278話 協力者
――昼過ぎ。
王様の言う通り客間で待っていると――。
「待たせたね」
王様と魔法学校の制服を着た髪を縛っている黒髪の青年と首にマフラーをしているリス型の小柄な女獣人と女性同様に首にマフラーをしている犬型の大柄な男獣人だ。
この3人がズイールで信頼できる人なのか?
それに2人は獣人だ、ズイールでは一番差別されているはずだが。
「この子がスタンピードを終わらせた賢者のレイ君だよ」
王様が俺の紹介をすると、3人は床に膝をついて――。
「我々――ズイールの者たちが卑劣な行為を! 本当に申し訳ない! 大切な仲間を失ったこと深くお詫びしたい!」
いきなり謝られた……。なんで?
「陛下、この3人は?」
「帝王の息子――第二王子のフレリット・レグナム・アデルバート君と従者である男の人がワイアットで女の人はロディだよ」
帝王の息子かよ!?
なんで王都にいる!? 獣人を差別しているのに従者に? いろいろと疑問がある……。
「と、とりあえず頭を上げてくれ……。なんで帝王の息子が王都に……?」
「驚くのは無理もないよ。帝国――帝王のやり方に反対してね。表向きは魔法学校への留学で、王都の機密を探るために来た名目だけど、その裏では僕に帝国の情報を教えてくれたりするのだよ」
二重スパイってことか。
よくもまあ、帝王の許可をもらったものだ。
バレたらズイール――帝国に帰れないのでは?
「だから息子に相談ですか?」
「そうだよ。今後のためにね」
「賢者殿、私の力不足で……本当に申し訳ない!」
「なんでそこまで謝るのだ? 息子といえどもこの件は関係ないぞ……」
「いえ、関係はある……。前にハチミツを生産する村を襲ったと聞いて、父上に止めるように連絡をした……。けど、何も返答もなく終わってしまった……。そしてまた繰り返し愚行を……私の力不足だ……」
なるほど、説得しても無理だったのか。
責任を感じているようだが、関係はないな。
「王子が背負うものではない。だから頭を上げてくれないか?」
「それでも……私は……」
「この話はいったん置いといて、話を整理しよう」
王様がキリがないとわかり、無理やり終わらせて王子はイスに座った。
2人の従者は立ったままだ。
というか従者も話に加わってもいいのか?
「まずは邪石の件だけど、フレリット君は心当たりはある?」
「いえ、まったく存じ上げない……。そんな得体の知れない物を作っているなど、聞いたことも見たこともない……」
王子も知らないってことは最近作られたことか。
「ちなみに王子は何年前に王都に?」
「5年前からだ。それ以来ズイール――帝都に帰っていない……」
5年もか……十分可能性はあるか。
「その邪石だけど、開発できる人はいたかい?」
「わからない……。いたとしても父上が私に紹介するわけがない……」
開発した奴は王子がいなくなった後に雇った可能性もあるな。
ハチミツ村と小人の村を知っていた。その前に偵察か何かをしていたはず。
ベースンは実験のために攫うとは言っていたな……まさか自分の目的のために帝王を利用している可能性もあるか。
「フレリット君が知らないならしょうがない。困ったな……」
「予想外の出来事だ……。厳しい道のりだ……」
2人は深いため息をつく。
厳しい道のり? 何か計画しているのか?
「そうだね。一からやり直しだね」
「はい、何年経とうが、やってみせる」
「あの……2人だけで話を進めているのですが……」
「ごめん、ごめん。勝手に進めて。フレリット君、賢者御一行にも言ってもいいかな?」
「賢者殿たちなら大丈夫だ。問題ない」
「わかった。これから話すことは内緒にしといてね。僕たちは壮大な計画な計画をしているのさ――フレリット君を帝王にさせる計画をね」
「えっ? 王子だから王位継承は決まっているのではないのですか? いや、まさか……」
「察しの通り、フレリット君は第二王子だから第一王子に継承は確定だよ」
やっぱり第一王子が優先となるか……。
「それはわかりましたが、なんでフレリット王子を帝王に?」
「私は腐り切っている大陸を立て直したのだ! あの大陸は異常すぎる……。貧富の格差、人種差別……。小さい頃から嫌ほど見てきた! だから私はプレシアス大陸と同じように差別のない、奴隷もいない豊かな大陸したいのだ!」
王子は涙ながら熱く語る。
後ろの従者もそれにつられて泣く。
理解したが、大丈夫なのか?
まだ俺と同じくらいな青年にできることなのか?
たとえ王になっても法を変えるとか反発する奴もいるはずだ。険しく道のりではなく、茨道だ。
甘い理想論だ。
これが実現すれば、この世界が平和になるのは確かだ。
王様も協力しているからこの王子に託しているってことだよな……信じていいのか?
『とんだ甘ちゃん王子だね~。まあ、悪い話ではないね。ボクは甘ちゃん王子に期待しようかな』
ズイール嫌いのエフィナさんが推している。
それで平和になればティーナさんたちが安心するか。
「『信じていいのか?』」
『噓は言っていないとは思うよ。まあ、甘ちゃんだから時間はかかるとは思うけどね』
まだ先の話にはなるな。それで変わるのなら俺も期待はしよう。
「フレリット王子、王になるとは言っても帝王に反乱する意味にもなる。実の親――身内にも戦う可能性があるけど、大丈夫なのか?」
「賢者殿、私は絶対に王になると決めている。その覚悟はある」
意外に肝が据わっている。
そうでなければ王にはなれないか。
「頑張ってくれ、俺も応援しているから」
「お心遣い、感謝する。私が王になれば賢者殿の仲間に下劣な行為した愚か者を見つけ、絶対に処刑してみせる!」
ありがたいが、できれば俺の手で葬り去りたいけどな。
「ということだよレイ君、もし準備ができたらみんなを集めて協力してね」
王様は笑顔で言う。
えぇ……俺たちも反乱に参加するのですか……。
いや、むしろ好都合か。
みんなの仇が取れるチャンスだ。
邪石を作っているゴミを掃除できる。
「わかりました。その時は早めに言ってくださいね」
「ありがとね」
多分、王様は俺が仇を取ることをわかって参加させようとしているのか?
まあ、王様は王様で食えない性格をしている。
その協力乗るけどな。俺もその反乱を利用してやる。
「賢者殿が参加だと!? スタンピードを終わらせた英雄がいるとなれば大変心強い! 感謝しかない!」
王子は大喜びして俺に握手をする。
まあ、悪い人ではなさそうだから今後、長い付き合いになりそうだ。
「ところで、王子はその制服――魔法学校に通っているみたいだけど、普通に通わなくてもいいのでは? ズイールから離れているから監視の目もなさそうだが、やっぱり見張りでもいるのか?」
「賢者殿……私は希望して学校に通っているのだよ……ただ……」
王子は息が詰まる。
従者も下を向いた。
何かしら理由はあるみたいだな。
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