
周りは一瞬ゾクッとして汗がダラダラですよ……。
メア……大丈夫だからやめてくれ……精霊たちが怯えているぞ……。




